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人生最大の危機に瀕する落ちこぼれ(二回目)

カクヨム、アルファポリスで同時掲載

大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。

※ Xにイメージイラストがあります

 通りは怒号と悲鳴に満ちていた。

 露店が道にはみ出、商品が散乱している。

 それらが避難の妨げになっていた。


「おい、お前が頭か」


 指示役らしき魔導士へ、カチルは歩み寄る。


「何だ、貴様は?」


 首元や袖の装飾が、他の三人より明らかに多い。

 間違いはなさそうだ。


「誰の差し金だ?」


「おいおい…」


 男は呆れたように笑った。


「本気で教えると思っているのか?」


「期待はしていない」


「なら、なぜ聞く」


「情けだ」


「はあ?」


「無理にでも口を割らせる。だから慈悲を与えた」


 次の瞬間、男の足元が砕けた。

 爆ぜた地面が、牙のように襲いかかる。


 だが、男はすでに中にいた。

 効果は…どうやらない。


 通称、地雷魔法。

 地面を爆破する土属性の術。


「ダメか」


 間髪入れず、次の魔法を展開する。

 地面から楔状の石が突き上がる。


「そらよ」


 男が手を広げた瞬間、断続的な衝突音が響いた。


 やがて魔法が止む。


 そこには、障壁を展開した男の姿。

 またしても、効果はなかった。


 男は優雅に地面へ降り立つ。


「貴様、腕はいいようだな」


 称賛の言葉。だが、嬉しくはない。


「そう思うなら、撤退してくれないか?」


 男は鼻で笑う。

 もちろん、通じるとは思っていない。


「貴様、出し惜しみをしているのか?」


 その通りだった。


(街への被害は、最小限に抑えないと…)


 土属性を選んでいるのも、そのためだ。

 威力を抑えれば、周囲を巻き込まずに済む。


「あと、大きな勘違いしておる」


「勘違い…だと?」


「貴様は、ワシに勝てると思っていることだ」


「なに!?」


 カチルの表情が引きつる。


(俺が自信過剰なのか?)


 事実かハッタリか。

 その真偽を探る暇はない。

 カチルは構え詠唱を始めた。


 男の周囲の土が、頭上へと吸い寄せられていく。

 やがて圧縮され、巨大な岩塊となった。


「喰らえ!」


 振り下ろすように、岩が落下する。


「……」


 男に避ける気配はない。

 ただ静かに、手のひらを掲げた。


 衝突の直前、岩が眩く発光した。


「なっ!?」


 次の瞬間、天に向かって火柱が噴き上がる。


 爆ぜた岩は粉砕され、黒く焦げた破片となって降り注いだ。

 土属性では上位魔法。

 それを、軽々と消し去った


 カチルの首筋を、冷たい汗が伝う。


(上級魔導士…、その中でも上位だ!)


 カチルは悟った。


(俺の勝てる相手ではない)


 そして理解した。

 さっきの言葉は、虚勢ではない。



「どりゃあ!!」


 至近距離から叩き込まれたユリィの蹴りが炸裂する。


 加護によって増強された一撃は凄まじい。

 標的の魔導士に加え、後方で構える一人までも巻き込み吹き飛ばした。


 敵の魔法に翻弄されていた戦況は、今や一変している。


 火球をものともせず駆け背後へ。

 俊足を得たユリィの前では、奴らの魔法は脅威ですらない。


「ふう…」


 倒れ伏した二人へ視線を向ける。


 周囲には、崩れた建物の残骸。

 戦いの爪痕が広がっていた。


(俺たちのせいで、街がこんな目に…)


