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共通の標的

カクヨム、アルファポリスで同時掲載

大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。

※ Xにイメージイラストがあります

 目の前に現れた女、それはユリィとアヤンにとって因縁のある人物。王都で二人が出会うきっかけとなる誘拐事件の首謀者のケイシ。


「なんであんたがここにいる!?」


 予想外の場所での再会。ユリィは戸惑ったがそれはケイシも同じである。


「なんでかを聞きたいのはこっちの方だ!!」


「それよりあんた、武闘家に転職していたのか」


「再会してからの話題がそれ!?」


 今はそれにこだわっている場合ではないと思ったが、引き延ばしたくないユリィは掻い摘んで説明した。


「要は動きやすいからかで実際は魔導士のままなのか。ところでビビの仲間はあんたって事か?」


「ビビって…誰の事だ?」


「コーフさんの事よ。この子ってビビりだから子供の頃はそう呼ばれていたの」


「ケイシさん!その呼び方やめてください!!」


 そのあだ名は気に入らないようで、コーフは顔を赤くしながら抗議した。


「子供の頃ってそんな前からの知り合いなのか?」


「まあな」


「どういう関係なんだ!?」


「まあ待て、質問は他にもあるんだろ?それより、ビビは無事だったし私達はあんたと争う気はない。そいつを離してやれ」


 ジョオはコーフを解放させるための取引に使う予定だったが、ケイシ達に敵意がなければ彼を拘束し続ける理由はない。完全に信用したわけではないがジョオを解放することにした。


「まず私とビビは昔住んでいた家が近かった」


「お姉さんのような存在でしたね」


「昔って事は今は住んでいないのか?」


「それについてだが、あんた達がこの街に来た理由と関係がある」


「関係!?」


「ちょっと待ってコーフさん、この人に話したの?」


「禁則事項には絶対には一切触れてはいません!とこで、それチイヒさんが言いますか」


 業務上知り得た内容は部外者に口外してはならいことは承知している。チイヒも厳しく従い違反しようとした者を咎めていたが、ユリィの前では破っていた。


「腕ずくで聞き出したのか?」


「待ってくれ。いくら私でもビビにそんな事はできない、そうだよな?」


「ほっ本当に何もされていません!!」


 真っ向から否定したコーフに脅された気配はない。どうやらこれは本当であると一同は受け入れることにした。


「そう思われるのは仕方ないのか。ちなみにだがあんた達が探している人物、私と因縁がある」


「因縁?」


「ケイシさん、もしかしてお父様の件ですか?」


「……」


 コーフの指摘は図星のようでケイシは言葉を止める。同時に失言だと思ったコーフは気まずそうになる。


「気にしなくていいよ、ビビ。私が渡世に足を踏み入れたのは奴に復讐をするためさ」


「音信不通になっていた間にそんな事になっていたのですね。王都で起きた騒動の報告書に関わった組織の一覧にケイシさんが団長として名前があったのでもしやと思っていたのですが…」


「残念ながらそれは私だ」


「でも無事で何よりです」


「心配させて悪かった。仲間と情報を手っ取り早く手に入れるには裏の世界が最適なのさ」


「つまり、あんたはそういう家の娘ってわけじゃなかったのか」


「コーフさんの実家は王政府に関連する施設に勤める方が多い地域にあります。この方の親御さんもそうだったのではないのでしょうか」


「ああ、親父は宮廷魔術師に関する施設を管理する役職に就いていた。だがある日突然その任を解かれ連行された」


「何をやったんだ?」


 カチルが問うとケイシは目を伏せた。下唇を噛み締めしばらくの沈黙が起きる。空気が重くなった。だがケイシは話しを再会した。


「理由は、聞かされていない。何しろ公判が始まる前に死んだからな」


「死んだ!?」


「拷問が原因か?」


「勾留中に急死したと伝えられた。後日亡骸が警備兵から送り届けられた。葬儀屋がお袋に拷問の形跡がなかったと言っていたのをハッキリと覚えている」


「外傷自体がない。つまり規程通り行われた尋問のさ中死亡したということか」


 王国では取り調べを行う際には肉体及び精神に苦痛を与えてはならないことが規程されてる。拷問を行うには許可が必要で被疑者に自白する意思がないと認められた場合に限られる。実施されているのであれば記録が必ずあるはずである。


「規程はあるが有名無実だろ?そんなもの」


「そっ、そんな事はないと思いますよ…。私は赴任してまだ日は浅いですが今のところ聞いたことがありません」


 チイヒは咄嗟に否定したが、自信がないのか戸惑いがあった。


「親父の死因は自殺ではない。持病もない。それなのに急死した」


「罪状が明らかになる前にか。偶然にしては出来すぎている」


「しばらくして王政府の命で財産が没収された。これは死罪に処された者の家族に対して行われる処分と同じ。私達家族は最低限の生活費しか持ち出せず貧民街に流れ、数年後にはお袋までも失意のまま死んだ」


