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乙女ゲームのヒロインに転生しましたが、恋愛ルートを無視して自立します  作者: 佐藤みさき


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12/13

春の交流会で初恋と踊る

「本当はね、今日は学園制服で出ようと思っていたの」

「そうなんだ」

「うん。()(こく)ぎりぎりまで秘密にしておいて、出発するぞってときに、制服のまま出て行くの。(はく)(しやく)が用意したドレスもアクセサリーも、ぜーんぶ置いてって。そうしたら、(はく)(しやく)はガッカリするでしょ?」

「ふふ、そうだろうね。…どうして気が変わったの?」

「それは、ノエル兄さんにエスコートしてもらえるんだもの。だから、おしゃれして行こう、って思って」

「おやおや。ふふ、うれしいな。制服のコレットもかわいいと思うけれど、私のためにお(ひめ)(さま)()(かざ)ってくれただなんて」


 学園(しき)()(ない)に入り、会場の式典ホールに向かう道すがら、わたしはノエル兄さんと会話していた。ようやく(きん)(ちよう)状態が(やわ)らいで、会話の()(ゆう)ができたのだ。

 せっかく、(あこが)れの人のエスコートで、(あこが)れの()(とう)(かい)に、(あこが)れのドレスを着て向かっているというのに、性格悪いエピソードを出してしまう自分が歯がゆい。

 わたしが(おと)()ゲームのコレットだったら、もっと好かれやすそうな話をできていただろうか。


「…あ、兄さん。あそこが会場だよ」

「うん。他の人たちも向かっているね」


 (ぐん)(じよう)(いろ)の夜空の下、ほとんど明かりが(とも)っていない学園の中で、(ゆい)(いつ)式典ホールだけが(こう)(こう)とした明かりを放っている。

 その入り口には参加者の列ができており、家族連れらしい集団や、(こん)(やく)(しや)カップルと思われるペア、単身で入っていく男女の生徒など、いくつかの参加形態がみられた。


 順番を待って、招待状を受付に(かく)(にん)してもらい、ノエル兄さんと(いつ)(しよ)に会場内へと入る。


「うわあ……!」


 式典ホールは、入学式のときとはまったく(ちが)った様相を見せていた。

 日中だと目立たなかった(てん)(じよう)のシャンデリアは、(げん)(そう)(てき)(かがや)きを会場に投げかけ、きらきらと()(りよく)(てき)(たたず)んでいる。(かべ)には、学園シンボルのタペストリーがずらりと(かか)げられ、(ゆか)には、軽食や飲み物の置かれたテーブルが並べられていた。

 見れば、楽団が(わき)(ひか)えていて、来場BGMを生演奏している。この世界には音楽スピーカーの類が無いだろうとはいえ、生演奏だなんて、すごく(ぜい)(たく)に感じられた。


 夜会らしい(はな)やかな()(しよう)に身を包んだ人々が、会場内に立ち並ぶ。特に(れい)(じよう)のドレスは、色とりどりで目に(あざ)やかだ。

 前世で(あこが)れた、貴族たちの(はな)やかなる夜会だ。


「キレイだねー……」

「そうだね」


 わたしがそう言いながら、ノエル兄さんに目を向けると、ノエル兄さんは、にっこりと美しい(ほほ)()みとともに同意してくれた。ウッ、シャンデリアよりも(まぶ)しい。


 ノエル兄さんの(うで)に自分の手を()えたまま、家庭教師と学園教師に教わったマナーに従い、背筋をのばして、しゃなりしゃなりと会場内へ歩いて行く。

 ノエル兄さんが来てくれて良かった。今日このとき、制服で参加するのは(もつ)(たい)なかったに(ちが)いない。


 感動につつまれながら会場を見回していると、いつのまにか開始時刻になったらしく、(だん)(じよう)付近から(すず)の音が聞こえた。生演奏の楽曲が()む。

 学園長の(ろう)(れい)男性が(だん)(じよう)に立ち、開始の(あい)(さつ)をはじめた。


「ご来場の(みな)(さま)。本日は、王立ベルクロワ学園、春の交流会にご出席いただき、(まこと)にありがとうございます――」


 (あい)(さつ)の間、来場客の(すき)()(きゆう)()が静かに移動し、(ぼん)にのせたシャンパングラスを配ってまわった。未成年者が多いので、これはシャンパンっぽく見えるソフトドリンクだそうだ。

