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決行

カクヨム、アルファポリスで同時掲載

大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。

※ Xにイメージイラストがあります

「おい、ジョオ」


 リンポの邸宅から少し離れた場所での見張りを命じられたジョオに声をかけ近づく男がいた。


「なんだ、ルハか」


 ルハという名の男はフードで顔を隠しているが声で分かったようだ。流れ者の多いこの街では珍しくない格好。少し離れた場所で横並びに立った。


「リンポの旦那はいるか?」


「いるよ」


「そうか」


 確認を終えたルハは目を合わす事なく背後にある建物へと入った。



 ユリィら一行は別の部屋に案内されそこで待機することになった。ここも例に漏れず造りが酷い。椅子はあるがゴミ捨て場から拾ってきたのか粗末なもので座り心地は悪い。そのせいで寛ごうにも寛ぐ事ができない。


 ユリィは背伸びするとそれに連動するかのように背もたれから木材が軋む音が鳴る。老朽化が原因か、そもそも最初からそうなのか。四本ある脚の中の一本の長さが足りないようでふらついてもいる。やはり初期不良なのだろうか。


 ユリィがふと隣に座るアヤンの方に目をやった。


「はあ…」


 元気がなく呆然とした表情をしている。



「大丈夫?」


「えっ、まあ…」


 心配したユリィは声をかけた。アヤンの返答は曖昧だが思い悩んでいることは明らかだ。


「さっきの話、アヤンには刺激が強かった?」


「…はい。世の中にはあんな酷い事をする人がいるというのを知ったので。あっ、ごめんなさい!」


 そう言ったアヤンの表情は気丈に見えたが、内心はそうでない事は明らかだ。アヤンは人間不信になりかけている。こうなったのは純粋な性格なのもあるが、育てられた孤児院の教育方針が関係している。そこの運営母体は教会であり職員は派遣された聖職者。シスターと呼ばれた彼女達は子供たちの成長を見守ると同時に正しく生きることを教える役目もあった。過ちを犯した者は道を踏み外したせい。人の本質は善であるため、悪に染まらなければ人は善でい続けられる。シスターは子供達にそう教え善であるよう努力するように説いた。


 結果アヤンは人も世界も純粋なものだと考えるようになった。さらにこの素晴らしい教えを説いた聖職者をアヤンは憧れるようになり、それを志すようにもなった。特待生として聖堂学院の推薦話がきたのはまさに転機だった。この学院は教会の傘下にあるため聖職者を育成する授業を履修することができる。その制度のあるため卒業生からは聖職者が多く輩出されている。


 だがアヤンは回復魔法が聖職者に必要とされる技量に達することができなかった。当然ながら夢は絶たれる事になる。途方に暮れたアヤンを担任は進路指導で得意分野である精霊術に特化した教育機関があることを伝えた。それにアヤンは最後の望みをかけた。しかしそれが知らずに済めばよかった世の仕組みを知る要因へとなった。


「あれだけ綺麗なお嬢さんだったらお金持ちの家に嫁げるんじゃないの?なんでそんなに無理するのかしら」


「チイヒさん!そんなこと言っちゃダメですよ!!」



 一方その頃、リンポの部屋にある男が入って来た。


「失礼しやす」


「おうルハ、定期連絡か」


「へい」


 ルハはキョウラ団に送り込まれた間者。報告に向かう際には途中で着替え、尾行に気を配りながら向かいリンポの邸宅と繋がる隠し通路がある建物から侵入する。諜報活動がバレないようリンポとの接触は慎重に行なっている。


「その前に聞きたい話がある。誰かを輸送する予定はあるか?」


「人をどこかに連れ出すってことでよろしいですかい?詳しく知らされていない案件なら明日ありやすぜ」


 ルハはキョウラ団では運び屋との中継ぎの管理に就いている。外部に持ち出しがあればそれは何らかの取り引きがあった証明。中継ぎにいれば事前の連絡があるため同行を探ることができる。間者としては最適な配置である。


