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偶然に偶然が重なる

カクヨム、アルファポリスで同時掲載

大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。

※ Xにイメージイラストがあります

 リッチを無事に撃退し、ユリィはまだその余韻に浸っていた。


 しかし、現実に引き戻された。


 人混みの向こうから、物々しい声が響いている。


「こっちだ!」


 野次馬を掻き分け進む、警備兵の一団が見える。負傷した商人がこちらを指差し誘導する。


「チエム団と少年が乱闘になって変な、老人が魔法をぶっ放した!」


 ようやく駆けつけた警備兵。いっときは待ち侘びていた存在。


 だが今は違う。現状を鑑みればその結論に行き着く。


−面倒ごとになる−


 誘拐を目撃したのが発端に始まったこの騒動は、最終的には街を巻き込む大事へと発展した。もはや二人は完全に当事者。そうなれば必然的に取り調べを受ける事になる。


 そう考えたユリィは、すぐさまアヤンの手を掴んだ。


「アヤン、こっちだ!」


 手を引き近くの路地裏へと引き込む。


「あの…どうして逃げるのですか?」


 意図の読めていないアヤンが問う。


「取り調べで根掘り葉掘り聞かれるのはいやだろ?」


「まあ…、確かにそうですね」


 これ以上あの連中に関わりたくない。それにはアヤンも同意見だった。


 再び路地裏に飛び込んだユリィは、手探りで進む。やがて別の通りへと出た。


 人通りは多いが、さっきより旅人や輸送用の馬車が頻繁に行き交っている。視線を上げると、王都を囲む城塞が見えた。


「ここは、西門の近くだな」


 本来戻る予定だった冒険者ギルドとは離れている。だが、この辺なら土地勘がある。


「とりあえず街を出よう!」


「いっ、今すぐにですか?」


 心の整理がついていないアヤンを、ユリィは半ば強引に引きつれる。そのまま城壁にある出入り口へと向かって走り出した。



「街を出る予定ではありましたけど、急でしたね」


「俺もそのつもりだったけど、こんな形になるとは思っていなかった」


 街道を歩きながら、二人はぼやいた。本来なら、もう少し準備に時間をかけるつもりだった。だが、あのような騒動を起こした王都に長居するのは得策じゃない。警備兵には捜索されている可能性もある。それに、ゴロツキ達と一悶着を起こしてしまった。そうなれば、この街にはもういられない。それはアヤンも同じだ。


 進学のために三年間を過ごした王都。このような結果になったが、さほど未練はない。それより今は無事に切り抜けた、その満足感で充分だった。


「とにかく、次の街まで送るよ」


「ありがとうございます。お手数をおかけます」


「ところでだけど。あれだけ魔法が使えるに、どうして上級魔術学院に進まなかったの?」


「えっと、それは…」


 ユリィはそれを不思議に思っていた。学院で優秀な成績を収めた者の多くは、宮廷魔術師を目指して上級魔術学院へ進学する。冒険者登録をしているということは、その道を選んでいないとなる。


「もしかして家庭事情?そうだとしても、アヤンなら特待生の話が来そうだけど…」


 ユリィ自身、孤児でありながら特待生として魔導学院に通えた。上級魔術学院にも、成績優秀者への優遇措置は存在する。学費が免除され、裕福でなくても通うことができる。


「……」


 アヤンは目を伏せ、そのまま黙り込んだ。


「えっ…、何かまずいこと言った?」


 しばらくの沈黙の後。アヤンは、恥ずかしそうに冒険者カードを差し出した。


 受け取ったユリィは、訝しげにカードへと目を落とす。


「……これって、どういうこと?」


 思わず声が漏れる。見間違えかと思い、もう一度確認した。


「これ…、確かだよね」


「………」


 アヤンは答えず、俯いたままだ。


「こんな能力値、あるんだ…」


 ギルド発行の冒険者カードには、習得済みのスキルが羅列されている。


 魔法職にある補助魔法の欄。回復・解毒・防御力強化・魔法防御強化・速度強化。


 これらは術士が最初に覚える初級魔法。アヤンのカードには、それら全てが最低ランクと記載されていた。


 一方、精霊術は全て最高ランクが表記されていた。なお、これらはギルドが計測可能な結果であるため、実際はそれ以上。一瞬偽造を疑った。だが、ギルド発行を示す刻印が施されている。


「そういうことか…」


「はい…。お金があっても、進学なんてできません」


 術士に求められる魔法が、最低限のものしか扱えない。結果として、進路が決まる事なく卒業式を迎えた。卒業後は住み込みの飲食店を見つけ、そこで日銭と稼ぐ日々を送っていた。


「まあ…、俺も人のことが言えないけど」


 ユリィは、自身の生い立ちから現在に至るまでの経緯を語った。


「実は、私も孤児院育ちです」


 その共通点にユリィは驚愕した。


「じゃあ、魔導適性の検査が良かったから、聖堂学院に通えたの?」


「はい、その通りです」


「俺は、アヤンと違って得意な魔法がないけどね…」


「そんな落ち込まないでください!」


 アヤンは一歩前に出て、はっきりと言った。


「武術が得意じゃないですか!もっと自信を持ってください!!」


 女の子に励まされるのは、普段なら悪い気がしない。だが今回は、素直に喜べなかった。


「俺は、修行をさせてくれる道場へ向かうことにした」


「私も、精霊術に特化した精霊術士を目指す事にしました。ナバの神殿に行けば修行ができると聞いて、そこに向かう予定です」


「ナバって…どこだっけ?王都から遠いのかな」


 これから旅に出るというのに、ユリィは地理に疎い。学院の定期考査のために覚えた知識は、試験が終わると同時に頭から抜け落ちていた。


「キキン地方の、サカウオ地区にあります」


「サカウオ!?俺、そこにあるメウダって場所の寺院を目指しているんだけど」


「メウダですか。確か…ナバから西に進んだところですね」


 ユリィは驚愕した。生い立ち、特待生として進学、得意分野はあるのに落ちこぼれる。奇妙なくらい共通点が続いた。それなのに、目指す方角まで同じ。


「ええっと…。同じ地区ってことは、近いのかな?」


「そこまで離れてはいないみたいです。ちなみにサカウオの人達は、ナバのことを『ヒガシ』、メウダを『ニシ』と呼んでいるそうですよ」


「方角が同じだけじゃなく目的地も近くなんだね」


 ユリィは唖然となりつつも、予定が狂ってしまった。


 本来なら王都にいられなくなったアヤンを別の街まで送り届ける。そこで、パーティメンバーを探してもらおうと考えていた。しかし、アヤンもまた遠出のために冒険者になっただけ。そうであるなら、他者に託すために送り届ける必要がなくなる。


−待てよ、俺もアヤンもパーティを組む予定はない。でも進、行方向が同じなら一時的に組んで行動するのは…−


 そこまで考えて、ユリィは首を振った。冒険者としての実績は皆無。そのよう出会ったばかりの男と、年頃の女の子が行動を共にするなど、普通はあり得ない。


 そう結論づけた、その時だった。アヤンが、突如として足を止めた。


「ところでですが…」


「どうかしたの?」


 ユリィも足を止め、振り返る。


「ユリィさん。よろしければ…いや、よろしければですが」


−まさか。いや、そんなわけは…–


「私と、パーティを組んでいただけませんか?」


 そう聞こえた。いや、聞き間違いじゃない。確かにそう言った。


 ユリィは自分の耳を疑い、その場に立ち尽くした。

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