 手放しでは喜べない。

 小さく息を吐く。


「ユリィ君!」


 ナギの声に、はっと顔を上げた。


「まだ終わってないわよ!」


 指し示された先。

 そこには、対峙するカチルと魔導士の姿。


 ユリィの表情が引き締まる。


「相当な使い手らしいわ」


「ああ、分かった」


 地面を蹴る。

 加護による跳躍。

 まるで距離を踏み潰すように、一瞬で間合いを詰めた。


「お前…」


「無事か!?」


「ああ…」


 その返事は歯切れが悪い。

 明らかな劣勢。


 ユリィは魔導士へと視線を向けた。


 真っ黒なローブ。

 倒した三人とは違う威圧感が漂う。


「なんだあいつ…」


 脳裏に、過去の光景が浮かぶ。


「あの時の、リッチみたいだ」


 その言葉と同時に魔導士の顔が歪む。


「リッチ…だと!?」


「えっ…何?」


 覆われたフードから微かに見える顔。

 そこから突き刺すような視線が向けられている。


「貴様が…、ウカを倒したのか!?」


「ウ、ウカ…?」


 聞き慣れない名に戸惑う。


「王都で奴を葬った少年…、それが貴様か!?」


「ええっと…、それがリッチの名前なのか」


「どうなんだ!?」


「…うん、俺が倒した」


 唐突の展開に意図が読めず口ごもり答える。

 ウカとあの男は面識があるのか。


 一方、男は顔色を変える。


「こんな事になるとは…」


 一方で、カチルは眉をひそめた。


「急にどうした…?」


 男は突如額に手を当て始める。

 不都合な何かが起きたのか。


「…そうだとしたら」


 ゆっくりと視線を巡らせる。

 ナギたちへ。

 …そして、止まった。


「あの娘か」


 次の瞬間。

 男は、自らの眉間へ指を突き立てる。


「消えた!?」


 ユリィとカチルが同時に声を上げる。

 その直後。


「きゃああっ!?」


 絹を裂くような悲鳴。

 ナギたちの目前に、男が現れていた。


「なっ…なんなの!?」


 一同が狼狽する。

 だが男は、誰にも目を向けない。

 無言で、淡々とした足取り。

 行先にはアヤン。


「アヤンちゃん!」


 ナギが咄嗟に杖を振り下ろす。


 バシッ


 男は振り返りもせず、それを受け止めた。

 意に返す素振りもなく、軽く押し返す。


「うっ…!」


 ナギはそのまま地面へ崩れ落ちた。

 男は歩みを止めない。

 静かに、確実に、アヤンへ近づく。


「ああ…」


 アヤンは動けない。

 恐怖に縫い付けられたように。


 男が顔を覗き込む。


「ククク…この目を見よ」


 その言葉と同時に、アヤンの瞳が大きく見開かれた。

 虚ろな表情となり、瞼が下がる。


 抵抗しなかったのか、それともできなかったのか。

 しばらくして瞳の光が消える。


 そして瞼が落ちると、力なく崩れ落ちた。


「アヤン!!」


 ユリィが叫び、駆けだす。


 その瞬間、全身を包んでいた光が消える。

 風の加護が消失した。


「なっ…」


 身体が重い。

 俊足が、消えている。


「……」


 ユリィは思わず足を止める。

 昏倒したアヤンを凝視する。


「強制睡眠だ」


「なに…それ?」


「その名の通り、耐性がなければ確実に眠る」


「なんだ…、寝ているだけか」


 命に別状はない。

 そうであれば安心できる。


「確かに、そうではあるが…」


「何か問題があるの?」


「ああ。術者が解除しない限り、目を覚まさない」


「そっ…そんなの反則だ!」


 ユリィの狼狽を見て、男はヒヒッと笑う。


「じゃあ、俺たちも眠らさられる…?」


「その心配はない。効果は一人までだ」


「そうなんだ…」


 思わず表情がやわらぐ。


「そのせいで、術者は意識と魔力が削がれ続ける」


「つまり、それって…」


「その間、術者は不利だ」


「じゃあ…」


「さっきよりは、勝ち目がある」


 ユリィの胸が高鳴る。

 だが、その認識はすぐさま覆される。


 目の前の男から放たれる魔力。

 それは、まるで底が見えない。


 削られているはずなのに、なお圧倒的だった。


「あれで…魔力が削られているのか」


 ユリィの声が、わずかに強張る。


「これが現実だ」


 一度は見えたはずの希望。

 だが、それは脆く崩れ去る。


 多少は好転した。

 つまり可能性はゼロではない。

 だが厳しい事には変わりはない。


(それに)


