無法者の街
カクヨム、アルファポリスで同時掲載
大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。
※ Xにイメージイラストがあります
ユリィら一行はシナリニの庁舎に入った。この近辺は警備兵の詰め所があるため比較的治安がいい。しかしそのような施設へも投石や落書きなどの悪戯が起きており、他の場所が酷すぎるためそのように表現される。
ヤサカから手渡された書状を受付に渡すと応接室へ通された。廃村の家屋のような建物が並ぶ中この建物は比較的造りが良く、内装も王都の役所とは比べれば粗末だが来訪者を迎え入れる最低限の体裁は整っている。高価な物があれば王政府直轄の施設であっても盗みに入られるため、あえて質素にしているらしい。
しばらくすると一人の男が部屋へと入って来た。身なりは整っているがこのような街へ派遣されている事もあり、制服姿ではなければ渡世の人間に間違えられてしまいそうな容姿をしている。
「遠路はるばるよく来て下さった。私が庁舎長のコリジだ」
「私は王都から派遣された調査官のチイヒです。こちらが補佐官のコーフ。それから冒険者のカチル、ナギ、ユリィ、アヤンです」
暫定的なリーダーはカチルであるが、取次は社会的に信用度が高いチイヒに任された。
「書状はヤサカ殿からだな。久々に一献やりたいか…」
「はあ?」
コリジの言葉にチイヒは耳を疑った。
「なんだ、教会関係者も多く参加するのか。これだとただの接待ではないか」
「……」
「ノウテンジまで出向かなくてはならんのか。日帰りはできんな」
「あ、あのぉ…」
「おや、どうかしましたかねチイヒ殿?」
「えっ、いや…」
チイヒは口ごもった。書状の内容は聞かされておらず、さらに確認されないよう封蝋が施されていた。中身は協力要請だと思っていたチイヒは言葉を失いかけている。
「内容に不備でも?」
「はい…、このような事を伝えるためにヤサカ様はわざわざ書になされるとは思わず」
チイヒは言葉を選んだ。叱責したいが気分であるが立場が上の相手であるため踏みとどまっている。
「なあ調査官殿、ヤサカの爺さんが本当にして欲しいことは覚えているか?」
「はい、大体は」
「その話題に触れる時どうする」
「部外者に聞かれない場所でします」
「だとしたらそれに関連する内容を馬鹿正直に書くわけにはいかんだろ」
「いっ、言われてみれば確かに…」
指摘され気付いたチイヒをカチルは呆れナギは笑った。
「気づいていなかったの?ヤサカ様は隠語を使っているのよ」
機密事項を扱うのであれば当然の配慮ではあるが、チイヒはその意図が読めていなかった。今回の指令には禁呪である暗黒魔法が関わっている。そのような内容を記載された書面が紛失や強奪でもされたら国家を揺るがす事態になりかねない。
−私たちは国の暗部に関わった人物を捜索しようとしている。その協力要請を堂々と文書になんてできるわけがないわね-
文面を真に受けてしまったことにチイヒは思わず萎縮してしまう。
「そうなの?」
「私も能天気な方だと思ってしまいました」
ユリィとアヤンの二人は分かっていなかった。だがそれを見て安心はせずむしろ複雑な気分になってしまう。
「お前らもおかしいと思えよ」
「そんな言い方してあげないでよ…。まだみんな若いのよ」
ナギは擁護したがチイヒは目を伏せたままだった。そのような言葉はチイヒの耳には痛く響いただけだった。
「ところでコーフさん、あなたは分かっていたの?」
「勿論です。ヤサカ様は否定こそはしませんが、余計な事は絶対口に出さない方ですから」
「……」
コリジも口は硬いがヤサカ同様遠回しな表現を好む。本人が了承したのは書簡における表向きの内容のみ。つまりは表立って任務に協力するとは言っていない。
「この街には他の街では手に入らない物を手配するのが得意な方がいるようです」
「珍しい物ですか?」
「そうとも言えますね。これは私の知人から聞いた話だがあの辺りにそれを取り扱う商人がいるらしい」
コリジは窓からある場所を指差した。
「あそこですか。どのように行けばよろしいのですか」
街に唯一ある大通りから完全に逸れた場所にあるそこへ通じる道は見当たらない。目に映るのは無秩序に建て増しされた無数の粗末な家屋だけだった。
「大通りの赤い幌がある店が見えますかな?その裏にある側道から行けますよ」
庁舎長であるコリジは街の状況を把握できているがチイヒは目を凝らしても見つけられなかった。そもそもこの大通り自体が異常で露店が堂々と道路にはみ出るように設置されている。よその街の主要な道路では馬車が通れるが、シナリニでは本来それが不可能な状態になっている。
「では…、そこを目印に行ってみます」
「あとこれも私の知人から聞いた話ですが、そのような商売をする方々の間にも規律はあるらしいです。だとしたらそれらを管理する人に確認すれば早く見つかるのではないでしょうか」