「確かに何かありそうだな。具体的にはどうなんだ?」


 サアズは余計な情報を言わないことを徹底している。一構成員にすぎないルハがどれだけ情報を掴んだかが重要である。


「今回は普段と雰囲気が違うようです」


「どのようにだ?」


「似たような荷物が同じ日に複数回運び出されることになってやす。だが一つを除いて残りの馬車は明日中に戻って来る。それらの届け先は近場ではないのかと」


「つまり怪しい一つは日帰りできない距離まで移動するのか。他に根拠は?」


「輸送に割り当てられている御者は特別な任務を振られる事が多い奴です。さらにお頭…、サアズはその日街の外に出る予定が入っていやす」


「ふむ」


 状況的には嗅ぎつけられた場合を想定して囮の荷物で惑わせようとしている。サアズ自身が出向くのは無事を見届けるためと考えらえる。


「それで時間ですけど…」



 翌日リンポとユリィら一行は街のある場所に集まっていた。キョウラ団が荷物の運び出しには大通りを利用する。キョウラ団が肩で風を切って歩けるのは縄張り内での話。一歩でも出れば標的の対象になる。そこで大通りを利用する。人目につく上ここで問題があれば警備兵が駆けつける。


 だがそれを逆手に取った。馬車を襲撃してカリニャを奪取。そしてシモト団の縄張りを通り抜け街を出る。完全な力押しであるこの計画の発案者はケイシだった。


「そういや王都でもお構いなしに大通りでドンパチしてたな。あいつって考えなしにやってんじゃないのか?」


「お前が言うな。それにしてもあんな短絡的な性格でよく組織の上に立てたな」


 カチルにはユリィもケイシも同適度に思える。どうやら似たような奴は集まってしまうのか。カチルは軽くため息をついた。


「コーフさん、あの人は前からそうなの?」


「どちらかというと…そうです。その場の勢いで動く性格ですね」


 チイヒとコーフの二人は見届け人として同行したが発案者のケイシはいない。カリニャの奪取はユリィらに与えられた任務であることも理由の一つだが、他所の縄張りを通る天下の往来で白昼堂々拉致に手を貸せば宣戦布告とみなされる。これはあくまでユリィ達が単独でした事にしなくてはならない。だが街を抜け出るための経路は確保など表に出ない手助けはしてくれる。


「お前ら、そろそろだぞ」


 サアズはこの案件を確実にこなすため慎重に動いている。不審に思われるわけにはいかない。一行は露店にある席で食事しながらの雑談を装う。そのように待機する一行に一人の男が近づく。


「青い服を着た御者の馬車だ」


 そう伝え通り過ぎると一行は構えた。キョウラ団が所有している馬車をシモト団は全て把握している。この時間に馬車が通るという事は間者から聞いた情報は間違っていないようだ。


 しばらくすると情報通りの御者が乗る馬車が通りに入った。無秩序な街だが馬車が通ると人は道をあける。正面に立って妨害しようとするものは誰もいない。ユリィ達もそんな危険な手段は取らない。一行は立ち上がった。馬車が目の前を通過しようとする。ユリィとカチルは御者の台へと飛び乗った。


「なんだ、お前らは!?」


 カチルはすぐさま御者の手を捻り上げ取り押さえた。


「よし、今だ!!」


 即座にユリィが荷台へと乗り込む。ここにはカリニャが荷物に扮して載せられている。異変に気づかれていてもおかしくない。逃せば騒ぎがさらに大きくなる。ユリィは荷台を見回した。


「あれ?」


 荷台は幌があるため昼であっても薄暗く内部は不鮮明。目的の物が見つけられず別の何かがあるように見える。ユリィは目を凝らした。結果見間違いではない事が分かる。代わりに人のような形をしたものが四体、確かに存在する。


「おい、まだか!?」


 馬車を停止させ待つカチルは急かした。数分でカタをつけなくてはならない。庁舎長のコリジに言われてこそいないが大ごとにするわけにはいかない。手間取ればそうなる可能性が高まり、なってしまえば面倒ごとになる。


「うわっ!」


 叫び声と共に幌が燃え上がった。


「どういう事だ!?」


 カチルは目の前の出来事に理解ができずにいた。炎はすぐにおさまり燃えたのは幌だけで済んだようだ。それによりカチルはまたしても予想外の出来事に遭遇する。幌が燃え枠組みを残し顕になった荷台、そこにはユリィに加えて黒いフードを纏った四人組の姿があった。


