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乙女ゲームのヒロインに転生しましたが、恋愛ルートを無視して自立します  作者: 佐藤みさき


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7/7

スナックこれっと、開店

 いかにしてわたしが、アルヴェーヌ王国王太子エリアス・ダルヴェーヌ殿(でん)()のご(ちよう)(あい)()(かつ)にも勝ち取ってしまったか。その始まりは、イザベルと会話したこの日から、およそ三()(げつ)前まで(さかのぼ)る――。


***


 わたしは、すっかり油断していた。


 最大の()(ねん)であった悪役(れい)(じよう)は、わたしが小説で読んだ通りの、常識的かつ善良な転生(れい)(じよう)だった。わたしたちは協力関係を結んだ。イザベルがヒロインに求める行動を、わたしはとる。イザベルには、(おと)()ゲームの(くわ)しい情報を教えてもらう。そうした()(けい)関係が成立した。

 それに、少し(ちが)いはあっても前世日本人同士、秘密を分かち合い、身分を気にせず腹を割って話せる友達になれた。それだけでも(うれ)しかった。


 (こう)(りやく)対象たち――アルヴェーヌ王国王太子エリアス・ダルヴェーヌ殿(でん)()、その側近で(さい)(しよう)子息レナール・ド・ヴァルモン、近衛()()(だん)長子息ガスパール・ド・ロシュフォール、外務大臣子息ジュリアン・ド・ベルナール、王国大法官子息セレスティン・ド・ラファイエットの計5名――の(くわ)しい情報、各(こう)(りやく)ルートでどのようにヒロインと仲を深めていくか、どういったイベントでどう行動すればルートを(かい)()できるか、イザベルのおかげで(くわ)しく知れた。

 というのも、わたしが読んだ悪役(れい)(じよう)転生もの小説では、ゲームヒロインが主人公ではないので、そのあたりの話が(だん)(ぺん)(てき)にしかわからなかったのだ。


 イザベルに(おと)()ゲームの情報を教わった結果、わたしは『(こう)(りやく)対象との(せつ)(しよく)をそこまで(けい)(かい)する必要はない』という結論に至った。なぜなら、わたしはヒロインであってヒロインではないからだ。

 イザベルに()(てき)されたとおり、わたしという人間の気質や行動は、イザベルが知る(おと)()ゲームヒロインと大きく異なっている。つまり、(こう)(りやく)対象がコロコロ(こい)におちてくれる、(けな)()(はかな)くて(つつ)ましい愛されヒロインと、わたしは全く異なる存在だ。

 つまり、(かれ)らはそう簡単にわたしを好きにならない。


 実際、わたしが読んだ小説内では、ヒロインに転生した人間があまりに(あく)(らつ)であったため、ゲームどおりに行動しても、(こう)(りやく)対象たちを(ゆう)(わく)できなかった。そのため、転生ヒロインは()(ほう)()(りよう)薬を使い、(こう)(りやく)対象たちを従わせていたことが(しゆう)(ばん)で判明する。


 わたしの結論に、イザベルも同意してくれた。一応、ルート入りしうる行動は、イザベルが思い出して教えてくれた部分だけでも()けるにしても、不敬を働くリスクを(おか)してまで、身分の高い(こう)(りやく)対象者たちとの(せつ)(しよく)()けるのは、やめることにした。


 王太子に対しては、イザベルとの友人関係も(けん)(せい)に使える。女は、横のつながりを大事にする生き物だ。イザベルへの裏切りは、すなわち、わたしの不興をかうことを意味する。

 まして、いまや学園中に()(わた)っているところである、わたしが父ヴァロワ(はく)(しやく)()(きら)っている理由を(こう)(りよ)すれば、(こん)(やく)(しや)を裏切る男をわたしがどう感じるか、想像できない人間はいないだろう。


 わたしは、わたしらしく過ごしていれば、自然と(れん)(あい)ルートをかわしていける。()(じよ)を30年以上やってきた前世は伊達(だて)じゃない。ガワが美少女ヒロインになったところで何も変わらない、興味をもたれたのも(しよ)(せん)は女芸人(わく)だってところ、いっちょイザベルに見せてやりますか!

 そう思って、すっかり安心してしまっていた。


 それが()(ちが)いだった。


***


 入学から三()(げつ)ほど経過したある日、めずらしく王太子殿(でん)()が一人でいるところを見つけた。社交や自由活動の時間を()ねた長めの(きゆう)(けい)時間中、学園の(しき)()(ない)を散歩していたところ、人が少ない場所にあるベンチで、(かれ)が一人(すわ)っているのを見かけたのだ。


 わたしは、(かれ)をそっとしておくことにした。


 (かれ)はいつだって他人に囲まれていたし、とくに、側近すら一人も連れていないところを見たのは、初めてだった。一人になりたいときだってあるだろう。少なくとも、わたしは一人の時間がないと死んでしまうタイプだ。

 だから、まったく(かれ)に気付かなかったフリをして、すぐさま引き返すことにした。


「ルブラン(じよう)!」


 なんで呼び止める?