 ユリィは男に視線を向ける。


(あいつはリッチを知っている)


 ようやく見つけた、アヤン誘拐に繋がる手がかり。

 何か分かるかもしれない。


 ユリィは一歩、踏み出す。

 重圧に抗うように、男へとにじり寄った。


「お前、ウカって名前のリッチと仲間なのか!?」


 詰め寄るように問いただす。

 だが返事はない。


「アヤンを連れ去る気か」


「……」


「どうなんだ!?」


「そのつもりは無い」


 ようやく返ってきた回答。

 不安の一つが払拭されるのか。


「本当…なのか?」


「娘に、これ以上手は出さぬ。だが…」


「だが?」


「貴様らは排除する」


 同時に凍てつくような視線が向けられる。


「お…、お前の目的は何だ!?」


 喉がわずかに震える。

 それでも、目は逸らさない。


 男の嘲笑が、静かに広がった。


「その問いに、答える義理があるとでも?」


 見下すような声色。

 言葉一つ、与える気はない。


(くそっ…!)


 何か掴めると思った。

 だが現実は、甘くない、


 奥歯を噛み締める。

 顔に出ないよう、懸命にこらえた。


 一方、絶望に陥ったのはユリィだけではない。


「さっきの魔法…、私の障壁で守れるかどうか」


 ナギが呟く。

 その声には、不安が滲んでいた。


「こんなことになるのなら、別の場所で待機しておけば…」


 コーフは涙目でぼやく。


「そっ…、そんな事を言ってはダメよ。見届けるのが私たちの役目よ」


 チイヒは気丈に返す。

 だが、その顔は青ざめている。



(今度こそダメなのか)


 膝が震える。

 王都で味わった以上の絶望感。


「加護のないお前が前に出るな」


「うん…」


 反論はできない。

 ウカの時は加護で切り抜けられた。


「俺が合図するまで、防御に徹しろ」


 アヤンが眠っている以上そうなる。

 使える魔法は役に立たない。

 そうである以上、従うしかない。


 その時だった。


「おい、随分好きにやってくれたな」


 聞き覚えのある声。

 全員の視線が、一斉に向く。


「あんたは…」


「リンポの旦那!」


 逃走の手助けが今回の役目。

 それがここにいる。


「この辺は俺の縄張りじゃねえ」


 木片が散らばる道路を、肩で風を切りながら進む。


「だがな…、それを黙って見ていられるほど俺は人でなしじゃねえ」


 その先には魔導士の男。


「やめろ!」


 ユリィが立ちはだかる。


「あんたが勝てる相手じゃない!」


 必死に引き留める傍ら、カチルは淡々と口を開く。


「…旦那」


「何だ?」


「あんた…、魔力を抑えているだろ」


 一瞬の間。

 そして、リンポが笑った。


「気づいていたのか」


「これでも、上級冒険者と呼ばれているからな」


 カチルも釣られ笑う。


 一方、ユリィは状況が理解できずにいた。


「えっと…どういうこと?」


 リンポは黙って歩みを進める。


「俺に任せな」


 肩を軽く叩く。

 そして、男の前に立ちはだかる。

 ゆっくりと肩を回して、構える。


「はあぁ!」


 次の瞬間。

 リンポの身体から、光が吹き上がった。


 丹田。

 力の核とも呼ばれる一点から、それは溢れ出た。


 ユリィは目を見開く。

 初めて見る現象。

 だが、似たものを見たことがある。


 全身を包む、黄色の輝き。

 空気が震え、稲光が弾けた。

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