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第16話 決闘 

 ついにガリウスとの決闘の日がやってきた。場所はギルドの地下にある訓練場を使用するということだった。訓練場にはすでに観戦目的の冒険者がざっと見ただけで100人くらいいた。


「はったはったぁ! ガリウス1.2倍! テンマ2.6倍だよ!」


 どうやら賭けも行われているらしい。ガリウスはCランク冒険者ということもあって有名なのか、倍率が2倍以上違った。まぁ俺がFランクだってことも周知されているみたいだからこうなるのも無理はない。


 むしろ、俺に賭ける人が少ない方が嬉しいかな。俺で金儲けされるのも癪だし。


「なんだ、逃げずに来たみたいだな」


 ガリウスは既に準備万端と言った様子で訓練場の真ん中にいた。

 着てるだけで暑そうな鎧に、剣と盾を持っている。そして更にそこにもう一人、タンクトップ1枚とまともな装備を付けていないというのにガリウスと同じくらいか、それ以上に圧のある筋骨隆々とした男が立っていた。このおっさんの方が強そうだな。


「さっさと始めるか」


「けっ、いけすかねぇ野郎だ。だそうだギルマス、準備オーケーだとよ」


 ギルマスと呼ばれた男は「うむ」と頷くと俺たちの真ん中に移動した。


「今回はギルドマスターの俺が審判を務める。なお、今回の決闘についてだが、相手を殺すなどの悪質な行為があれば即懲罰房にぶち込んでやるからそのつもりで望むように。また、万が一に備えて白魔道士が控えているが、四肢の切断については治せないので回復要員がいるからと無茶な行動をしてもその後の補償はできない」


 おお、白魔道士……! あるかもとは思っていたがやっぱり回復魔法もあるのか。切断は治せないというが、繋がっていれば治せるということだろうか。自分の身体を実験台にはしたくないのでいつか白魔道士になったときに他の人で試そう。


「テンマだったか、武器はいいのか? 報告書には剣士だと書いてあったんだが……」


「あぁ、素手で構わない」


 おそらくギルドマスターは俺とガリウスのランク降格処分になったその報告書辺りで情報が止まっているのだろう。今の俺は剣士ではなく『武闘家』だ。


「そういうところが、いけすかねぇんだよ!」


「待て! まだ開始の合図はしていない!」


 フライングで突っ込んでくるガリウスは静止の声に止まらない。これは悪質ではないのだろうか。まぁ別に止めなくても問題ないんだが……。


 ガリウスは走って突っ込んだまま剣を振り下ろしてくる。殺す気満々じゃんと思ったけど本物の剣じゃなくてレプリカなんだな。

 そんなことを考える余裕すらある。


「シッ!」


 俺は振り下ろされてくる剣に横から蹴りを入れてその軌道を逸らす。ガリウスはそれだけで剣を手放していた。

 本来ならもう負けだと思うのだが、何が起こったのかよく分からないといった様子だった。観客の冒険者もほとんどがポカンとしている。


「待て! これはノーカンだ」


「おい、ガリウス?」


 今のは静止の声が入ったせいで剣を手放してしまったそうだ。そもそも開始の声がかかっていないから勝ち負けも存在しないらしい。ギルドマスターはそれは通らないだろうと言いたい様子だった。


「まぁそう言いたい気持ちは分かる。確かにまだ開始の合図は出ていなかった」


「いやいやテンマ、今のはどう見てもお前の勝ちだろ! それに開始前に攻撃を仕掛けるなんてそれこそ言語道断だ!」


「まぁまぁギルドマスターさん。静止の声で止まろうと思ったみたいだしさ。これだとお互い不意打ち合戦みたいなところもあったし、決闘としてはふさわしくないんじゃない?」


「お前はどっちの味方なんだ!?」


 ギルドマスターになんなんだよコイツって目を向けられる。いや俺としてはこれ以上ちょっかいをかけられないように完膚なきまでにへし折りたいだけなんだが……。


「へへっ……なら仕切り直しだな」


 ガリウスが嬉しそうにしている。けど、お前はお前で俺が再戦を許可しているということに違和感を覚えた方がいい。そんなだからさっきみたいに足元を掬われるんだ。


「テンマがいいならそれでいい……みたいだな。仕方ない……では、改めてはじめ!」


 今度は警戒しているのか突っ込んでこなかった。まぁもともと戦士は防御力を武器に戦う職業だからな。素早さに下降補正がかかっているのに不意打ちで突っ込んでくるのは愚の骨頂とも言える。


