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第2話 女満別空港からウトロ温泉街に向かうよ!

「おっしゃー! ここが北海道ででっかいどう!!」

挿絵(By みてみん)


 林萌香ははしゃいでいた。ここは北海道にある女満別《めまんべつ》空港だ。北海道の道東、網走郡大空町にある。オホーツク総合振興局の主要空港だ。近傍には網走《あばしり》市と北見《きたみ》市を結ぶ国道39号が走る。空港周辺地域には知床《しれとこ》国立公園、阿寒摩周《あかん ましゅう》国立公園、網走国定公園などが存在する。空港の位置する女満別町は、2006年に東藻琴《ひがしもこと》村と合併して大空町となったが、空港の名称は継続されたのだ。


 空港はピカピカで立派な建物だが、周辺は畑ばかりである。家がまばらに建っているだけだ。これだけでも広い北海道を堪能することができた。広島とは違う青空に澄んだ空気。湿度は高く蒸し暑いが、これも北海道何だと納得した。朝から一気に飛行機に乗り、昼過ぎに到着した。ずっと座っていたので腰が痛い。アウトドア派の萌香には拷問のような苦痛の時間で会った。メモには知床五湖に行くには知床斜里《しれとこしゃり》に向かい、JR知床斜里駅に行き、そこから斜里バスの知床線で向かい、ウトロ経由、終点の知床五湖へ向かうのだ。また座りっぱなしになるのかと思うと萌香は気が重くなる。


 もうじき魔女の美崎葵《みさき あおい》が来て、萌香を案内する予定だ。萌香は木刀を手にわくわくしていた。握る手は汗で蒸れている。ちなみに萌香は目的地のことを知らなかった。飛行機の行き先も女満別空港ともわかっていなかった。彼女は勢いで行動するため後先を考えないことが多いのだ。それを直す気がないから困りものである。


「おまちなされ、お嬢さん!!」


 そこに耳を刺すような甲高い声がした。後ろを振り向くと、信じられないものを見た。それは顔がやたらと大きく、垂れ目に大きな鼻、分厚い唇の二十代後半の男が立っていた。格好は逆立てた金髪に白を強調した王子様のような姿だった。よく見ると胸が膨らんでおり、女だとわかった。やたらとオーバーアクションな仕草をしている。美形とは言い難いが、自信満々な態度が逆に似合っている気がした。北海道に不釣り合いな格好をしており、どこかの舞台俳優を思わせた。


「なによあんた!! 私はあんたなんか知らないわよ!!」

「あなたは知らなくても、吾輩は知っておる!! 吾輩はプリンス牙城《がじょう》!! CEA北海道支部の人間である!!」

「CEAですって!? ソラたんをいじめたやつの仲間ってことね!!」


 牙城の前口上を聞いた萌香は、全身の毛が逆立ち、相手を仇のようににらみつける。敵のメンバーがのこのこやってきたのだ。萌香は木刀を構え戦闘態勢をとるが、牙城はきょとんとしていた。萌香が予想外の言葉を発したことに疑問を抱いている。


「ソラたんだと? いじめたとはなんの……」

「黙れ!! おかま野郎!!」


 萌香は疾風のような俊足で牙城の頭部に面を入れる。木刀がスイカのように相手の頭をたたき割る光景が目に浮かぶ。決まったと思ったら、霞のように消えた。牙城はいつの間にか萌香の後ろに立っている。気配は一切感じなかったのに、易々と背後を取られて萌香は激怒した。


「吾輩はオカマではない!! 男装の麗人である!!」

「自分で言うな!!」


 牙城は自信満々に言うが、萌香はそれを聞くととてもイライラしてきた。芝居がかった声と仕草が癪に障るのだ。

 萌香は彼女の喉や腹部に突きを入れたりするが、すぐにパッと消えてしまう。正確には瞬きをした瞬間に姿が見えなくなるのだ。CEAは超能力集団だ。牙城も超能力の使い手なのだろう。

