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乙女ゲームのヒロインに転生しましたが、恋愛ルートを無視して自立します  作者: 佐藤みさき


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13/13

地雷原の聖騎士

 ノエル兄さんを引き連れ、わたしは近くの飲み物テーブルに向かった。学生たちが集まっているので、ソフトドリンクと見ていいだろう。

 近づいたところで、ノエル兄さんがわたしを止め、(かれ)がテーブルまで行って、二人分のシャンパングラスをとってきてくれた。


「ありがとう」

「お安いご用です、()(ひめ)。学園のシャンパンは、お酒が入っていないんだね」

「そうなの。参加者が、ほぼ未成年だからね。お酒は~……ああ、いた。多分あそこ。見張りの先生が立ってる、あそこのテーブルにあるよ。取りに行く?」


 わたしがアルコールのテーブルを指さし、(たず)ねると、ノエル兄さんは首を横に()った。


(ひめ)(ぎみ)の護衛中ですから。ただ、お酒を飲まなくてもいい夜会だなんて、()(てき)だなって思っただけ」

「たしかに、(めずら)しいだろうね。ちなみに兄さん、お酒苦手?」

「うん、あまり好きじゃないんだ」


 そうなのか。

 現代日本でこそアルハラ禁止の(がい)(ねん)や、お酒ダメ絶対体質の存在も()(わた)っているけれど、今世の中世西洋風な王国だと、身分を問わず交流にお酒はつきものだろう。お酒が苦手ってだけで、人付き合いの難易度が上がりそうだ。


「お酒が苦手だと、職場の人との付き合いとか、大変そうだね」

「……そうなんだよ! よくわかったね。さすがはコレットだ」


 ノエル兄さんは、目を軽く見開きながら(おどろ)いた声をあげ、(こう)(てい)した。

 やっぱり、そうなんだ。兄さん、()(わい)(そう)に……。


 それにしても確か、ルミエラ教の教義によれば、飲酒は非推奨で、特に聖職者は厳禁じゃなかったっけ。聖()()は別なのかな? 一番お酒から遠ざかれそうな職場なのに、(じよう)(きよう)変わらずとは。


 そのとき、あまり聞きたくない声が、わたしの名前を呼んだ。


「コレット・ルブラン(じよう)!」


 うげ。王太子殿(でん)()だ。見れば、側近たちまで(こん)(やく)(しや)とセットで連れている。もちろん、殿(でん)()ご自身の(こん)(やく)(しや)、イザベル・ド・モンフォール(こう)(しやく)(れい)(じよう)(いつ)(しよ)だ。

 トータルで八人もの大所帯である。混み合った会場では(さら)に多く感じさせるが、参加者たちが王族の進路をあけてくれるので、存外スムーズに動けるらしい。


 王太子殿(でん)()と側近たちの礼装がキラキラしいことに加え、イザベルを筆頭に、(こん)(やく)(しや)(れい)(じよう)たちのドレスはどれも美しく(きら)びやかで、(まぶ)しい集団だった。さすが、王族と高位貴族たちともなると、夜会の(よそお)いもひと味(ちが)う。


「コレット・ルブランが、王太子殿(でん)()にご(あい)(さつ)申し上げます」


 (いや)そうな顔を(かく)し、今夜はドレスの(すそ)をしっかりホールドして、(しゆく)(じよ)の礼で(あい)(さつ)する。(となり)でも、ノエル兄さんが(しん)()の礼で頭を下げていた。

 兄さん、いきなり王族が話しかけてきたのに、意外と冷静だな。さすがは大人。好き。


「面をあげよ。して、そちらの聖()()は?」

「ノエル・セヴランでございます、殿(でん)()


 兄さんが応じる。


「セヴラン(きよう)か。ルブラン(じよう)(かれ)(しん)(せき)か何かかな?」

(かれ)は――」


 いいこと考えた。兄さんを連れたこの(じよう)(きよう)、使えるかもしれない。

 そう、体のいい男()けに!


「――わたしの、長年の(あこが)れの方です、殿(でん)()()(よい)はじめて夜会に(のぞ)むにあたり、エスコートをお願いしました」


 わたしが()(がお)でそう応じると、目の前の王太子一行八人は、八人八様――いや、三様かな?――の表情を()かべた。

 まず男子勢は、顔を白くして、(がく)(ぜん)とした表情を()かべていた。王太子、おまえもか。(もう)()(かぶ)ったわたしにキッパリ()られたのに。

 反対に女子勢は、ぱあっと(かがや)()(がお)()かべていた。イザベルは「なあんだ(れん)(あい)してるじゃないのコレット!」という顔、その他初対面の(こん)(やく)(しや)(れい)(じよう)たちは「っしゃあ! (うわ)()相手が他の男とくっついたぞ!」という顔である。


 側近ズや、なぜか私に異性として興味を持ってくる男子学生たち対策として、兄さんを(たて)にしてみたけれど、中々いい作戦かもしれない。


「で、でも。(ずい)(ぶん)と、年上のようだが…?」


 ヴァルモン(さい)(しよう)子息が、ショックを受けつつもそう追求してきた。(となり)(こん)(やく)(しや)が、ぎろりと横目で(かれ)(にら)む。見えていないのだろうか?

