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闇の商売の存在を知る落ちこぼれ

カクヨム、アルファポリスで同時掲載

大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。

※ Xにイメージイラストがあります

 二人は目を疑った。

 それは、ユリィとアヤンにとっては忘れようのない相手だった。


 二人が出会うきっかけとなった誘拐。

 その首謀者、ケイシが目の前にいる。


「なんであんたが…」


 そう問うユリィの声は荒い。


「聞きたいのはこっちだ!!」


 ケイシが問い返すと同時に視線がぶつかる。

 二人の間に緊張感が走った。


「それより…、あんた」


「なんだ?」


「武闘家に転職していたのか」


「今それ気にする!?」


 だが、そのおかげで場が和んだ。


「前会った時は魔導士だったからな」


 ケイシはそう言いながら、マジマジと衣装を観察する。


「そう言えば、私も理由を聞いていなかったわ」


 二人は事情を知らない。

 両者が興味深そうな表情を向ける。


「で、なんで?」


(言わないと先に進まないか)


 面倒に思いながら、ユリィはかいつまんで説明する。


「要は動きやすいからか」


 ケイシは腕を組みながらそう反応した。


「それ、いい判断よ!特技を活かした戦い方を優先する方が絶対いいわ」


 チイヒは手を叩き称賛する。


「そっ、そうかな…」


 根本はユリィに魔導士としての才能がなかったせい。

 そう思うと、褒められても複雑な気持ちになるだけだった。


「事情はわかった。話を戻そう」


 空気が再び張り詰める。


「ビビの仲間はあんたって事か?」


「ビビ?」


「コーフさんの事よ」


 チイヒが補足する。


「この子ってビビりだから、子供の頃はそう呼ばれていたの」


「ケイシさん!その呼び方やめてください!!」


 気に入らないのか、コーフの顔は真っ赤だった。


「子供の頃って…、そんな前からの知り合いなのか?」


「まあな」


 そう答えたケイシは軽く目を逸らした。


「それよりあんた、ビビは返した」


 視線をジョオに向ける。


「これ以上争う気はない。だからそいつを離してくれ」


 敵意はないと主張するケイシ。

 だが口だけならなんとでも言える。

 油断はできない。


 軽くコーフへ目をやる。

 警戒している素振りはない。

 どうやら、彼女には信用に値する人物のようだ。


「行けよ」


 要求に従いユリィは手を離した。


「ひい」


 慌てた表情でリンポの元へと駆け寄る。

 ジョオは即座に頭を下げた。

 だがリンポは叱責することなく、軽く肩を叩いた。


「解放してくれて助かる」


「それより続きを聞かせてくれ」


「分かった。こいつ、ビビとは小さい頃からの知り合いだ」


「家がすぐ近くだった」


「お姉さんのような存在でしたね」


 コーフが小さく付け加えた。


「だった…」


 気になる言い方。


「今は違う」


「なるほどね」


「そうなった理由が、あんた達が追う一件と関係がある」


「関係!?」


 チイヒが一歩踏み出す。


「コーフさん!この人に話したの?」


「き…禁則事項には一切触れてはいません!