 だが相手は反撃してこない。もしかしたら彼女は回避は得意でも、攻撃は不得意なのかもしれない。萌香は学はないが知恵は回るタイプだ。


「ならば、逃げる!!」


 萌香は牙城に背を向けて一目散に逃げた。相手がソラをいじめたならともかく、そうでないなら逃げるが勝ちである。昔なら勝つまで粘っていたから、ずいぶん成長したなと心の中で自分をほめていた。


 すると白い車が牛のように走ってきた。それは萌香の前に止まる。左側のドアが開いた。運転手席には写真で見た美崎葵が運転している。写真よりも凛々しく見えた。萌香には逃げるお姫様を白馬に乗って助けに来た王子様に見えた。牙城の方が王子様なのだが、顔があれなので数に入れなかった。


「林萌香さんですね!! 美崎です!! ここは逃げますよ!!」


 そう言って美崎は萌香の腕を、万力のような力で引っ張ると強引に車に乗せた。そしてハヤテのごとく疾走したのであった。

 

 プリンス牙城は呆然とそれを眺めているしかなかった。


 ☆


 萌香を乗せた車は網走・小清水の海沿いの国道を走っていた。萌香は助手席でオホーツク海を眺めていた。広島の海もいいが、オホーツク海もひたすら広く、水平線を見て興奮していた。窓を開けると強い風が中に入ってくる。あまりの強さに萌香の頬はプルプル震え、髪も台風のように飛ばされそうになった。

 車内クーラーがあるが、北海道の自然を感じたいので、窓を開けているのだ。

 

「あわただしくて申し訳ないわね。改めて自己紹介するわね。私は美崎葵、国際魔女連合の北海道支部、八咫烏の魔女よ」

「あっ、私は林萌香です」


 萌香はぺこりと頭を下げた。美崎は少し振り向いてニコッと笑うと運転に集中している。車の運転は慣れているようだ。


「さっきの変人はなんなんですか? CEAを名乗ってましたが」

「屋住《やすむ》の部下ね。あいつは変人の隊員を多く抱えているのよ。さっきもあなたの身柄を確保しようとしてたわね。あのまま、あいつと不毛な戦いをしていたら援軍が来ていたでしょう」

「まともに戦えないなんてどうしようもないわね」


 美崎の説明に萌香は憤慨していた。戦闘を放棄した自分を棚に上げて、牙城は根性なしと決めつける。美崎はそれを見て優しくほほ笑む。


「今日はこのままウトロ温泉街で泊まるわよ。飛行機に乗ってそのまま知床五湖まで行くのはきついからね」

「うわー、温泉ですか!! 嬉しいですね!!」


 萌香ははしゃいでいた。北海道の温泉に入るのは生まれて初めてだ。DROPOUTの風呂は一人しか入れず、狭い思いをしていた。ちなみに店長である大地が一番最後に入るが、萌香は大地が自分たちの入った風呂に浸かるのを嫌っており、栓を抜いては新しく入れなおしていた。大地は俺は変態じゃねぇよいと憤慨したが無視している。


「でも、CEAに襲撃されているんですよね? のんきに温泉に浸かっていいんですか?」

「平気平気!! 今はにらみ合いが続いていてね。すぐには始まらないよ。今は英気を養う時間だね」

「それならいいです!!」


 萌香の疑問を美崎がきっぱりと迷いなく答えた。萌香もあっさり納得する。


「確か平《たいら》さんは千孤《せんこ》と協力するように言われたんだけど、その人たちとはいつ合流するの?」

「そのウトロ温泉街で合流するんですよ。千孤はかつて本土で活動していた化け狐の末裔なんです。蛮狸《ばんり》の萌香さんとは相性がいいと思いますね」

「そうなんだ。ぜひ会ってみたいな?~」


 萌香は能天気に笑っていた。途中で大型トラックが何台も追い越しをかけてきた。メーターを見ると80キロを超している。まるでカーレースをしている気分だ。萌香は改めて北海道の広さに感動していた。


「そうだ、この感動をソラたんに……、あれ!?」


 萌香はスマホを取り出して、オホーツク海を撮影しようとしたが、スマホが壊れていることに気づいた。スマホの画面はひびが入っており、うんともすんとも言わない。いつ壊れたのだろうか。萌香はスマホが使えなくなり、激怒した。今日はソラと同じくスマホが壊れる日だなと、萌香は悪態をつく。


