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手がかり

カクヨム、アルファポリスで同時掲載

大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。

※ Xにイメージイラストがあります

「カリニャの潜伏先を探るためにリンポの旦那に接触したのか」


 蛇の道は蛇。ケイシは自身が築いたツテでここを探り当てた。


「戸籍転売の元締めはキョウラ団のサアズだ」


「残念なことに旦那はシモト団の団長だった」


「ああ、奴は俺の縄張りの外にいる人間だ」


「だとしたらお前からの仲介はできないのか」


「そうなる」


 カチルは落胆した。当然だがすんなり会わせてもらえると思うほど楽天家ではない。だが期待していたものが使えなければ別の手段を考えなくてはならない。


「まあまあカチルの旦那、悲観しなすんな。実はな、旦那は前からサアズに相当な嫌悪感を持っていたみたいなんだ」


「つまりは?」


「サアズ、ひいてはキョウラ団のシノギは外道が過ぎる。俺も褒められるような仕事をしていないが奴を見過ごし続けるのは道理に欠ける」


「つまりそれは…」


「とっちめられるのなら協力するぜ」


 この街は幾つもの派閥が点在し、それらが日々勢力争いを繰り広げている。その大半は極少的ないざこざ程度で終わっている。しかし頭領が動くとなれば全面戦争に発展することになる。そのような事態になれば街の勢力図が塗り替えられ、他の派閥を刺激する事になる。大ごとになりかねないが、それでもリンポはサアズ潰す気でいる。


「で、どうやってサアズと直接対決に持ち込む?」


「多重債務者から流れた戸籍なんかは売りっぱなしだが、大枚をはたいた客となればそれ相応の対応をする。カリニャが買い上げた戸籍は奴が扱う中で最上位。これはサアズが出張る案件だ」


「団長自らお出ましとは面倒見がいいな」


「何しろこれを欲しがるのは過去を捨て新たな生活を送ろうとしている奴だ。それを確実に実現させるためには相当な手回しが必要になる。あとあと素性がバレるような糸口ができないように慎重を期している。そのために動く人間は厳選されいるし、顧客をゆするなんて真似は絶対に起こさない」


「なるほどね。この手の商売は一度でもシクったら、それ以降は続けられねえからな」


「つまりサアズを見張ればいずれカリニャと接触する」


 姿をくらましたカリニャを見つけ出す手立てがようやく見つかった。皆が色めき立つ中、アヤンだけは複雑な表情をしている。


「あのぉ、ユリィさん。話に出て来た人って悪いことに物凄く知恵を働かせていますが、それをどうしてちゃんとした仕事で活かそうとしないのですか?」


 人の本質を突くような質問をアヤンは純粋な目で問う。ユリィは言葉に詰まり悩む。


「えっと、そっちの方が儲かるから…かな」


「はあ…、そういう残念な考えに至る人が多いのですね」


 なんとか捻り出したがアヤンには世を儚むような顔をされてしまう。二人は微妙な空気感へとなってしまったが、その一方カチル達は話を進めた。


「それにしてもお前、この女とは会ったばかりなんだろ?そんな相手によく手を貸す気になったな」


「それはだな…。この姐さんに睨まれたら流石の俺でも従うしかねえのよ」


 口籠もりながら答えたリンポは背後から強烈な視線の気配がした。実際背後にいるケイシは睨みつけている。それを動物的本能で受け取っていたリンポは無意識に震えが起きてしまう。


「ねえアヤン、誘拐された時かなり怖かった?」


「そうでしたね。パーティに誘われた時は気の強そうなので頼れると思いましたが、監禁場所に入った時に向けられた目つきがあまりにも怖くて脚が震えだしそのまま座り込んでしまいました」


「そんなに怖いんだ…。あんた、昔からそうだったの?」


 話を振られてコーフは思わず戸惑った。少し間が空いたあとコーフはそっとユリィの耳元へと近づいた。


「ええっと…、私が幼い頃ケンカ自慢の男の子ですらも一睨みで引き下がらせていましたね」


「だから女がてら団長になれたのか。そういや孤児院の近くにも暴力女と呼ばれた女子がいたけど、実際ケンカしているところは見た事なかった」


「ケイシさんもそんな感じで男の子達に恐れられていましたね。そのせいで何もされていない人にも恐れられるようになっていましたけど」


「何余計なこと言っているの!もしかしてそれでいつも私といる時ビクビクしていたの?」


「ひぃ!」


 小声で言ってはいたがケイシにはしっかり聞こえていた。コーフは咄嗟にユリィの背後に隠れ縮こまる。道着を掴む手にからは震えが伝わり明らかに焦っている。


−あんなあだ名になった一番の原因はコイツじゃないのか−


 近所で同じ歳のころの子供は集まり一緒に遊ぶ。だがその輪に入ることは親の体面上遂行しなくてはならない義務で、肌が合わない者がいてもそこからの離脱は許されない。人は幼くして気を遣う事をこのようにして覚えていく。