 コーフは慌てて首を振った。


「ところで、それチイヒさんが言いますか」


 コーフは小声でぼやいた。


 業務上知り得た情報は、部外者に口外してはならない。

 チイヒは厳格な性格。


 しかし、ユリィの前ではその限りではなかった。


「腕ずくで聞き出したのか?」


「待ってくれ。いくら私でもビビにそんな事はしない!」


 ケイシ慌てて否定した。


「そうだよな?」


「ほっ、本当に何もされていません!!」


 コーフは弁護したが、ユリィの目に疑いは消えていなかった。


「いくら私でもビビには絶対しない」


 日頃の行いが原因か。

 ケイシは話を続けた。


「あんた達が追う男、そいつが私の家族を崩壊させた」


 空気が変わる。


「ケイシさん…。もしかしてお父様の件に関係しているのですか?」


 コーフの言葉に、ケイシの動きが止まった。


「ごっ…ごめんなさい」


「気にしなくていいよ、ビビ」


 ケイシは俯くコーフの軽く肩を叩いた。


「私が裏の世界に入ったのは」


 拳を握りしめる。


「そいつに復讐するためさ」


 重い言葉が落ちる。


「姿を消してから、そんなことに…」


 コーフは悲しそうな表情をしていた。


「会わせる顔がなかったんだ」


「王都で起きた騒動の報告書で、関わった人物の一覧にケイシさんの名前がありました。それで、もしやと思っていたのですが…」


「残念ながら、それは私だ」


 そう答えたケイシの目は、コーフを直視できていなかった。


「でも…、無事で何よりです」


「心配かけて悪かったな。ジョーシおじさまとノンナおばさまは元気か?」


「はい、父も母も元気です」


 コーフの言葉にケイシは少しだけ柔らかい表情を見せた。


「仲間と情報を集めるには、裏の方が都合いい」


「つまり、生まれはまともだったのか」


「親父は王立魔法研究所にいた」


「社会的に地位があったのか」


「コーフさんの近所には王政府の施設に勤める人が多いわ」


 その区域は上流階級が多い。

 それらの施設に採用されるには、ある程度の身分や家柄が必要だ。


「だが…」


 短い沈黙。


「ある日突然…、連行された」


「何をやったんだ?」


 再び起きた沈黙。

 重い空気が場を覆う。


 やがて、ケイシはゆっくりと口を開いた。


「理由は聞かされていない」


「表沙汰にされなかったのか?」


「いや、公判が始まる前に…死んだからせいだ」


「死んだ!?」


 場の空気が一変する。


「拷問か?」


「違う」


 ケイシは首を振った。


「勾留中に急死したとだけ伝えられた。返ってきた遺体に…外傷はなかった」


「確かなのか?」


「お袋が言っていた。はっきり覚えている」


「毒が持ち込まれたとかは?」


「副毒した形跡はなかった。あと、持病もない」


「自殺でも病死でもないのに、公判前に急死か」


「その後、財産は没収された」


「連座か…」


 これは処刑された者への家族へ行われる処分と同じ。

 ケイシの父は死罪に相当する罪を犯した。


「そして、私たちは貧民街へと流れた」


 強く目を閉じる。


「数年後、お袋は失意のまま死んだ」


 拳がわずかに震える。


「そして、私は真実を明らかにするために…堕ちた」


「そんな…、ひどすぎます!」


 アヤンは思わず言葉を漏らした。


「酷いことをした私を、心配してくれるんだね」


 アヤンは無言で俯いた。

 だが、これで手打ちになるとは思っていない。


「事情は分かった。だけど…」


 ユリィが割って入った。


「俺たちの追っている男と何の関係がある?」


「ああ、そうだったな。私もある人物を追っている」


「誰なんだ?」


「カリニャだ」


 ケイシの口から予想外の名が出た。

 それはユリィが追う人物でもある。


「何でそいつが!?」


 ユリィが一歩踏み出す。


「落ち着け」


 カチルが制する。


「続けろ」


「…ああ」


 ケイシは頷いた。


「この男は親父と同じ研究所に勤めていた」


「同じ…か」


「事件後、何人かが退職していた」


「関連性があると言いたいのか?」


「全員親父の派閥だった」


「そうだとしたら偶然じゃなさそうだ」


「圧力があった」


 状況的にはそうなる。


「ふむ…、根拠はあるのか?」


「その中の一人に接触ができた」


「何と言ってた?」


「親父と揉めていたらしい」


 話が少しずつ読めてきた。

 ケイシの父は不都合な存在。

 影響下にある人物ごと排除した。


「だが、今はそこにはいない」


「ああ。異動していることも突き止めていた」


「よくある話だ」


「だが…、妙だった」


「何がだ」


「勤務の実態がなかった」


「なるほどね」


 カチルは頷く。


「ねえ、どういうこと?」


「実際は、別の場所にいるって意味だ」


「それって…」


 ユリィは顔を上げる。


「ナバの神殿か」


「そうだ」


「何のためにそんなことを?」


「精霊術以外の研究者がいたらおかしいだろ」


「なるほど!」


 ヤサカは口が硬く不明瞭だったカリニャの手がかり。

 ここで大きな進展があった。


「カリニャがここに来た目的も掴んだのか?」


「ああ。街にある戸籍屋だ」


「戸籍屋だと!?」


「…何それ?」


「成りすましのための戸籍が売られている」


「それって違法でしょ?」


「当たり前だ!ここがどんな街か知っているだろ」


「そんな商売もあるんだ」


 ユリィには馴染みのない世界にある仕事。


「出所は?」


「シマにいる印刷屋から聞いた」


「…そいつは、まともな印刷屋なのか?」


「裏で身分証の偽造をしている」


「なるほど。そいつに接触してきたということか」


 以前、王都には精巧な身分証を偽造する印刷屋がいると聞いたことがあった。


「ああ。奴にカリニャの特徴を伝えておいた」


 ヤサカの話では、一ヶ月ほど前に出張で王都に行っていた。

 話に整合性はある。


「つまり、この街で買った戸籍で身分証を作ってもらったと」


「ああ。印刷屋には出所がここだとすぐに分かった」


 印刷屋はその道に精通している。

 紙質や印字の特徴を見れば、簡単に見抜けるようだ。


「つまり…転売屋に用があったわけじゃないのか」


 予想は外れていた。


「じゃあ、何のために戻ってきたの?」


 身分証はすでにある。

 ユリィがそう思うのも当然だ。


「戸籍屋が扱う商品にはランクがあるんだ」


「ランク?」


「足がつきやすいかどうかだ」


 そこでは、借金のカタに売られたが戸籍が一番出回っている。

 そういうものは、調べればすぐに分かる。


「絶対バレないのもあるのか」


「ああ。王政府の調査員に調べられても、証明が困難な戸籍がな」


「どんなの?」


「行方不明者だ」


 戦争や災害で生死が明らかでない者の戸籍。

 裏市場では重宝される商材。

 流れ込めば高値で取引される。


「同じ性別、年齢の近い人物を選べばいい」


「なるほど。でも、都合よく見つかるの?」


「いなければ用意すればいい」


「それって…、意図的に行方不明にするの!?」


「正解だ」


 天涯孤独で賞罰がない。

 そのような人物を日頃から物色している。


 依頼があれば攫う。

 代理人が離職と転居の手続きをする。

 急に引っ越しても、人付き合いが希薄なら誰も気にしない。


「大胆過ぎる!」


「買われた戸籍の人物。今頃、書類上は戸籍屋の提携先が用意した物件に居住している事になっている」


「じゃあ、実際は行方不明にさえなっていないのか」


「そうなる」


 カリニャが買った戸籍は、抜かりがない。


「待ってください!行方不明にされた方はもしかして…」


 アヤンが青ざめた表情で聞いた。


「消される。この世に同じ人間が二人いたら不都合だからな」


「そっ、そんな事のために無関係な方が犠牲に…。人の命を何だと思っているのですか!?」


 アヤンが声を上げた。


「この手口を背乗りって言うんだ。アヤンの嬢ちゃん」


 醜悪な世界を知って、二人は言葉を失う。


 一方、カチルは話を続けた。


「つまり、カリニャはその人物になるために戻ってきた」


「ああ」


「ということは…仕上げが終わるまで、この街にいるのか」


「そういうことだ」

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