 身の上を話すケイシは思わず手に力が入り握り込む。


「短くまとめると、親父さんは何もしていないの捕まって謎の死を遂げたということか」


「そうだ。親父に何があったのか調べるために私はこの世界に入った」


「そんな事があったなんて…、ひどいです!」


 事情を聞いたアヤンは悲しみ怒りを感じた。一度は誘拐されかけた忌むべき相手だが同情に値する経緯があった。


「あの時は悪かったな。なんとかのしあがろうと必死だったんだ」


 ケイシの謝罪に対してアヤンは無言だった。ケイシ自身もこれで手打ちになるとは思っていない。


「リッチがその後ろ盾になると言って唆したのか」


「ああ、そのあいつが化け物だったのは想定外だった」


「確かにあの界隈は素性の詮索が忌避されている。誰かとつるむべきかを見極める目利きは必要な能力だな」


「それを言われるとぐうの音も出ない…」


 リッチが出張ったせいで騒動が大きくなったのも発端はケイシが話に乗ったせい。ケイシは全く反論ができなかった。


「ちょっと!いつの間にかあんたの身の上話になったけど、それが俺たちの探している男となんの関係があるんだ?」


「そうだったな。私は親父が連行される前に何があったのかあらゆる手を使って調べあげた。そしたらある人物に行き着いた」


「ある人物?」


「カリニャだ」


 ケイシがその名を出すと全員が耳を疑うような表情になった。


「そいつが親父さんを陥れたのか?」


「ああ、この男はかつて親父と同じ王政府直属の研究施設に勤務していた」


「ここに接点があるのか」


「調べたところによると親父の死後職員の何人かが辞職していた」


「こう聞くと関連性がありそうだな」


「その時は理由までは分からなかった。消息を追ったらその中の一人と接触することができた」


「こっちは脅して聞き出したの?」


「だからそんなことはしない!そいつは病に伏せて生活に困窮していた。援助と引き換えに色々教えてもらったのさ」


「ああ…、そうなんだね」


 信じたような返答はしたが傍目にはそうは見ない顔をしていた。


「カリニャと親父は派閥が違っていた。辞めた職員は全員親父の派閥。そうするよう圧力があった。結果残ったのはカリニャに都合のいい人材」


「こうなると絶対何かあった」


「カリニャについても調べ上げた。すると親父の死後に別の研究所へ異動になっていた。仕事場で動向を探らせようとしたら、そこに出入りしている様子が確認できなかった」


「どういうこと?」


「実際の就労場所は別だという事だ。研究者が術士の集まる宗教施設にいたらおかしいだろ」


「実際はナバの神殿に派遣されていたのか」


 宗教的な施設は王政府の管理下にあるため役人やその関係者の訪問が日常的にある。研究者はそれに扮して出入りしていたのであろう。


「爺さんは何も教えてくれなかったが、カリニャはただの研究者じゃなさそうだ」


「それからだ、シマの奴らにはカリニャの特徴を伝え情報提供を呼びかけていた。それで騒動があった後、匿ってもらおうとシマの印刷屋を頼った。そいつは培った技術で精巧な身分証を作れる奴でな、この界隈でも定評がある。そいつに助けてもらった時、ある客の話をしてくれた」


「それがカリニャか。爺さんから聞き出せた情報では一ヶ月くらい前に印刷屋のある王都への出張があったそうだ」


「あんたはそっち魔導士もどきの武闘家と違って話が通じるな。そうだ、伝えた特徴と一致する点が多々あった」


「そいつから偽造された身分証を手に入れたのなら別人として生きられるな」


「そういう事になる。だがその為にはシナリニに戻る必要がある」


「ここに潜伏していると聞かされて俺達は来た。だが理由は分かっていない」


「奴は印刷屋に消息不明の実在人物の戸籍を持ってきた。使われている紙質や印字からこの街で売られている物だとすぐに分かったらしい」


「なるほどな。裏稼業をシノギにしている熟練工なら出所を見破れてしまうのか。そういやシナリニには戸籍屋があると聞いたことがある」


「そうだ。そこで売られている戸籍にはランクがある。借金の型として流れたモノなら調べられたらすぐにバレる。だけど消息不明者であればバレにくい」


「まあ、そうなるな」


「その中でも最上位になれば、王政府の調査員に調べられても成りすましを証明するのが困難になる」


「そんな代物まであるのか」


「天涯孤独で人付き合いが希薄な奴の戸籍だ。年齢が近いのは勿論のこと、目をひく賞罰や借金もない。そんな人物を選りすぐってくれる」


「ここまで条件が合う人間が都合よく行方不明者にいるものなのか?」


「いなければ用意すればいい」


「なっ…、それはつまり行方不明にさせるという意味か!?」


「依頼があれば対応できるよう日頃からめぼしい人間を探しリスト化している。攫った後に代理人が離職手続きをする」


「誰にも相談せずに辞めても怪しまれないのか」


「それが終われば移転の手続きだ。カタギの身分を持っている奴が所有する他所の街の賃貸物件に書類上は居住していることにする」


「失踪に気づかれないよう後処理も完璧だな。じゃあ実際は行方不明にさえなっていないのか」


「まあ、そうなるな。」


「ちょっと待って!行方不明になった事にされた人はもしかして…」


 傍聴していたユリィが青ざめた表情で声を上げた。


「この世から消される。同一人物が二人いたら不都合だからな」


「そっ、そんな事のために無関係な方が犠牲に…。人の命を何だと思っているのですか!?」


 アヤンが怒りの感情を表に出すことは少ない。だがこの話ばかりは許せず声に出た。


「世の中にはいろんな商売があるってことだよ、アヤンの嬢ちゃん」


 最近まで平穏な学生だった二人にはこのような醜悪な世界の存在を知り得なかった。二人は言葉に詰まり人間不信になりそうになる。


「つまりこの街に戻って来たのは、成りすましの手続きのためか」


「本当に話が分かるねえ。それが完了するまでこの街で待機ってわけだ」

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