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第68話 仲直りの供物

「ココ、どこにいるんだ?」


 アロエのことはみんなに任せて俺はココを探す。ただ、ココが本気で隠れているとなると見つけるのは不可能に近い。幽体化されたら姿が見えなくなるし、仮に見つけたとしても壁や天井をすり抜けて逃げられてしまったらまた見つけるところからだ。


 なので向こうから出てきてもらわなければならないのだが、困ったことに呼びかけに反応してくれない。


「聞こえない場所にいるのか、それとも姿を見せる気がないのか」


 前者ならいいんだが、もしかすると俺とココの我慢比べになるかもしれないな。こんな時でなければ望むところではあるのだが、今は早くココと話をしなければならない。そんな気がする。


「ココ〜!」


 呼びかけに反応はない。本気で隠れてしまったのか……。いや、どうやらそうでもないみたいらしい。わざと魔力の残滓、魔力痕というのだが魔法を使った痕跡を残している。それは俺の部屋へと繋がっていた。そんな初歩的なミスをするはずがない。


「ココ、いるか?」


 俺は部屋の前につくとノックをして返事を待つ。自分の部屋なのに。おそらく中にいるのだろうが返事はない。


「入るぞ」


 中に入って目につく範囲にココの姿は見えなかったがしっかりと気配だけは感じられた。気配が感じられる時点で幽体化もしていないということになる。魔力痕を残していたあたりやはり本気で隠れるつもりはないらしい。


 多分ここだろうなと俺は布団をめくってみる。ココは枕を抱きしめながら泣いていた。


「お兄ちゃんはココのことなんてどうでもいいんだ……」


「待て、どうしてそうなるんだ」


 俺はココのことを蔑ろにしたつもりは無かったんだが、だけどココはそう思ったから傷ついているわけで……いったい何がいけなかったのだろうか。


「お兄ちゃん、新しい妹作ってた」


「ん!?」


 言い方ァ! そんな新しい女作ってたみたいに言わないでくれない? いや3人奥さんがいる俺が言うのもなんだけど。


「お兄ちゃんはもうココのこといらない?」


「そんなココの代わりになんて考えたこともない。ココもアロエもどっちも大切な妹だ」


「そこはココだけで良いのに……」


 たしかにココを喜ばせるためだけに嘘をつくことも出来たかもしれない。けどそれは2人のことをどっちも蔑ろにする行為だから出来なかった。


「ごめんな。でもココのことを大切に思ってるのは本当だから」


「うん……前にトワお姉ちゃんがこういう時に両方の名前をあげる男の方が信用できるって言ってたの……」


 おいトワさん!? お前なんて話をココにしてんだ!? そんなドロドロな多角関係の話するなよ!? でもそのおかげで俺の潔白が証明できたからなんか複雑だわ。


「お兄ちゃん、お布団入ってきて」


「はいはい」


 そういえば俺が寝てる時にココが忍び込んでくることは良くあったけどココが寝てるところに俺が入っていくケースは無かったな。そういうのも蔑ろにされているように感じていたのかもしれない。


「えへへ、久しぶりのお兄ちゃんだぁ」


 ココは俺の胸に顔を埋めてグリグリと押しつけてくる。なつき度マックスの犬より激しい。思う存分グリグリしていいぞという気概でいたのだが、その動きが不意にピタッと止まる。不安そうな目で俺のことを見つめてきた。


「お兄ちゃん、ココのこと嫌いになってない?」


「ああ、ちゃんと好きだぞ」


「ココ悪い子なのに……?」


「悪い子だったら今そんなに悩んでないだろ?」


 少なくともアロエを傷つけてしまったことでココ自身も傷ついているように見える。優しい子だから人を傷つけることに慣れていないんだ。


「あとであの子に謝りに行きたいの……許してくれないかもしれないけど、それはココが悪いから仕方ないの」


「そうだな。けど多分大丈夫だよ」


 ほら、やっぱりいい子だ。でもアロエも同じくらいいい子だからこの2人に関してはただファーストコンタクトが失敗しただけで悪い結果にはならないというのはなんとなく想像できた。


 そのあと、アロエがお風呂から出てきたタイミングでココと引き合わせることにした。


「ひっ……」


「あぅ……」


 アロエはココの姿を見るなりミーナの背後に隠れてしまう。本能みたいなものだからこればっかりは仕方ない。結局その恐怖心を取り除けるかどうかは当人達次第だ。


「さっきはごめんなさいなの!」


 ココは直角になるところまで頭を下げて謝罪した。普通許してほしいと媚びそうなものだが、ココは余計なことを言わずに誠意を尽くした。あとはそれをアロエが受け入れるかどうかだ。


「アロエ」


 まだ怯えている様子を見せるアロエに対してミーナが呼びかける。アロエはミーナの背後から出てきた。


「しゃ、謝罪を受け入れます。なので頭を上げてください」


「……怒ってないの?」


「お、怒ってないです。さっきお風呂でココットちゃんのこと色々聞かせてもらいました。もし私がココットちゃんと同じ立場だったら、私も同じことをしてるかもしれないですから……」


 どうやらアロエのわだかまりは解消したらしい。ファーストコンタクトではどうなるかと思ったが、良い方向に転がりそうで良かった。


「これにて一件落着だね〜。久しぶりにお家に帰ってきたことだし今日はテンマくんと朝までしっぽりと……ってあいたー!」


「おい! 子供の前だぞ自重しろ!」


 フィーの機転? いやもしかすると本気で言ってるかもしれないけどそのおかげで少し重かった空気が和らいだ。ただ子供の教育に悪いのは完全に同意だ。しばかれても仕方がない。


「そうだ! ココ、アロエちゃんのこともっと知りたいの!」


「私も、ココットちゃんのこと教えてほしいな」


 あー、良い考えだ。仲良くなるなら相手のことを知るのが1番だからな。ぜひ今日一日で相互理解を深めてほしい。


「だったら今日はお兄ちゃんの部屋で一緒に寝るの!」


「む?」「え?」「むぅ……」


「ふぇ!? お兄様と!? い、いいのかなぁ……」


 あれぇ? こういう時って2人で一緒に寝よってなるんじゃないの? まぁ別にダメじゃないけど。


「はぁ……仕方がないですね。フィーお姉様、ミーナお姉様、今日はわたしたちも3人で寝ませんか?」


「そうだな。私たちも改めて親睦を深めるとしよう」


「いいね〜女子会。じゃ、そういう事だからテンマ君おやすみ〜」


 そうして3人は部屋に向かっていったんだけどなんか嫌な予感がするな。なんならトワが作戦会議しますって俺にも分かるようにわざと顔に出してた。おそらく3人で夜戦を仕掛けてくる時が来るだろう。数日後の俺が心配だ。


 この時俺はココやアロエは子供だからと侮っていた。数日後の心配なんてしている場合じゃなかったのだ。


「お兄ちゃんの右半分はココがぎゅーするの! アロエちゃんに左半分はあげるの!」


「お、お兄様……失礼します」


 俺の腕を枕にしながら密着してくる幼女たち。ミーナ、フィー、トワの3人と違って性的な悪戯は仕掛けてこないが、これはこれで社会的に死ぬ。


「お兄ちゃんの活躍の話聞かせてほしいの!」


「えっと……お兄様はですね……」


 は、早く寝てくれ〜!!

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