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乙女ゲームのヒロインに転生しましたが、恋愛ルートを無視して自立します  作者: 佐藤みさき


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4/7

おもしれー女をやってしまった

 正面(げん)(かん)から外に出て、馬車通学組にまざり、学園の馬車留め場に歩いて行く。


 さて、もしも(おと)()ゲームシナリオどおりの展開が起きるとしたら、このタイミングで(こう)(りやく)対象全員が(せつ)(しよく)してくる。(こう)(りやく)対象は全員学年が上なので、ヒロインと同じクラスにはいないのだ。

 ゲーム的に考えれば、(こう)(りやく)対象ご(しよう)(かい)フェーズのお時間である。


 そして、悪役(れい)(じよう)転生小説の筋書きどおりの展開が起きるとしたら、このタイミングで、転生主人公が(もの)(かげ)からわたしを観察する。(こう)(りやく)対象たちがヒロインとどう(せつ)(しよく)するか、自身の(こん)(やく)(しや)である王太子とどのような様子を見せるか、(かく)(にん)するためだ。


 さあ、どうなる?


 わたしは、周囲をすばやく目だけで(かく)(にん)しつつ、やや早歩きで馬車留め場に向かった。二次元イラストと生身では、まったく印象がちがうだろう。どれが悪役(れい)(じよう)? どれが王太子? どれが(こう)(りやく)対象たち?

 ……だれも(せつ)(しよく)してこない。スピーチの(えい)(きよう)で、こちらに向く(こう)()の目はいくつかあれど、「これぞ(こう)(りやく)対象」「これぞ悪役(れい)(じよう)」といえる人物は見つからず、話しかけられることもない。

 欲をいえば、ヒロイン視点シナリオや(れん)(あい)ルートを熟知した『小説(じゆん)(きよ)の転生悪役(れい)(じよう)』に(せつ)(しよく)できたらよかったけれど、(こう)(りやく)対象に(せつ)(しよく)されず初日をやり過ごせたなら、(ぎよう)(こう)だ。


 わたしが(いく)らか安心し、速度をゆるめて歩き始めたとき、それ――いや、()()()を見つけた。


 馬車留め場に向かう道の()(ちゆう)、小さな広場か公園のようなエリアの横を通りがかったとき、そこに何やら人だかりがあって、(にぎ)やかことに気付いた。なんの集まりだろうと目を向けると、その人だかりの中心に、()()

 ()(ちが)いない。この人たちこそ、『(しら)()()の聖女と(げつ)(けい)(かん)(こい)(うた)』の(こう)(りやく)対象たちだ。そして、一人だけ混ざった(はな)やかな女子生徒こそ、かの悪役(れい)(じよう)にちがいない。


 その人たちは、ゲームのエフェクトじみたキラキラを、実際にまとっているように見えた。あきらかに、他の男子生徒たちとは別格だった。王太子のウィリアム――いやユリウス? エドワード? レオンハルト? セシル? なんだっけ――とにかく王太子殿(でん)()を中心に、側近たちと、くだんの悪役(れい)(じよう)らしき美少女がいる。

 彼らは、お近づきになろうとする男女の生徒たちに囲まれ、いそがしそうに対応している。まだわたしに気付いていない。

 チャンスだ! このまま通り過ぎてしまえば、後続の(れん)(あい)フラグもおおむね無効化されるはず!


 わたしは、何事もなかったように視線を進行方向に(もど)し、静かにその場を立ち去ろうとした。


「あ、キミ! コレット・ルブラン(じよう)!」

「ぴゃあっ!!」


 ビクン! と身体が()()がり、なさけない悲鳴をあげてしまった。

 ギギギ……と、さびた金属が(きし)む音のしそうな動きで、わたしはゆっくりと、声の主を探して()()いた。


 王太子だ。ちきしょう! 見つかった!

 目がばっちり合い、手まで大きくお()りあそばされている。

 そういえば、前世でもステルスゲームは大の苦手だったな……。


 わたしは(せつ)(しよく)(かい)()(あきら)め、とぼとぼと(かれ)らの元に向かった。貴族にしろ平民にしろ、国家権力の不興を買うわけにはいかない。

 カバンを持っているから片手だけで軽くスカートをつまみ、(しゆく)(じよ)の礼でご(あい)(さつ)をする。


「コレット・ルブランが、王太子殿(でん)()にご(あい)(さつ)申し上げます」


 名前を思い出せないが、軽々しく名前を呼んではいけないマナーがあって助かった。


「顔をあげて。そんなに(おび)えなくても、取って()ったりしないよ」


 おもしろがっている(こわ)(いろ)でそう言われ、わたしはおそるおそる礼を解き、目を上げた。

 推定(こう)(りやく)対象の(みな)(さま)、そろって良い()(がお)。顔がいいから(かがや)きがすごい。

 (いや)な予感がする。


「キミのスピーチ、なかなかインパクトがあって良かったよ。もう何度も入学式の(あい)(さつ)を見てきたけれど、キミを()える(しよう)(げき)(あた)えた新入生は見たことがない。

 あんなに短いスピーチでこれほどの(つめ)(あと)(みな)に残すなんて、キミ、やるね」


 しまったーー! 『ふーん、おもしれー女』で好感度をあげちまったーー!

