王政府の闇
カクヨム、アルファポリスで同時掲載
大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。
※ Xにイメージイラストがあります
無事に賊は撃退され一時は安堵したがすぐさま騒然となった。神殿内では多くの者が死亡した上に生存者の方は大部分が負傷している。そのような状況下であるため傷の浅い者は救助に駆り出される。幸い術士が集う施設であったため治療できる者が多くいた。その中でもナギの回復魔法は他の術者を圧倒していた。
「はい次」
ナギの前には負傷者が列をなした。重篤でなければ動けるようになるまで回復させられる。一方アヤンはすぐさま魔力切れになり負傷者が収容される部屋で手伝いをしていた。部屋には意識が回復しない者が並べられている。その中にタシノキがいた。
「タシノキさん…」
ナギからの治療を受けたが目を醒ます気配はない。アヤンは隙を見ては容態を確認したが相変わらずだった。一方ユリィは根城から呼び寄せた冒険者と共に死傷者の搬送や瓦礫の撤去に勤しんでいた。
「どうやらひと段落ついたな」
一同が休憩に入ると何人かはため息をついた。職業柄人の死に触れる事は多いが遺体を見るのはやはり耐え難い。これから警備兵による現場検証があるためやれることはここまでだ。今回も功労者となったユリィは休むべき状況だがじっとはできなかった。するとこちらへ駆け寄る仲間がいた。
「みんな、タシノキが目を覚ましたぞ!」
「本当か!?」
救護室の前には冒険者が集まっていた。全員で入るわけにはいかないのでカチルとナギが代表した。そこへ術士を侍らせた老人がやって来た。やはり神殿内で地位が高いようだ。
「失礼しますのじゃ。それからお主も来なされ」
「えっ?俺も」
老人はユリィに一緒に入るよう言ってきた。それに従い部屋に入ると寝台の傍らにはカチルとナギとアヤンがいた。
「みなさま方、今回は我々を救っていただき感謝の言葉もない。ワシはヤサカ・トヤマモと申す者じゃ」
ヤサカが謝辞と同時に自己紹介をするとアヤンが慌て始めた。
「どうしたの?」
「それは、あの方なんですけど…」
「爺さんか?」
ヤサカの何かが気になるようでアヤンは恐る恐る尋ねた。
「失礼ですがナバの神殿のヤサカ様ですか?」
「そうじゃ。ワシがそこの神殿長じゃ」
「ナバの神殿ってなんだっけ?」
「私の目的地ですよ」
「そういえばそこだったな。ところで、そこのお偉いさんがなんでここにいるんだ?」
ヤサカと取り巻き達が首を傾げながら訝しげな表情をした。
「なんでとは…。それは、ここがナバの神殿だからじゃよ」
「ここがナバの神殿!?」
一同は騒然となった。討伐先で見つけた転移された先がアヤンの目的地だったとは誰も想定していなかった。
「何じゃ。知らずにここに来たのかの?」
「まあ、正門から入ったわけじゃないからな」
「なるほど!だから精霊術を使えたのか」
「不死鳥の術や聖属性も神殿長様だから扱えたのですね…」
疑問に対してアヤンは合点がいった。一方ここが目指す場所である事に全く気づかなかった自身が恥ずかしくなった。
「お前ら…、静かにしろ」
タシノキが気怠そうな声で一喝すると皆は口をつぐんだ。そもそもユリィ達の本来の目的はタシノキの容態を見る為だった。
「タシノキ、無事だったか」
「心配させたな。それよりナバにまで飛ばされたとは思わなかった」
「どうりで術士が多いわけだ。初めて来た場所だからわかるわけもないか」
「俺もそうだ」
軽い談笑を終えたタシノキはおもむろに寝台から身を乗り出したながらヤサカと向き合う。
「お主が冒険者一行のリーダーかね。今回は本当に世話になりましたのじゃ」
「お礼よりも聞きたい事がある。なんで奴らに狙われた」
タシノキは本題に入った。
「うむ、それか…」
「特に暗黒使いだ。そんなのが出てきた心当たりを聞きたい」
物盗りに伴う虐殺とは思えない今回の一件。核心を知ろうと問われた事にヤサカは眉間に皺を寄せた。
「どこから話せばよいか…。その前にお主ら、出て行ってはくれぬか」
込み入った話になるようでヤサカが人払いをさせた。扉を閉まる音を聞き届けると話は再開される。
「聞かれたくない話があるのか」
「それはそちらの想像に任そう」