 ちなみに、生徒の家族親類などでアルコールが()しい人のために、アルコールドリンクも見張りつきのテーブルで用意されている。


 学園長の(あい)(さつ)は、とても()(つう)で典型的なものだった。この場が学生たちの社交練習の場であること、生徒ご家族やOB・OGからの()(ごろ)のご()(えん)を感謝する(むね)、などなど。

 それを(せい)(ちよう)したら、(かん)(ぱい)を告げられる。グラスを高く(かか)げて「(かん)(ぱい)」と声を合わせ、(みな)で飲む。そうしたら、夜会の始まりだ。


「コレット、()(ひめ)(ぎみ)


 グラスを返したあと、ノエル兄さんがそう呼びかけてきて、わたしの前で(ひざまず)いた。それから、わたしの手をとる。ちゅ、と、指先に口付けまでされた。

 (やわ)らかな(かん)(しよく)が、(でん)(げき)のようにわたしの脳にとどく。


「私と(おど)っていただけますか?」


 ノエル兄さんがわたしを見上げ、形のよい目元から(のぞ)く灰青の(ひとみ)が、わたしをまっすぐに見つめた。


(ひょわあああああ~~~~!!)


「よ、よよ、よろこんでっ!」


 わたしは、(どう)(よう)()みながら、やっとの思いで(しよう)(だく)を返した。今、顔も耳まで真っ赤になっているに(ちが)いない。

 やばすぎる……! ノエル兄さん、サービス精神が(おう)(せい)すぎるよ! あぁ~好き……。これ以上好きにさせて、わたしをどうするつもりなんだ。


 こんな(ぎよう)(ぎよう)しい()()をして、周りから()()の見られているんじゃないかと思って見回してみると、なんと、似たようなことをしているカップルがちょいちょいいる。自分たちが特別、見られているということも、ない。

 マジか。この世界ではよくあること? すごすぎる。前世日本人、しかも()(じよ)には()(げき)が強すぎるぜ。さすがは(おと)()ゲームの世界だ。


 真っ赤になって照れているわたしを、ノエル兄さんは(おも)(しろ)そうにくすくす笑う。

 ええ、前世30オーバーでも、(れん)(あい)(へん)()()は赤ちゃんです。幼女です。お()ずかしながら…。


「もう、兄さんったら。こんなことされたら、兄さんに将来()い人ができたとき、(あきら)められなくなっちゃうよ」

(だい)(じよう)()だよ、コレット。おまえは昔、『大きくなったら、ノエルお兄ちゃんのお(よめ)さんになる』って、よく言ってくれていたじゃないか」


 そうだっけ? ……そうだったかも。前世を自覚する前、(じゆん)(すい)に幼女だったころ。


「それは、でもさ、『大きくなったらパパのお(よめ)さんになる』みたいなやつじゃない」

「うん。アルマンさん――今は、ヴァロワ(はく)(しやく)か。(かれ)じゃなくて、(くや)しがっていた」

「そ、そうだったんだ。でもさ、兄さんからしたら、わたしなんか12(さい)も年下の子供じゃない。そんなの、本気で受け取らなくっていいんだから」


 そう言うと、周囲の温度が少し下がったような気がした。


「……コレットは、もう私を好きじゃないの? (だれ)か、他に好きな人がいるの?」


 ノエル兄さんの声も表情も(やわ)らかいままだったが、なんだか()(おん)な気配がする。ともあれ、正直に答えた。


「や、その…、ううん。……私は、今も兄さんが好きだし……他に好きな人とかも、いないけど……」


 小声でぼそぼそと応じたそのとき、ダンスの始まりが告げられた。楽団が、美しいワルツの(せん)(りつ)(かな)で始める。


「よかった。それじゃ、(おど)ろう。コレット」


 ノエル兄さんは、ぱっと花開くような()(がお)をうかべると、わたしの手を引いて(うなが)した。それに従い、ダンスエリアに二人で入っていった。


 リズムに合わせて、1・2・3、1・2・3。なんとか練習通りに(おど)れている。ノエル兄さんも、()()(たん)(れん)にダンスの教養が(ふく)まれているのか、とても上手にリードしてくれた。

 (あこが)れの()(とう)(かい)で、(あこが)れの社交ダンスを、大好きなイケメンとおしゃれして(おど)っている。先ほどの会話の()(おん)さは気になるけれど、今夜のことは、忘れられない思い出になるだろう。