 無難なスピーチにしておけばよかったかも~~!!


 おもしれー女で好感度があがるって夢小説だけの話じゃないの!? アッこの世界って(おと)()ゲームもしくは小説だった! ちきしょうめ!!


「あ、あはは……。お()めにあずかり、光栄に存じますわ……」


 (かわ)いた笑いと引きつった応答しかでてこない。


 いや、まだ()げられる。まだ()える! こうなったら(さつ)(きゆう)(てつ)退(たい)して、不敬でない形の付き合い悪さで軽く失望していただきつつ、これ以上の好感度(じよう)(しよう)と今後の(せつ)(しよく)()ける!

 そうだ、帰りの馬車! セリーヌお姉様!


「申し訳ございません。実は、姉と(いつ)(しよ)の馬車で来ておりまして。待たせているかもしれませんので、おそれながらこれで失礼を――」

「姉君ならここにいるぞ?」


 ヒェッと息を()んだ。見れば、たしかにセリーヌお姉様の姿があった。

 なんでいるんだよ! いや好きな場所にいたらいいけどさ!


 (てつ)退(たい)手段が消えた。いい理由だと思ったのに。


 セリーヌお姉様は、はじめて見るキラキラした()(がお)で、(れい)(じよう)らしく上品な()()りをわたしに向けていた。なんでそんなに()(がお)


「みなさま、あなたの話を聞きたいとおっしゃるから、お話していたのよ、コレット」


 まったく悪気のない善意マックスのオーラを背負い、セリーヌお姉様がほほえみながら説明してくれる。

 なんてことをしてくれやがっているのですか、親愛なるお姉様。

 (こう)(りやく)対象(うん)(ぬん)の話はできないから、事情をご(ぞん)()なくても(いた)(かた)ないのだけれど!


「聞いたよ。家でも()(れつ)だそうだな」

「お父君のこと、キミの(いか)りは(もつと)もだ。(おのれ)の不明を()じたよ」

「だな。“のぞんで不義の子に生まれる者はいない”、考えてみれば()(ごく)当然のことだ」

(まい)朝晩、あいさつ代わりに『お前の顔を見るくらいなら、()()(いん)に行くほうがマシだ』と父親に苦言を(てい)しているというのは、本当か?」

「我々に関わらず通り過ぎようとする生徒はあまりいないから、遠くからでもキミをすぐ見つけられたよ」


 (こう)(りやく)対象たちが、わいわいと好意的にわたしの話をする。まずい、この流れでいくと――。


「この学園にいる間、私たちは平等に学生同士だ。よければ、私の側近たちともども、仲良くしてもらいたい。キミのことをもっとよく知りたいし、もしキミが何かにこまることがあれば、(えん)(りよ)なく相談してくれ。力になるぞ」


 わたしが名前を思い出せてすらいない王太子殿(でん)()は、とても()(てき)()(がお)で、たいへんにご親切で善意に満ちたお申し出をしてくださった。


 ……終わった……。


 意味がわからんほど好印象をもたれている。なんでや。そうはならんやろ。

 なっとるやろがい! ウワーン!!


 ふと、悪役(れい)(じよう)――王太子の(こん)(やく)(しや)様である、イザベル・ド・モンフォール(こう)(しやく)(れい)(じよう)と目が合った。豊かに()びた金色の(かみ)は、()の光をうけて(ひか)(かがや)き、目がさめるほど美しい(かの)(じよ)の容姿を引き立てている。


 (かの)(じよ)だけは笑っておらず、感情の読めない真顔で、こちらをじっと見つめていた。


 (おと)()ゲーム(じゆん)(きよ)の悪役(れい)(じよう)さんかもしれなーーい!!


 もうダメだぁ……おしまいだぁ……。


 そのあとは適当に生返事ばかりしていて、()(おく)もおぼろげだが、セリーヌお姉様が「帰る」と辞去するのに合わせて(はな)れた。

 帰りの馬車では、『コレットはなぜ()()んでいるのか』と()(もん)()をいっぱいに()かべたセリーヌお姉様から、あれこれ心配そうに質問をうけ、すべてに「(だい)(じよう)()です」「なんでもないです」と受け答えをしつづけた。

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