「なんで!! これじゃソラたんに送信できないじゃない!! まったくムカつくわね!!」

「あはは、人生そういうことがあるって!!」


 萌香は憤慨しており、美崎は笑いながら慰めた。目的地まで二人はおしゃべりを続けていた。


 ☆


「こちら牙城です。林萌香の接触に失敗しました」

「はぁ!? 迎えに行くだけなのに、なんで失敗したん? なんかあったの!!」


 プリンス牙城は目の前のギャルに頭を下げていた。相手の方が年下だが関係ない。金髪のツインテールでピンク色のギャルファッションに身を包んでいた。だが胸はないので男と分かる。屋住三葉《やすむ みつば》だ。彼は激怒している。牙城に萌香の迎えを命じたのに、相手に逃げられたからだ。どうも話が違うと牙城は不満を漏らしているが、屋住には関係なかった。


「吾輩がCEAと名乗ったらいきなり怒り出しました。しかもソラたんをいじめたやつらと言ってましたね」

「はぁ!! なんでそうなるのさ!! 恐らくは何らかの形で彼女は操られているね!!」

「見た感じ、そうでしたね。最悪なことに美崎葵に確保されました。いかがいたしましょうか」


 屋住は腕を組んで怒っているが、冷静に考えていた。牙城も上司に当たる人物の指示を待っている。屋住は見た目は頭の悪そうなギャルだが、判断能力が高いようだ。


「恐らく美崎のやつはウトロ温泉街で一泊するだろうね。もちろんこちらが襲撃するのも織り込み済みだよ。結城《ゆうき》がいるから足止めはできると思う。こちらもウトロへ向かうよ!! 美崎は萌香ちゃんを知床五湖へ誘い込むつもりだね!!」


 屋住はスマホを取り出す。結城桐《ゆうき きり》と表示された。


「ああ、桐? 恐らく萌香ちゃんがウトロ温泉街に行くと思うよ。なんとか説得してね。あーしらもそっちに向かうし。え、一人しかいないから難しいって? しかも千孤たちが大勢いるから無理だって? 大丈夫!! 桐ならなんとかなるって!! じゃあね!!」


 そう言って屋住は電話を切った。一安心したように顔がほころぶ。牙城はそれを見て、ご愁傷様みたいな顔になる。どうやら屋住と桐の関係を知っているようだ。無茶を言われて可哀そうにという感じだが、なんとかやる人だと思われる。


「大丈夫ですか? こちらもあいつらが北海道各地で暴れていて戦力が分散されていますが……」

「そうだけど、萌香ちゃんを確保しなきゃおしまいだっての!! 向こうも目的を達成するために今ある戦力をそっちに集めているだろうしね!! あーしが萌香ちゃんと接触すればこちらが逆転できるし!!」

「確かに……。だからこそ美崎も彼女を一足早く確保しましたからね……」


 牙城は考え込んでいた。屋住が萌香と接触したら逆転できる。どうも考えが安っぽい。一発逆転を夢見ているのだろうか。一体彼らは萌香の何なのか。それは彼らにしかわからないことであった。

 プリンス牙城:ムジナックス所属のVチューバー。本当の意味でのバ美肉Vチューバーだった。Vチューバーのプリンス牙城は美男子でゲーム実況が主だった。

 社長の木常狸吉《きつね たぬきち》の命令で、ダンスと演技を勉強させられた。現実とのギャップに当初は古参ファンが半分に減ったが、やたらと自信満々でナルシストなキャラに新規ファンがその一桁増えたという伝説ができた。

 やすむとは一方的に嫉妬し敵意を抱いていたが、現在は舞台や映画の仕事が増えたため、好意を抱いている。


 屋住三葉:玄姫やすむ。

 美崎葵:秋本美咲。 

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― 新着の感想 ―
個性的なキャラクターたちが出てきて気になります(`・ω・´) ギャルファッションな屋住、このあとどんな活躍があるのでしょう……! 女満別、北海道には何度か行っていますが、こちらの空港は使ったことがなく…
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