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第79話 ガチ恋勢

 全員の自己紹介が終わるとビリー先生が「最後に俺だな」と言いました。割と大多数の人が、あれ? 最初にしなかった? と頭に疑問符を浮かべていましたが誰もそれを口には出しません。


「俺は君たちを家の格では贔屓しないと言ったが、俺も人間だから贔屓したいと思ってしまうこともある。それは努力をしている者に対してだ。努力は裏切らないなんて言葉もあるが、それは大嘘だ。努力というのは残酷なもので、世の中には結果が伴わない努力なんて腐るほどあるし、結果が伴わなければ無意味と言われる。しかし、君たちはまだ結果を求められるステージにいない。いや、言ってしまえば努力し成長することが結果になる。勉学でも武道でも、音楽や絵画のような芸術方面でもなんでも良い。努力をしている者を俺は贔屓する」


 これ、とても厳しいことを言っているようでとても優しいですよね? だって努力するのなんて当たり前ですし、結果の伴わない努力も評価してくれるなんてそれって何やっても評価してくれるってことじゃないですか。もっとも、強面の先生が努力しろと厳しく言っているせいで大半の人がそのことに気付いていないみたいですが。


「さて、抜き打ちになるが今から学力テストを行う。中には合格通知が届いた後に気を抜いて勉学を疎かにした者もいるだろう。先生はそれを責めるつもりはない。これは現時点での君たちを知るための試験だ」


 いきなり抜き打ちでテストとは、虚を突いてきますね。でも私は合格通知が来てから猛勉強をしてきましたから、しっかりと予習もしたのでむしろ望むところです。


「ちなみにだが、他の3つの新入生のクラスにも同じ試験が配られている。今年の新入生の全体120名。その総合順位が後日掲示板に貼り出される」


 これは下手な成績を取るわけにはいかないですね……。下から数えた方が早いなんて事態になったらお兄様に顔向けできません。


「じゃあテストを配るぞ。前のやつから1部ずつ取ったら後ろに回してくれ。試験時間は2時間。流石にないとは思うがカンニングは問答無用で0点だからな。もし発覚した場合は親御さんにも連絡させてもらう。まだ貰ってないやついるか? いないな。じゃあ始め!」


 まず配られた用紙をパラパラとめくって問題を確認します。今日の試験は国語、数学、職業学、スキル学、4科目みたいです。1番苦手な帝国史が無いのは助かりました。問題の形式は数学以外は5肢択一問題で、全く分からなくても20%の確率、あるいは選択肢が削れればそれ以上の確率で当てることができます。


 よし、これなら大丈夫そう。時間も限られていますし得意なところからいきましょう。職業やスキルに関しては一通りお兄様から教えていただいているので間違えるわけにはいきません!


 数学は簡単な計算問題から難しい計算問題まで、さらに大問1つに対して(1)(2)(3)(4)と誘導がついた問題と、問題自体の難易度はそこまで高くないですが、計算問題の量が多いので時間に追われてケアレスミスが起こると満点を取るのが難しそうです。


 国語の主題は貴族の少年と平民の女の子が身分違いの恋をするお話。なるほど、学校の意識改革はここにも現れているということですね。


 ふぅ、なんとか時間内に全て解き終えることができました。職業学とスキル学で40分は想定されていそうですが、私はそこを10分で駆け抜けていけたので20分以上余裕が出来ました。その分を数学に回せたのは大きいです。


「そこまで。ペンを置いて。答案を後ろから回収する」


 うぅぅ……ちゃんと出来てるよね? って今更不安になってもしょうがないよね。切り替えないと!


 テストが終わって休憩時間になりました。今はご飯を食べに行くお昼休みという時間だそうです。なんでもこの学校にはお金持ち用のレストランがあるとか。お昼休みが始まってすぐに前の席のアレン君の周りには一緒にお食事をいたしませんかとどこかのご令嬢が集まってきています。まあ私には縁がないですね……私みたいな平民は平民のための食堂や購買に行くのが暗黙のルールみたいですので。私もその習わし通りに食堂に行くことにしましょうか。


 しかしこのままでは1人で寂しくご飯を食べることになってしまいますね。誰か平民のお仲間でも誘えたら良いのですが……。


 チラッと隣を見てみると、隣の女の子と目が合いました。ボブの髪型がお人形さんみたいです。目が合ったのはいいんですけどお互い何を話せばいいのか分からず5秒くらい牽制しあう状態が発生してしまいました。


