第15話 単純な男
「間の抜けた顔をしてないで、いいからこい!」
俺はそんな顔をしていたのだろうか。呆けているうちにミーナに手を引かれてギルドまでやってきてしまった。
「あいつがお前と決闘すると息巻いていてな。因縁があるんだろ?」
「因縁というか、まぁ最近絡まれているな。たしかガリウス……? ガレウス……?」
「知らないのか?」
ガレウス? ガリウス? そんな感じの名前だったことは覚えているがどっちと聞かれると自信がない。まぁ自己紹介したわけじゃないからな。
「よぉ、待ってたぜ!」
俺に気づいた男が開口一番に言ったセリフがこれだ。こいついつも俺のこと待ってんな。
「あー、たしかガリェウスだったか?」
「絶妙な発音で誤魔化したな……」
後ろからミーナに小声で突っ込まれる。悪いか?
「あんた、俺に付き纏うなってギルドから警告が出てなかったか?」
「ま、そんなこともあったかもな。けどこれはギルドも認めた正式な決闘だ」
俺が認めてないんだが? そんな俺にメリットがないのになんで決闘なんざしなきゃならんのだ。
「テンマ様、こちらをどうぞ」
「アリサさん? これは……」
「依頼書です」
アリサさんに貰った書類によると、どうやらこれは俺に対する指名依頼ということらしい。金で俺と決闘する権利を買ったみたいだ。その額、100万ゴールド。ギルドはふっかけたらしいが、ガリウスはそれに乗ってしまった。
「指名依頼を受ければ、ギルドが提示した依頼料の半分を貰うことが出来る」
ということは俺に50万ゴールド? そんなの俺に得しかないじゃん。
「それってあいつにメリットあんの?」
「冒険者は優劣に拘るところがあるからな。1回の勝負とはいえこれであいつがテンマに勝てば、他の冒険者にあいつの方が強いと知らしめることが出来る。アピール料にしては高いとは思うが、これに相場なんかないからな」
アピール料ねえ……もしかしてこれってミーナにアピールしたいんじゃ……あれ? 元を辿れば俺があいつに絡まれるようになったのもミーナのせいじゃね? でもミーナなら仕方ないかぁ……。
「どうする? もちろん拒否することも出来る……が、ここで断るとなると……」
「分かってる。逃げたように見えるってことだよな」
あれだけ騒がれてしまったらどうしようもない。指名依頼の内容をギルド職員が漏らすのはコンプライアンス的に問題になりそうだけど、依頼者が喧伝するケースは無かったんだろうな。
ここで俺が受けないと言ってもギルドの内申点には響かないだろうが、盛り上がっている冒険者連中は勝てないから勝負から逃げたと思うだろうな。結果的に決闘に勝ったのと同じだ。
まぁ、俺としても50万ゴールドがポンっと入ってくるというのは願ってもないことだ。なので決闘を受けようと思う。
「アリサさん、この依頼受けますよ。ただし条件があります」
俺が提示した条件、それは決闘の日にちだ。
「1週間後まで伸ばしてやったぜ。この間にレベル上げだな」
たしかガリウスはレベル40、戦士レベル24と言っていたはずだ。今の俺ではレベルも装備も負けている。厳しいなんてもんじゃない。特に戦士は防御に補正がかかる職業なので俺の攻撃が全然効かない可能性だってある。剣士レベルを30まであげて攻撃を上げるのは絶対条件だ。
「トレント、行ってみるか……」
結果としてトレントは1体倒すのに2〜3分はかかることが分かった。トレントは遠距離攻撃や火属性魔法でハメ倒せるのだが、俺が出来る唯一の遠距離攻撃『スラッシュ』ではトレントを削るには火力が足りなかった。
なので最初に習得したスキルのパワーストライク+(剣士レベルが上がって威力が上がった)を使って戦ったのだが、苦戦を強いられた。
経験値、職業経験値ともに14。トレントは圧倒的に効率が悪い。しかしトレントを無視すれば効率の良い狩場だった。まずスライムの遭遇率が減ってウルフの遭遇率が増えた。どちらもワンパンならウルフの方が効率が良い。
そして、特筆すべきは『ウルフウォーリア』というモンスター。名前は黄色で同レベル帯のモンスターなのだが、称号『ウルフの天敵』のおかげでこちらのダメージが1.2倍で通るのがかなり有効に働いている。
パワーストライクを使って更に会心が出るとこのウルフウォーリアがワンパン出来るのだ。会心が出なくても2発と非常に効率が良い。経験値、職業経験値ともに30の大物だ。一度良い攻撃を貰ってしまった時で20のダメージだったので何発か耐える余裕がある。ちなみにトレントの攻撃を受けた時は16ダメージだった。まともな防具をつけていれば10以下に抑えられるのだろうか。
そして、もう一つの成果はスキル『剛体』の効果だ。ウルフウォーリアの20食らうはずのダメージが、剛体使用中はなんと5に抑えることが出来た。効果は5秒継続し、クールタイムが30秒と非常に使い勝手が良い。