 内心イラッとしたが、呼ばれたからには仕方ない。わたしは、()(いき)をこっそりひとつ()いたのち、(きびす)を返して、王太子のもとに歩いて行った。


「コレット・ルブランが、王太子殿(でん)()にご(あい)(さつ)申し上げます」


 スカートの(すそ)を両手で持ち、マナー通り(しゆく)(じよ)の礼をする。


(おこ)っているのか?」

「いえ、(めつ)(そう)もない。ただ、お一人で過ごされたいがためにお一人なのだと思い、(はな)れるつもりでしたもので」

「ああ、見ていた。それで気が変わって、キミに少しばかり、話し相手をしてもらいたくなってな。さ、ここに(すわ)るといい」

「……ご命令とあらば」


 (しぶ)(しぶ)、といった態度をしっかり見せつつ、わたしは王太子の言う通り、(かれ)のとなりに(こし)()けた。(すき)()はもちろん、ちゃんと空ける。ヒロインのようにいじらしく(ほお)を染めることも、ない。


 前世で30代以上だったわたしにとって、15・6(さい)の男子は(みな)キッズだ。幼いキッズである(かれ)らが、将来の政治的責任を自覚し、キッズなりに(いつ)(しよう)(けん)(めい)がんばる姿は、ほほえましくあり、尊敬もできる。

 上から目線になってしまうが、前世で同じ(とし)のころのわたしより(はる)かに大人だし、りっぱで、(ゆう)(しゆう)だ。アルヴェーヌ王国の臣民を守り導くため、(とし)にそぐわぬ重圧と戦い、努力を重ねていると知ればこそ、ルートは()けたいけれど、(じや)(けん)にもしたくない。

 どう転んでもキッズにしか見えないので、現実・創作問わず年上知的大人が好きなわたしにとって、(れん)(あい)的には射程外でしかないけれど。


 わたしがベンチに(こし)()けたあと、わたしと王太子はしばし無言で前を見つめ、お(たが)(となり)に目を向けることをしなかった。それから、ぽつりぽつりと、王太子が話し出した。


 内容を要約すると、アルヴェーヌ王国王太子としての責任とか義務とか重圧とかがつらかったり、自分に自信を持てなかったり、(かん)(ぺき)(こん)(やく)(しや)であるイザベルに引け目を感じたりするという話で、まあ年相応か、それ以上にちょっと大人びたお(なや)みを打ち明けられた。

 わたしは、それに対して一切アドバイスせず、合コンさしすせそプラスそうですかそれは(つら)いですね大変ですね系の応答を返し続けた。


 前世・今世ともに王族や統治について何ひとつ知らないわたしが、いくらキッズでも(げん)(えき)王太子の(かれ)にアドバイスできることなど何もない。そんなことは(かれ)だってわかっている。つまり(かれ)は、ただ話を聞いてもらいたいだけ。

 貴族(せき)に関心がなく、王族の弱点を(にぎ)ってどうこうしそうな人間でもないし、あと近しくもないわたしは、(なや)みごとをつらつら聞いてもらうのに丁度よいと思ったのだろう。

 つまりわたしのするべきことは、今ここで『スナックこれっと』を開店し、スナックのママになったつもりで、王太子の話を聞いてあげることである。


 今度の推測は当たりだったらしく、王太子は(きゆう)(けい)いっぱいまで気分よく語り続けた。(きゆう)(けい)時間の終わりをつげる(かね)が鳴ったとき、わたしは何も解決策を提示しなかったにもかかわらず、王太子は晴れやかな顔でお礼を言ってきた。


「聞いてくれて、ありがとう。キミに話しているうちに、(だい)(じよう)()な気がしてきた」

「それはようございました」

「……また、話をきいて(もら)えるだろうか?」

「イザベル様に今日のことをきちんと伝えて、イザベル様がお許しくださるなら、かまいませんよ。今日のように、(かべ)や柱の代わりに聞き流す程度でよろしければ、アルヴェーヌ王国民の一人として、殿(でん)()()(ごろ)のご(じん)(りよく)(むく)いたく存じます」

「わかった、イザベルに伝えるよ。キミの(こう)(けん)に感謝する」

「もったいないお言葉、(きよう)(しゆく)です」


 そのようにキッチリ線引きして(けん)(せい)しつつ、その後も何度か、イザベルの許可と(かの)(じよ)への(れん)(らく)を条件に、王太子のために『スナックこれっと』を開店してさしあげることとなったのだ。

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