 (となり)を見ろと言いたいところだが、わたしは、夢見る(おと)()っぽい表情を自分なりに作り、幸せそうな口調で応じた。


「ええ、12(さい)ほど。ですから、わたしのことなんて子供にしか見えないでしょうし、断られることを(かく)()でお願いしました。でも、()()()()は快く応じてくれました。

 ()()は実らないものと申しますが、(かな)う日が来るなんて…! 今夜のこと、一生忘れられない思い出になると思います」


 あえて“兄さん”と呼ばず、“(はつ)(こい)”も強調して明かしてしまう。本当は、(しん)(けん)なお付き合いに至っているわけではないけれど、そのように(にお)わせる。

 兄さんに合図かなにか送れるとよかったけれど、幸い、兄さんは私に合わせ、「その通りなんです」といった態度を見せてくれた。幸せそうに笑ってすらいる。


「そ…うなのだな。ルブラン(じよう)、あなたの(こい)(じよう)(じゆ)を、心からお祝いする」

「過分なお言葉、痛み入ります。殿(でん)()


 まったくお祝いしていなさそうな顔をしつつも、エリアス殿(でん)()は定型のお言葉を口にする。教わったことをしっかり(じつ)(せん)できていて、えらい。

 側近メンバーも、(あきら)めがついたような表情に移行しつつあった。いいぞ。


「おお、そうだ。我々の自己(しよう)(かい)がまだだったな、すまない。こちらは、()(こん)(やく)(しや)、イザベル・ド・モンフォール(こう)(しやく)(れい)(じよう)

「…………」

「ん? ベル、どうした?」


 (しよう)(かい)されたイザベルは、何事か(おも)(なや)んでいる様子で、殿(でん)()の言葉にすぐに反応しなかった。少しして、自分が注目されていることに気付いてハッとし、あわてて(しゆく)(じよ)の礼をした。

 ――なんだろう。そこはかとなく、(いや)な予感がする。


「失礼しました。――イザベル・ド・モンフォールです。コレット様とは、()(ごろ)より親しくさせていただいております。どうぞお見知りおきを、セヴラン(きよう)

「ご(てい)(ねい)にありがたく存じます、モンフォール(こう)(しやく)(れい)(じよう)。コレットがお世話になっております。どうぞ、今後とも良いお付き合いをしてあげてください」

「もちろんですわ」


 その後、エリアス殿(でん)()(しよう)(かい)で、側近たちと(こん)(やく)(しや)(れい)(じよう)たちも順番に(しよう)(かい)していただき、(あい)(さつ)()わした。イザベル以外の(こん)(やく)(しや)(れい)(じよう)たちとは初対面なので、この機会に知り合えて良かった。在校生であるか(たず)ね、学年とクラスも聞き出しておく。

 これで、側近ズから(めん)(どう)くさいアプローチを受けたら、ただちに(こん)(やく)(しや)へ告げ口できる。わたしは思わずニヤリとした。


 それから、王太子一行と少し雑談を()わし、わたしたちは(はな)れることにした。「さて、本日のメイン目標である平民学生を探すか」と思ったところで、イザベルが声をかけてきた。


「ねえ、コレット」

「ん? どうしたのベル――あ。どうされましたか、イザベル様?」

「わたくし、お(はな)()みに行くのだけれど、よければご(いつ)(しよ)しない?」

「お花――ああ! ぜひ。お声がけ、ありがとうございます」


 お(はな)()みとは、トイレに行くことの(いん)()である。言われてみれば、そろそろ(いつ)(たん)寄りたい感じだった。


「ノエルに――ノエル様。行って参りますね」

「ええ、コレット。気をつけて」


 兄さんにも声がけし、イザベルについていく。他の(れい)(じよう)はついてこなかったようだ。(すで)に寄ったからかもしれないけれど、始まってからまだ一度も行っていないとしたら、なかなか(ぼう)(こう)が強いな。高位貴族ともなると、(ぼう)(こう)の出来も(ちが)うのだろうか。


 女性トイレに向かう道すがら、人気の少ない通路に出ると、イザベルが口を開いた。


「コレット、よく聞いて」

「え、なに?」

「いいこと? ノエル・セヴランを、けっして()()()()()()。あなたたちの様子を見るに心配なさそうだけれど、念のためね。かならず(かれ)を受け入れて。(くわ)しいことは明後日、登校日に学園で話すわ」

「お、おお……? わかった。でも、そうしないとどうなるの?」


 ぴたり、と、イザベルが足をとめた。それを見て、わたしも(あわ)てて歩みを止める。

 イザベルの美しいアメジスト色の(ひとみ)が、わたしを()()ぐに()()えていた。


「そうしないと、あなたは死ぬわ、コレット。(かれ)(こう)(りやく)対象なのよ……」

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