「聞いていた話と違うぞ!!」


 幌で日を遮られた空間に黒い衣装でいたせいでユリィは少し時間を要した。それは人だと気づくと同時に魔法が放たれた。何とか避けた。先程まで燃えていた幌に目をやるユリィの頬に冷や汗が伝う。視線を四人組に戻すとさっき魔法を放った人物の手元が輝いている。次なる攻撃が来ると判断したユリィはすぐさま荷台から飛び降りた。


 ボーン


 わずかに遅れて放たれた魔法。目標を失ったせいで道脇にある露店に当たる。威力は抑えたようだが粗末な造りであったせいで木片を飛び散らせながら吹き飛んだ。


「くそっ!」


 カチルは御者を抱えながら馬車から退避すると物陰へと連れ込んだ。


「おい!本来運ぶのはこれとは別じゃなかったのか!?」


 尋問のために時間を費やす余裕はない。カチルは首を抑えつけ威圧的に問いただす。


「しゅっ…出発前にあいつらを乗せろと指示された」


「理由は!?」


「聞いてない!急に言われた、本当だ!!」


「慎重なのは良い事だな!」


 カチルは御者の腹を殴りつけ失神させた。サアズの性格を考えれば余計な情報を言ってなさそうだ。確かなことはあの馬車にカリニャは載せられていない。状況的にこちらの計画が漏れ、阻止するために魔導士を代わりに載せたのであろう。


 一方魔法から逃れたユリィを追うため魔導士らは馬車を飛び降りた。襲撃は優位に動くために行うものだが、受ける側になれば不利になる。状況が逆転して後者になったユリィはまだ体制が取れていない。そこへ魔導士はすかさず魔法を放つ。


「ぐわっ!」


 爆炎が上がると同時に発生した爆風が無造作に積み上げたれた近くにある露店の商品を吹き飛ばし大量の埃が舞う。


「あいつ、無事なのか!?」


 直撃を目にしたカチルは慌てた。


「大丈夫よ!当たる直前に魔法防御をかけておいたわ!!」


 後方支援のため離れた場所で待機していたナギが声を張りながらそう伝えると伝える。直後、煙の中からユリィが飛び出た。一瞬の間に距離を詰め魔導士の胸ぐらへと手が伸びる。


「何!?」


 身構えようとした頃には遅くすでに掴み上げられていた。地面と空が反転する。宙を舞っていると気づいた僅か後に地面へと叩きつけられる。


「ふう」


 返り討ちをしたユリィは汗を拭った。魔導士は落ちたようで動く気配がない。魔法を直撃したユリィは補強されていたおかげで多少は煤で汚れているが怪我を負った気配はない。一方その光景は相手を戸惑わせた。


「何をしておる!お前ら、さっさと倒せ!!」


 男は倒された仲間への心配よりあっさりやられた事に対する怒りが上回っていた。指示を下すとすぐさま残りの二人が詠唱を始める。そして同じ構えで同じ詠唱、そしてタイミングでユリィへと向けて魔法を放ち出す。


「それは卑怯だぞ!」


 発動させたのは断続的に火球を放つ魔法。ユリィは何とか避け切れたが、外れた魔法は周囲の建物を爆発と共に崩壊させていった。


「街を壊す気か…」


 大ごとにしたくないカチルはぼやいた。だが魔導士には遠慮がない。周囲を巻き込む魔法を平気で使う。


「きゃあ!!」


 離れた場所にいるナギら四人がいる周辺の建物にも崩壊が起きた。


「こっちよ!」


 アヤンをナギが手を引きチイヒとコーフが連なり避難する。


「ふう…。何とか無事ね」


「あっ…、ありがとうございます」


 とはいえ退避した場所も安全とは言えない。しかし二人を支援するためにはこれ以上離れるわけにはいかない。


「早く何とかしないと街が大変な事になるわ」


「これは…、絶対後で問題になりますね」


「なんで調査官について行ったせいでこんな危険な目に…」


 この街は他所であれば違反になるような建て増しが行われているため、崩壊が起きれば伝播され区画全体に被害が及ぶ。火災が起きれば延焼がしやすい構造になっているため、シナリニ全体を焼き尽くす事態になりかねない。


「とにかく、ユリィさんに加護を付与ます!」


 泣き言を言って状況が改善されるわけではない。アヤンは風の加護を付与するため詠唱を始めた。


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