「じゃあ今度は俺から行くか」


「な、速ッ……!」


 武闘家の素早さを活かして間合いに踏み込む。苦し紛れに横薙ぎに振った剣を躱してガラ空きになった胸を殴る。


「へへっ! 効かねぇな!」


 戦士の持ち前である防御力に更に防具の性能が加わるため、単純な攻撃ではダメージが入らないみたいだ。しかし……


「『発勁』」


「なっ、うわぁぁぁ!!!」


 武闘家スキル『発勁』は一瞬だけ手や足からエネルギーを放出する技だ。強いエネルギーを重心よりも上に与えられればバランスを保てなくなる。大きなトラックでも突風に煽られれば簡単に飛ばされるのと同じだ。


 そして、武闘家の一部のスキルは威力が素早さに依存する。発勁もその一つだった。


「話が違うぞ! あいつスライムばっかり狩ってるって話だったじゃねぇか!」

「絶対勝てる話があるからって言うからお前に賭けたのによぉ!」

「というか、あいつFランクだろ! なんで普通に戦ってガリウスが押されてんだよ!」


 野次が聞こえてくるけど阿鼻叫喚だな。まぁ俺がこの2週間スライムばっかり狩ってたのは事実だけどな。なんで普通に戦ってガリウスが押されているかだって? そんなの普通に戦っても勝てるステータスをしているからに決まっている。


 テンマ(18):レベル46

 体力:112

 攻撃:216

 防御:126

 魔力:107

 器用さ:90

 精神力:45

 素早さ:308

 職業:『武闘家』レベル10

 称号:『異世界人』『スライムの天敵』『ウルフの天敵』『剣の道を歩む者』


 ギリギリまでレベリングして武闘家レベルを10にして素早さ+10もしっかりもらっておいた。剣士レベルも30まであげた。貰えるものは全部貰ったつもりだ。


「おいおい、随分と情けない声を出していたが大丈夫か?」


「この野郎……だがダメージはさほど入っちゃいねぇ。戦士の戦い方を見せてやる」


 ガリウスは盾を構えてジリジリと距離を詰め始めた。1歩、1歩、ゆっくりと距離を詰めてくる。俺はそれを待ってやる義理はない。


「『気弾』」


 武闘家レベルが8になった時に波動を拳に乗せて飛ばす遠距離攻撃が出来る様になった。俺の身体ってもうファンタジー。


「『パリィ』」


 それをガリウスは盾で弾いた。へぇ、戦士って盾を使ったスキルなんだ。ジリジリと詰めてきたので今度は自分から間合いに入ってみた。しかし今度は闇雲に剣を振ることはなかった。


「発勁」


「『シールドバッシュ』」


「何だ……!?」


 俺の攻撃に対してガリウスは盾を合わせてくる。その瞬間、まるでエネルギーが跳ね返されたかのような衝撃が襲ってきた。このままだと後ろに飛ばされて転んでしまう、俺はそうならないよう重心を下に落とし飛ばされながらも足が地面から離れないように耐えた。


「終わりだ!」


「!」


 ガリウスはその隙に追撃を仕掛けてくる。なるほど……これが戦士の戦い方か、勉強になった。


「いけぇぇ!!」

「ガリウスゥゥ!!」

「あぁぁぁ!!! 俺の1万ゴールドォォ!!!」


 これは避けられないな。観客も俺の負けだと思ったのか叫び声から伝わってくる。回避できないなら、回避しなきゃいい。


「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」


 振り下ろされた剣を腕をクロスしてガードする。俺にだって防御の手段がある。


「『剛体』」


「あ………?」


 勝った、と思ったんだろうな。歓喜に塗れた表情のまま固まっている。当然だ。武闘家の俺が『戦士』の、それも上級職である『騎士』のスキルを使ってくるなんて思わないだろう。


「『発勁』」


 俺はそのまま無防備に晒されたガリウスの顎を撃ち抜いた。防御力が高いから死にはしないだろう。ダメージで起き上がれないガリウスと全くの無傷な俺。どちらの勝ちかは一目瞭然であった。


「勝者、テンマ!」

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