第80話 損得勘定
「テンマ、不安なのは分かるがもう少し落ち着いてはどうだ?」
「そうだよ〜。ほらほら、ちゃんとソファに座って」
「あ、あぁ……」
そろそろアロエが学校から帰ってくる。今日はアロエの初めての学校ということもあり、レベル上げを早めに切り上げてアロエの帰りを待つことにしたのだが、学校がどうだったかが気になってどうも落ち着かない。まさか指摘されるほど態度に出ているとは思わなかった。
「俺、そんな態度に出てたか?」
「そんなリビングを何周もしていたら分かるかと……」
え、俺そんなソワソワしてたの? 完全に無意識だったんだけど。と、とりあえずみんなが冷静なのに俺だけ不安になっているのも格好悪いな。ちょっとコーヒーを飲んで落ち着くか。
コーヒーは南部の地方の特産品とエッセンス商会で売っていた豆を焙煎した。最初豆の状態を見た時は何か分からなかったが、お得意様だから食べ方を教えますよとそう言われて出てきたのがコーヒーだった。ほんとなんでも取り扱ってるなあの商会。ちなみに我が家でコーヒーを飲むのは俺、フィーネ、トワの3人だ。全員一度は体験したのだが、ミーナ、ココ、アロエは苦さで涙目になっていた。その3人も某コーヒーチェーン店のごとく砂糖と細かく砕いた氷を入れてフラッペにしたら喜んで飲んでいたので良い買い物ができたと思っている。
「落ち着いたか?」
「あぁ、心配しすぎだったな。我ながら情けない」
コーヒー独特の苦味で冷静になれた。何を心配していたんだろうな。アロエは賢い子だ。それでいて視野も広い。さらに性格も良いし、よくよく考えてみればそこまで心配する必要は無いのかもしれない。
「情けなくなんかないよ。心配になるのはテンマ君がアロエちゃんを大切に思ってる証拠じゃん」
「そうです。その慈悲深さはテンマ様の美点です。テンマ様が心配していたと知ればアロエも喜びますよ」
ほんとにおだてるのが上手いんだから。でもアロエに知らせるのはやめてくれ。やっぱり格好悪いから。落ち着いたところで玄関が開いた音がした。どうやら帰ってきたみたいだ。
「ただいま帰りました……って皆さんこんな時間に揃ってお家にいるなんてどうしたんですか!?」
そこ驚くところなの? そう思いつつ俺は『弓術師』のスキル『観察』でアロエを見る。素早くかつ念入りに、微細な変化すら見逃さない。ふむ、表情に陰りなどはないな。学校で嫌なことがあったとかそういうことはなさそうだ。
「おかえり。学校はどうだった?」
「いきなり抜き打ちで学力テストがあってびっくりしました。あと、お友達が出来ました! カレンちゃんって言うんですけど、とても可愛いんです!」
それは良い報告が聞けたなぁ。俺としては学校に行く動機がその子に会いたいからとかでも良いと思う。アロエが楽しいと思ってくれているのが1番だ。でも、何だろう。ちょっと嫌な予感がする。
「トワさん、私トワさんが言っていたことの意味をようやく理解しました。可愛い女の子は愛でなきゃ失礼ですよね!」
「全くもってその通りだと思いますけど何故今その話を?」
トワ、お前そんなことアロエに言ってたのか……。おおかたアロエにそんなこと言いながらちょっかいかけてたんだろうな。
「トワ」
「さて……わたしはレベル300に向けてもう少し頑張ってきますね」
あ、逃げた。トワって頭良いのにたまにアホの子になるんだよな。
「そ、そのカレンちゃんとは仲良く出来そうか?」
「はい! 私がカレンちゃん親衛隊第一号になりました!」
どういうことなの? アロエさん、あなたもしかしてこの家の女性陣の悪いところばっかり吸収してない? アロエも薄々気付いてたと思うけどこの家の女はみんなアホの子だぞ。毒されすぎだよアロエさん、あなたもアホの子に片足突っ込んじゃったよ。まぁでもアロエがそれをやりたいなら否定はしない。
「そういえばカレンちゃんはエッセンス商会の娘さんなんですよ」
「あのでかい商会のか!? そんな大物ほんとにいるんだな……」
「ミーナ……貴族が7割だからその子は学校全体で見るとそこまで大物じゃないと思うよ」
まぁそうだろうな。学校には皇女様までいるそうだし。というかミーナは理解してなかったのか!?
「そうですね……。大物と言うと私の前の席の男の子は公爵令息でしたね。あと、その男の子とお近づきになりたい伯爵令嬢とか子爵のご令嬢とか、あれは住む世界が違いますね。貴族の知り合いなんていませんし……」
それはガチの大物だな。でもアロエ、私は貴族の世界とは無関係ですって顔してるけど一応俺伯爵位持ってるから。言ってないだけで。
「公爵令息に伯爵令嬢……学校はとんでもないところなのだな」
ミーナ……お前は俺が伯爵位貰ってる時に隣にいたのに。まぁあくまで王国貴族なだけだからこっちでは何の効力も持たないけどね。忘れてるなら忘れてるでいいや。
「2人ともさ、トワが王女様ってこと忘れてない?」
「「あ」」
あ、ってお前ら……。トワ、お前王族と思われて無かったぞ。トワはトワで元王女と元の部分を強調するんだろうな。
「ま、まぁとりあえず友達が出来たなら良かったな」
「けどさ、それがテンマ君が贔屓にしてるエッセンス商会の娘さんだなんて。面白い縁もあるんだね」
「そうだな」
まぁでもそういうこともあるだろうと思ってはいた。学校だってタダじゃない。貴族が7割、平民が3割と言うが、その平民3割のほとんどはどこかの商家の者だろう。教養を身につけるのもそうだが、貴族との縁が作れると考えれば高い金を投資する価値があるからな。打算的な考えだが、商人らしい。だったらそのカレンちゃんが損得勘定で物事を考える子じゃなくて良かった。でもカレンちゃんも自分の利益になる子と仲良くなりなさいと圧力をかけられているかもしれないな。
「よし、今度カレンちゃんを家に招待しよう」
ならばアロエとの交友関係にメリットがあることを教えてやればいい。それこそエッセンス商会が2人の関係に口を出せないくらいのな。腕の見せ所だ。