「えっと。カレンちゃん……でしたっけ? 一緒に食堂いきます?」


「……!」


 コクコクと首が小さく縦に揺れました。小動物感があって可愛いです。立ち上がったときに私よりも10cmくらい小さいのがまた小動物感を際立たせてます。なんか孤児院の妹たちを思い出しますね。守ってあげなきゃという庇護欲が掻き立てられます……。


「行こ……アロエちゃん」


 きゅん。上目遣いなんてズルいです。そういえばトワさんが「可愛い女の子は愛でなきゃ失礼というものです」と言っていましたね。当時は何言ってるんだこの人と思っていましたが、今ならその意味がわかります。私がカレンちゃん親衛隊の第一号になりましょう。


「アロエちゃん……?」


「はっ! すみません! トリップしてました! 食堂に向かいましょう」


 危ない危ない。なんとか誤魔化せましたね。


 食堂についたら日替わりのランチを貰って空いている席に座ります。周りの席にいる人たちはみんな平民です。食堂は学校内で唯一平民が集まる場所ということもあって、ここが平民のコミュニティの場でもあるみたいです。また、お金持ちの商人の子なんかは貴族コミュニティであるレストランにも顔を出してコネを作りにいくとカレンちゃんが教えてくれました。


「カレンちゃん、詳しいんですね」


「わ、私の家、エッセンス商会っていう商会だから……」


 なるほど。ならカレンちゃんも食堂じゃなくてレストランに行ってコネクションを広げて……ってそんなタイプでもなさそうですね。そのカレンちゃんはパンをちぎって小さなお口で頑張って食べています。一口が小さくて可愛いです。ん? そういえばエッセンス商会って聞いたことがあるような……。


「エッセンス商会……ってあの調味料や香辛料を扱う大商会じゃないですか! お兄様、いえ私のご主人様がお米好きなので、また入荷したら買うと息巻いていましたよ」


「ご、ご主人様……?」


「あぁ、すみません! 私は今とあるお家で使用人として働かせて貰っていて、その方のご厚意で学校に通わせて頂いているんです」


「す、すごいです。もうお仕事してるなんて」


 ま、まぁ使用人業務はあまりこなせていない気がするけど……。


「アロエちゃんってお勉強も出来ますよね……さっきのテストの時、ものすごい勢いでペンが走ってたから……」


「どうなんでしょう……私の周りには私よりも凄い人がたくさんいますから。それに今回はたまたま無かったのでよかったですけど、私は帝国史や政治経済が苦手です」


 特にお兄様やトワさん……。数学や物理はお兄様、国語や政治経済はトワさんって感じですよね。うーん、次のテストまでに政治経済をトワさんに教えて貰った方が良いかもしれないです。その時はカレンちゃんも一緒に誘おうかな。カレンちゃんは何が得意で何が苦手なんだろ。


「ね」


「ねぇ。君たち新入生だよね。勉強のことで困ってるなら僕が教えてあげようか?」


 なんですかこの私とカレンちゃんの会話に割り込んできた無粋な男は。制服の色から察するに高等部の方でしょうか……。どことなくこちらを侮っている態度が鼻につきます。しかしなんとも軽そうな男ですね。カレンちゃんが怖がっているのでお引き取り願いましょうか。親衛隊としての初仕事です。


「いえ、間に合ってます」


 はっきりとNOと意思表示します。こういう手合いはまず話を聞いてはいけないとフィーネさんに教えて頂きました。取りつく島がないと分かればそこで諦めると。しかし一定数は諦めずに話しかけてくるそうです。


「か、過去問とか持ってないでしょ? 僕の部屋に来なよ。写させてあげるから」


 なのでそれでもしつこく絡んでくる輩には、女だからと舐めてかかってきたことを後悔させてやれとミーナさんは言っていました。


「結構です」


 吟遊詩人のスキル『言霊』で言葉に威圧感を込めます。今この先輩はまるで大型のモンスターと対峙しているかのような圧を感じているはずです。


「ひっ……あ、ご、ごめんなさい!」


 恐怖のあまりに腰を抜かして尻もちをついたかと思ったら、それでも一刻も早くこの場から離れなければとつんのめりながら逃げるように走り去っていきました。その珍行動に一体何の騒ぎだと周囲がざわついています。


 これはもしかしなくてもやり過ぎってやつですか?

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