「方法がある事は分かった。だが奴が動いてから行動しているようじゃ間に合わなくならないか?」


「おいおい、お前には俺が脅威になる相手を遠くから眺めているような馬鹿に見えるのか?」


「つまり…、間者を潜り込ませているということか」


「そう言うことだ。やられてから動いているような奴が生き延びられるほど、この街は甘くない」


「言えているな。じゃあ向こうも同じ事をしているんじゃ…」


「ああ。いるな、確実に」


 敵対する相手の懐に潜り込み機密を知り得れば優位となる。敵対する国家間では当然のように行われているが、この界隈でも同様だった。


「誰が間者か目星はついているのか?」


「それが分からん」


 カリニャと接触するための協力はしてもらえるが、ここに来て新たな障壁が現れた。間者が存在から漏洩する危険性があるとなれば、誰も信用ができない。


「じゃあ俺たちが来たことが知られるのも時間の問題か」


「いや、あれだけ派手に騒動を起こせば伝わるぞ」


 全員の視線がユリィへと向く。状況的に皆が同じ意見に至っている。


「えっ…、俺のせい?」


 慌てた反応をするユリィに一同がため息を付く。


「とりあえずここの人間であっても迂闊に情報を出せられないってわけか」


「残念ながらそう言うことだ」


 リンポは言い訳をせず正直に認める。情報はリンポの手下であっても下手に言うわけにはいかない。言い換えれば信用できるのは仲間だけとなる。



 サアズが仕切るキョウラ団の本拠地はわずか数区画先にある。この一帯はその日暮らしの日雇い労働者を対象にした簡易宿や飲食店がひしめきあっており、同時に盗難や乱闘事件が後をたたなかった。この状況を黙って指を咥えているわけはなく、対策として軍役経験者や腕に覚えのある者を用心棒として雇うようになり、やがてそれを派遣する商売が始まった。しかし雇われた者の多くが元々素行の悪い。今度はそれらが乱闘騒ぎを起こすようになり、やがては宿の利用者に因縁をつけ暴行や恐喝を行うようになり治安は逆に悪化してしまった。


 サアズはその中の用心棒の一人だった。ある時組織内で乱闘が起きサアズがそれを鎮めた。さらには仲間が別の組織の用心棒から集団で暴行を受けた際には、そこの雇用主の元へ単身で乗り込み謝罪と賠償を勝ち取った。それらの働きで雇用主の右腕へと昇格したサアズは以後何かしらの問題が発生すると解決を任され、しばらくすると他所からも依頼を受けるようになる。結果サアズは組織を超えて信頼されるようになり、やがては一帯の用心棒をまとめ上げるようになった。


 そうなれば皆は雇用主よりサアズに従った。当然ではあるがそれを雇用主が良く思うはずもなく、誰とも構わず当たり酒に溺れ、酔った勢いでサアズの不満を吐き散らす事もあった。だがある日、何も告げることも無く姿を消した。それを報告したのはサアズを敬愛する用心棒だった。サアズは深く問おうとはせず、また誰も興味を示さなかった。そして自然の流れでサアズが新たな代表に就いた。


 正式に頂点へと君臨したサアズは用心棒を仕切るだけの人生は満足のできる生き方ではなかった。と言うのも用心棒のみならず日雇い労働者に身を窶す面々には訳ありが少なくない。そのような者の中には表では本領を発揮できない技能を有している場合がある。その能力を活かさせる場を与えれば組織をさらに拡大できる、サアズはそう考えた。


 元々この街全体が警備兵の忌避する区域であることも大きい。よっぽどな事をしでかした奴を受け入れない限り立ち入られることはない。この土壌が卓越した人材を呼び付け、サアズがそれらの能力を活かせられるよう支援した。


 戸籍屋はそれらの中の一つだった。誘拐に人身売買、人を専門とした運び屋に職歴や居住歴を証明してくれる人物を仲介できる者、さらには行方不明者の対処を任せられる始末屋までもいる。これらの人材が完全な成りすましを実現させる戸籍の提供を可能にさせた。



 簡易宿の一つにそれはあった。一室だけではあるが正面の入り口から入れない部屋がある。他の部屋より広く壁は厚い。下階と両隣に宿泊客が入ることはない。だが外からは他の部屋と同じに見える。このような間取りは簡易宿にとっては収益の機会を損なうだけ。そもそも使われる事が稀な部屋。だが数日前から人の出入りがあった。


「おう、いいか」


「どうぞ」


 戸を叩き入室の許可を得ると三人の男が入った。他の部屋は窮屈な一人用のベッドと荷物を置く僅かなスペースがあるだけだが、ここはその何倍もある。だが一般的な客室と比べれば狭い。中央に位置する男の背丈はやや低いが肩と腕の筋肉が発達しているため横幅は広い。付随する二人の男は頭一つ大きくガタイもいい。それが三人増えれば一気に部屋は狭苦しくなる。


「待たせたね」


「いや、そんなことはないよ」


 客室の男は目を背けながら答えた。目の前の男は山賊の親分のような風貌をしており、威圧的な眼光が放たれている。相手に敵意はなくてもたじろいでしまいそのような対応をしてしまった。


「本物のバハタカがこの先姿を出す心配はない」


 意味ありげな言葉だが男はすぐに理解した。


「本当に心配ないのだな」


「……。顔が分からない状態で四肢と頭が分散して全てが山ん中に深く埋められたらどうなる?」


 男は焦った。質問は無用だった。だが同時に感心もした。仕事は確実だった。


「と、とにかくご苦労だった。これで私はその男として生きられるのだね、サアズの旦那」


「ああ、明日国境近くの街まで送るよ。新しい身分証を忘れんなよ」


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