このような街にも仕切る存在、つまり無秩序の中の秩序がある。コリジの話に何回も出てくる『知人』の話はコジリ本人が直接見聞きした内容であろう。この街の警備兵は機能しているとは到底言えない。それなのにこの街が膨張し過ぎないのは、コリジが奔走しているおかげだ。
コリジが王政府から派遣された本来の目的はこの街の主要な人物との裏取引。ある程度の悪事には目を瞑るが、その代わりに度を超えないよう管理・監督をさせる。王政府の人間から自由と地位を保障されればこの上なく動きやすい。裏の世界を取り締れるのは裏の人間。界隈を取り仕切る人物と友好関係を結ぶのがコリジの役目だ。
「ご教授ありがとうございます。では私達はそちらへ出向いてみます」
「お気をつけ下さい。そうそう、あの辺りには他の街のように店を構えて商売をされている方は少ないので見つけ出すのは骨が折れますよ」
言い方は丁寧だがこの街の面倒さを物語っている。接触すべき人間の情報までは得られなければ聞き出すしかない。だがそれがすんなりできるとは期待してはならない。
「次から次へと!」
予測はしていたがやはりこの展開になった。その要因を作ったのはユリィの聞き方だった。
−ここの元締めってどこにいるの?−
物の行き交いがある場所ではあるが、向かった先は一般的な商業区域とはまるで違う。かろうじて店としての体裁がある建物を見つけたユリィはそこの主人にこのような聞き方をした。主人は席を立ちしばらくすると戻った。ユリィと一行を店の外へ誘い出すとガラの悪そうな男達が、タダでさえ狭い通りから溢れ返っていた。
「もう少し遠回しに言えないのか!?聞き込みってのには順序があるんだ!!」
「そうよ!いくら若いからってそれくらいの知識は持つべきよ!」
今回のナギは肩を持とうとはせずカチルに同調した。ゴロツキ達はユリィに加えカチルとナギが対処している。ユリィは平常通り素手で戦っているが、正真正銘の魔法職である二人の方は杖術で駆逐している。
「あんた達って杖術の使い手だったんだな!」
「まあな、一応冒険者だからな!」
「街のチンピラぐらいなら魔法なしでも戦えるわよ!」
ここは建物が密集しているせいで魔法を下手に使えない。炎系の魔法は引火すれば火災を起こし、それは一帯へと延焼させる危険がある。風系などの圧力を与える魔法も、建物の大部分が粗悪な造りである区画で発動させれば連鎖的に崩壊が起きてしまう。
その頃、残りのアヤンら女性の三人は店内に避難していた。
「なんでこんな目に…」
ユリィの失態に不満を漏らすコーフは涙目で震えながらチイヒの背に隠れている。
「ユ…ユリィ君も悪気があったわけじゃないから。ほら、頑張ってなんとかしてくれているでしょ」
確かにユリィ自身が不始末をつけようとしている。だがそれで済む問題とは思う程お人好しではない。一方アヤンは動じる事なく静観している。
「この程度の人達なら私の加護がなくてもなんとかなりそうですね」
戦況を分析するアヤンには慣れがあった。ユリィと出会う以前は乱闘とは無縁の生活を送っていたが、今ではそれが日常となっている。
「これって私達の業務に含まれているのですか?」
コーフがぼやきながら言ったそれは間違いではない。調査官という職業は本来現場に出向く事はない。本部が許可したので仕方なく付き合っているが、このような事態に巻き込まれたとなると本部の判断に不信感が湧く。
「これも経験だと思いましょ。現場を見ていない人間は状況にそぐわない考えを持ってしまうものよ」
「そうかも知れませんが、この場所に来るという経験が役に立つ…」
突如コーフは口元が押さえつけられ言葉を遮られる。直後背中から人の感触が伝わる。何者かに羽交締めにされていると気づいたのと同時に引きずり込まれてしまった。
「私はそう考えることにしたわ。……、どうかしたの?」
チイヒはさっきまで話しをしていたコーフの方に目をやる。しかし横にいるはずのコーフの姿がない。
「コーフさん…?」
返り討ちを終えた三人は返り討ちにした男達に意識があるか見回った。ヤサカが探す何かに関する情報を得られるかも知れない。そうでなくても誰の差金かは聞き出したい。
「ちょっと、上をどかせないと一番下にいる人が窒息するからどかしてくれる?」
狭い通路で戦ったため下敷きになっている者が他にもいる。面倒だが放っておけば死亡させてしまう危険性がある。三人は自身の身を守っただけで命を取る気はない。ユリィとカチルはナギの頼みに応じ先に救助を始めた。
「こいつ重たいな」
「力仕事はお前の得意分野だろ?冒険者をしていたら魔導士でも筋力が必要になる場面はある」
ぼやきながらもユリィは上から順に引き摺り下ろし、やがて最下層で下敷きになっていた男を救い出す。顔が赤らんでおり、放置していれば窒息死していたかも知れない。
「これで最後か」
二人が救助した男達を岸に打ち上げられた巨大魚のように並べているとチイヒが建物から飛び出てきた。
「ユリィ君!大変!!」
迫り来るチイヒの面持ちは焦り慌てている。
「大変って何かあったの?」
「コーフさんがいなくなったの!!」
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