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第三章 二幕

 刑事、カルロは立っている。傘もささず、地面を眺めている。


「なるほど。連中か」

「カルロ!」


先輩の中年男性が傘をささず、駆け寄ってくる。二人とも少し濡れている。


「周辺の聞き込みをしたが、この路地自体は近道としてよく使われているらしい。数日続ければなんとかなるかもしれないが、証言は期待できそうにないな」

「ムーロさん、ありがとうございます」


傘をさしながらマリアたちはただカルロたちを見ている。仕事の邪魔は禁じられているためだ。カルロは見かねて息を吐いた。


「黙っていろ、というわけではありませんよ。よく焦って妨害になってしまう方というのもいるので」

「あの」


ロイが封を切ったように声を出す。


「これってここでゆっくり捜査していて、何かわかるんですか?検問とかそういうのは」

「質問ありがとう。だが今回に限ってはこの方がいいんだ」


ロイはそれ以上口を出すこともできず、しかし納得もできない様子で口を閉じる。カルロは淡々と、あくまで淡々と喋る。


「まず、この犯罪は魔術師狩りでもあるがわずかに違う。女性の拉致という側面がある」


カルロは手袋をつけた手で、ロイを指さす。


「君の話だと、君は彼らの前で魔術を使ったそうだが、ならばなぜ君は攫われていないのだろう。君の体格が大きく、運び出しづらいというのもあったかもしれない。だが目撃者を放置する理由もない。つまり、君に関わりたくない理由があったか、女性にこだわった理由があったか。あるいは両方」


カルロはマリアたちをそれぞれ観察し、ムーロと呼ばれた男と目線を合わせる。ムーロはわずかに頷く。


「彼らは決闘委員会に登録されている学生だ。それも皆が高位、そこの女の子に至っては一位だ」


マリアが一位であるということは見抜けなかったらしく、カルロは僅かに動揺した。少し咳払いして話を続ける。


「つまり、君のことを知っていた。戦いの専門家で、運びづらい厄介者。だから危険を込みで君を放置した。まぁいささかこじつけだがね。しかし君が放置された理由は保留するとしてもこの犯行の雑さ、そして大学に関係がある。心当たりがあるんだよ我々には」


カルロとムーロはマリアたちを連れるように歩き始める。


「ここ最近問題になっていてな。おそらくかなりの被害が出ているにも関わらず、発覚するまでに時間のかかる拉致事件が増えている。現場は人通りがほとんどない死角。しかしこれには学生が頻繁に用いる場所という共通点があることがわかった。酒飲み場だの、男女の逢瀬だの、そりゃおっさん連中にはわからんな」

「被害者の大半は女学生。だがいくらなんでも派手にやりすぎだ。組織だった動きというのはすぐにわかった」


路地から出ると人は普通に往来している。社会には表と裏がある。そこにはわかりやすい境界があるわけではなく、人が共通して意識しない死角、影。そこに人の悪意が吹き溜まり、形を成す。

 カルロたちが少しあたりを見回していると、鐘のような音が遠くから聞こえてくる。その方向を一行が見ていると道角を曲がって、馬が走ってきた。馬上には、先ほど警察署でカルロから書類を受け取っていた女性と、もう一人が乗っている。その光景に唖然としているのはジンだけだ。女性は一行の前に乗りつけると、軽快に馬から降りた。


「遅くなりました」

「問題ない。時間はな」

「馬!」


ジンが思わず叫ぶと、他は彼を見る。カルロが少し考え、思いついたように眉を上げる。


「あぁ、君あれか。見ない風貌だと思ったらアコクからの留学生か。山岳地帯のアコクでは速く走る馬というのは少ないか?」

「いや、それもあるが。この地方で日常的に馬を使ってるのも知ってる。しかし、これはまさか緊急の早馬か?」

「そっちか。この地方では現状、馬に勝る高速の交通手段というものはないからな。ここにくるまでに乗ってきた公務用馬車よりも、緊急の場合はこちらを使う。最近だと魔術を動力にして走る車両ができたと聞いたが、そういえばあれどうなったのかな」


マリアは気まずそうに視線を逸らし、追求されない限りは黙っていようと誓った。


「そんなことより。シンシアさん」


その女性はシンシアと呼ばれた。後ろには馬から降りるのに手こずっている若い男がいる。


「私の書類では()()を連れてくる手順だろう。彼は誰だ」

「私は」


名乗ろうとした男は手を滑らせ、不器用に着地する。尻を払いながら立ち上がると、眼鏡の角度を直した。


「私は外事の者だ。悪いが外事もこの件に噛ませてもらう」

「時間が足りないな。シンシアさん、教警の人は?」


外事と名乗る男に手のひらを突き出し、ムーロは話しかける。シンシアは懐から時計を取り出して確認する。


「この人が警察署で乗り込んできたのでまだです。あと五分ください」

「わかった。行け」


シンシアは軽く頭を下げると、軽やかに馬に乗り、走り出す。馬についたいくつもの鐘が鳴り、人々は道を開けた。


「さて。外務事由課の方がどのような要件で?本件は女性魔術師拉致事件で、場合によっては助けられる可能性が高い。だから教警を呼んだのに、そこに乗り込んできただけの理由があるんでしょうね」


ムーロは静かに圧をかけて潰すように、外事と名乗った人物を睨みつける。外事の人間は物怖じせずに、正面から睨み返した。


「私は外事のラルバだ。被害者のユーリ・アナベル。彼女の素性は極めて外交的な人物だ」


その予想外な宣言に、ムーロは静かに眉を動かし、マリアたちは静かに呆然としている。


「彼女は」

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