「コレット、とても楽しそうだね」

「うん、楽しい! 兄さん、ダンスとっても上手ね」

「コレットのために練習したんだ」

「ありがとう! 今日のこと、一生の思い出になるわ」

「なら、これからも、何度でも(いつ)(しよ)(おど)ろうよ。秋の交流会も、来年も、その次の年も」

「兄さん……!」


 ノエル兄さんは、なんでここまで()くしてくれるのだろう。25(さい)のりっぱな聖()()、しかもこれほどのイケメンかつ人格者の(しん)()ともなれば、好みの(みよう)(れい)平民女性はもちろん、(みよう)(れい)の中高位貴族(れい)(じよう)の心すら射止めて、貴族に婿(むこ)()りしてウハウハ金持ちライフを送ることだって可能だろうに。

 ……ハッ! そういえばわたし、(はく)(しやく)(れい)(じよう)だった。いけない。家を出て貴族(せき)を捨てるつもりだって、言った方がいいかも。


「兄さんあのね、わたし、学園を卒業したら、(はく)(しやく)()を出るつもりなの」

「そうなんだ?」

「うん。それで、卒業までに良い働き口を見つける。平民に(もど)るつもりよ」

「そうなんだね。きっと、コレットならできるよ。ロゼット姉さんも、ヴァロワ(はく)(しやく)(けつ)(こん)――いや、(かれ)の愛人に…なるまでは、働いていたんだ。(かせ)ぎから、サント=ミレイユに()()までしてくれていたんだよ」

「えっ! そうだったんだ」

「うん。おかげで、私も(てい)(まい)たちも、()えずに済んだ」


 知らなかった。教育を受けていない平民の、しかも女性が働いたって、大して(はら)ってもらえなかっただろうに。そう考えると、あまり認めたくはないが、アルマンの愛人になれて助かったのかもしれない。


「お母さん、なんの仕事をしていたの?」

「貴族のお()(しき)の、(ざつ)(えき)女中だよ。たしか()(しやく)家だったかな。ヴァロワ(はく)(しやく)とは、そこで出会ったって言ってた」


 一番ランクが低くて、しかも仕事の多いメイド職か。大変だったろうな。

 同じメイドでも、ヴァロワ(はく)(しやく)(てい)のように財政(じよう)(きよう)のいいお()(しき)では、(せん)(たく)女中・皿洗い女中・(ちゆう)(ぼう)女中・室内女中・(きゆう)()女中といった具合に、仕事ごとにメイドが分けられている。こうした専業メイドは、能力を高めやすく給料がいいので、求職者に人気だ。

 一方、(ざつ)(えき)女中とは、貧しい貴族()(しき)()(ゆう)(そう)平民の家などで使われる、上記の仕事すべてを任されるメイドだ。メイドを何人も(やと)えない家で働くので、給料が低いわりに、仕事が多く大変である。


 ()(しやく)家でメイドとして働いていたところ、()(しやく)に用があって訪ねたヴァロワ(はく)(しやく)()()められて――ってな感じの出会いだったのだろうか。


「知らなかった。わたし、お母さんのことを何も知らないのね」

「そんなことはないよ。コレットは、ロゼット姉さんの(やさ)しさや、(ぬく)もりや、料理の味や、愛情深さを知っているでしょう?」

「まあ、そうね。…お母さんが生きていたら、そういう話も(いま)(ごろ)できていたのかな」


 今世の母を思い出すと、ついメランコリックになってしまう。前世の母がしんどい人だったこともあり、(やさ)しかった今世の母が余計に()しまれるのだ。


「私が知る(はん)()でなら、ロゼット姉さんのことを教えてあげられるよ。姉さんのこと、コレットが生まれる前から知っているしね」


 兄さんが、なぐさめるようにそう申し出てくれる。


「うん、そうだね。ありがとう、兄さん。お母さんのこと、今度たくさん教えてね」

「もちろんだよ。任せてくれ」


 そのとき、一曲目が終わり、わたしたちはピタリと止まった。観衆からパチパチと(はく)(しゆ)()(ひび)く。


「ダンスも、ありがとう、兄さん。すごく楽しかった」

「私のほうこそ、コレットと(おど)れて楽しかったよ。もう一曲おどるかい?」

「えへへ。それもいいけど、お話したい人がいるから。まずは、飲み物を取りにいかない?」

「わかった。コレットについていくよ」

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