「これなら安全だ」
不意打ちを受けなければという条件はつくが、同レベル程度の相手との1対1はかなり安全だと言える。
ウルフウォーリアを複数相手にするのはまだ危険だが、それでも剛体のおかげで俺の行動範囲はかなり広がった。
もしかすると剛体を使えば西の山でも活動が出来るかもしれない。『アグリーベア』は無理でも、『ワイルドボア』程度なら安全に倒せる可能性が高い。
ここ数日で強くなるにはスキルが大事だということは理解した。スキル1つで文字通り世界が変わる。特に上級職のスキルの有用性がヤバい。
素早さステータスのために武闘家を選ぼうと考えていたが、スキルのために剣豪になるのもありかもしれない。よし、剣豪のスキルについてミーナに聞いてから決めよう。
俺はひとまず保留にしてレベル上げを続けた。
テンマ(18):レベル30
体力:76
攻撃:148
防御:92
魔力:36
器用さ:65
精神力:67
素早さ:114
職業:『剣士』 レベル23
称号:『異世界人』『スライムの天敵』『ウルフの天敵』
これが今日の終了時点でのステータスだ。レベル30になったので今日から1日1〜2レベル上げれば決闘の日までにレベル40にはなる。
夜、一応女性の部屋に行くということで風呂に入って身なりを整えたあとミーナの元を訪れた。
「こ、こんな時間にどうした?」
ミーナはいつもの装備でなくスウェットのような部屋着で出てきた。やや上気しているように見えるのはミーナも風呂上がりだからか、若干髪が濡れている。
あれ、なんか緊張するな。
「いや、スキルのことを教えて貰いたかったんだが……」
一応女性だからって思ってたけどガッツリ女性だわ。こんな綺麗な人を一応女性としか思ってなかったって俺の目はビー玉か何かか?
「スキル……? そ、そうかスキルか! ほら、そんなところに突っ立ってないで早く入ったらどうだ?」
「お、おう」
なんか、こんな時間に期待をさせてしまったかもしれないな。色気のない話で申し訳ないね。
「剣豪で習得出来るのは『心眼』というスキルだ。防御を貫通してダメージを与えることが出来る」
「うーん……微妙かなぁ……」
防御力が高いモンスター……ハードスライムとか? もしかするとミーナならハードスライムに逃げられる前に倒せるかもしれない。
「そういえば異様に耐久力が高いスライムって知ってるか?」
「あ、あぁ……冒険者ノートに書いてあるやつだな」
あ、そういえばヘイストスライムと一緒に書いてあったな。ヘイストスライムを知っていたミーナが知らないわけがないか。
「この前あれを倒したんだけどさ」
「あれを倒したのか……」
「いや、多分ミーナも倒せるよ」
なんでも倒そうと戦っているうちに液状化して土に還ってしまうらしい。こいつもこれまで倒されたという報告が今まで無かったそうだ。まぁ、剣豪になったような人がわざわざスライムと戦わないというのが1番の理由だろうけど。
「で、倒した時にドロップしたアイテムがこれなんだけど……防御+15と『剛体』が使えるようになる指輪だ」
「お前、そんな一攫千金の情報をホイホイと教えるな……しかもそれは『騎士』のスキルじゃないか……」
そうか? むしろ俺はお金以上に大切な情報を貰ってると思うんだけど。ミーナのこの情報は俺が剣豪のレベル上げに回す時間に相当する。なんならこの程度の情報では足りないくらいだ。
「これじゃ足りないくらいだよ。ミーナのおかげで俺はまた強くなれる」
「は? 私は何もしていないだろ?」
「いやいや。ま、決闘の日を楽しみにしててよ。男子三日会わざれば刮目して見よってね」
「ふっ、なんだそれは。とはいえ、1週間前までは右も左も分からなかったやつがレベル40のCランク冒険者相手に立ち向かうとはな……」
「無謀だと思うか?」
「普通ならな。けど、お前はこれまで討伐例の無かったレアなスライムをいとも容易く倒している。本当に何か秘策があるのではないかと思わせてくれる。私自身そんな柄ではないと思っていたんだが、お前を見ていると子供の頃に聞いた英雄譚を思い出す。次の展開に期待し興奮する、そんな童心は私には残っていないと思ったんだがな」
英雄譚ねぇ……仮に俺が主人公だとしたらなんて地味な主人公だろうか。危険に立ち向かおうとしないでなるべく安全にスライムやウルフを倒してレベル上げ、そんな話したらクレームが爆発すると思うんだが? とはいえ、そんな風に思われて気分は悪くない。それがミーナみたいな美人が相手なら尚更だ。あぁなんか途端に勝ちたい欲が出てきたなぁ。
「英雄か、なら勝たなきゃだな」
「そうだな。ま、なんだ。私も長々と語ったが、簡単に言うとだな……お前を応援しているってことだ」
……やばいな。これまで生きてきた中で一番頑張れる気がする。