ハッキリと言おうとしないがそれは完全に隠すつもりはないと受け取れる。
「言える範囲でいいから言ってくれ」
「ではそこの若いお二人さん、暗黒魔法についてどこまで知っておる?」
「学院で習った知識程度かな。禁呪だって事は覚えている」
「私もその程度しか知りません」
「教育機関の方針はそうであったか」
回答を聞くとヤサカは意味ありげに顎に手をやる。
「ではそこの魔導士殿、簡単に説明してあげもらえぬか?」
ヤサカはカチルを指名し教授を促した。
「俺に言わせるのか?まあいい。禁呪に指定されたのは国家間の取り決めだ。それでは習得はおろか研究も禁止されている。理由は発動へと至る原理。魔法に必要なエネルギーは魔界から魔素を流用している。それがもし扱いに失敗すれば大災害を起こす危険性がある」
魔法学院の座学では他の属性であれば詳細を教えられる。闇属性に関してのみ踏み込もうとしないのは下手に知識を植え付けて興味を持たせないためである。
「良い解答じゃ。ではそれは守られていると思うか?」
「国家間の約束だろうが破る国は破る。禁止されたらやりたくなるのが人間の性だ」
「なるほどのお」
ヤサカは質問を小出しで繰り返す。明らかに自主的に踏み入った話をする気はないように思える話し方だ。
「禁止されているはずの暗黒魔法を王政府の主導の下で研究がされている。それにここが一枚噛んでいるんじゃないのか?」
煮え切らないやり取りに痺れを切らしたタシノキが割り込みを入れる。そこで言い放った仮説は国家の信頼に関わる案件になる。
「そっ…そんなことが他所の国にバレたら信用を失うんじゃないのか!?」
「最近まで学生だったお前は純粋だな。とうの昔にバレている」
「ええっ、じゃあなんで問題にならないの?」
「そもそもどうやってバレてしまったのですか?」
「同盟関係があっても間者は送り込んでいる。それでお互いに秘密裏に研究を行っていることを把握し合っている。そうなれば誰も責める事ができず黙認するしかない」
「みんな破っているって…」
「国通しの約束を簡単に反故にしてしまうのですね…」
「国家間の約束ほど信用できないものはない」
二人はその事実に衝撃を受けた一方タシノキとナギの二人は当然かの様な反応をしていた。国家や巨大組織は腹を探り合うもの。一方この推測に対してヤサカは否定も肯定もしなかった。
「そんな危険な魔法をどうして研究するのですか?」
「抑止力よ。暗黒魔法には一撃で数千の兵を葬る威力があるらしいわ。そんな手段を持っていれば下手に手を出せなくなるでしょ」
ナギの言うことには説得力があるが人間の醜い一面を物語っている。
「でも秘密なら使いようがないんじゃないの?」
「歴史上天変地異によって一夜で滅んだ街がいくつもある。だがその中には本当にそうか疑わしいものもある」
「それが暗黒魔法によるもの?」
「その可能性はある。つまり災害に偽装すれば使いようはある」
「それにしても街を滅ぼしてしまう魔法があるなんて、考えただけで恐ろしいですね」
「暗黒魔法は魔界から取り寄せた魔素が多ければ威力が上がる。言い換えれば術者には魔素を呼び込む能力がどれだけ備わっているかが重要になる。それができるのは結果的に上級魔導士の中でも特に優秀な奴になってしまうがな」
「俺には次元の違う世界だ…」
本職は魔導士であるユリィはその様な話を聞くと惨めに感じてしまう。だがここである疑問が起きた。
「カチルの周りには本当に誰も手を出していないの?」
「いい疑問だ。これはな一個人が研究できるような者じゃない。施設や設備が大掛かりで莫大な原資が必要だ。それには国家規模の後ろ盾がなくては用意ができない。内外から秘密裏に行うため情報漏洩や関わった人間の監視など金銭以外に人的な動員もしなくてはならない」
「そっ、そこまでしてまで研究したいのか…」
「この労力を平和のために費やそうとはしないのですね…」
防衛のために人は大量虐殺を引き起こしかねない研究にまで手を染める。その疑惑を知った二人は人の醜さに愕然とした。一方側にいるヤサカはそのやりとりを何食わぬ表情で静観していた。
「おい爺さん、俺たちをここに集めてこんな話をさせたのは暗黒魔法に関わる何かがあるんだろ?」
そう言ったタシノキは寝たままではあるが周囲に緊張感を走らせる程の重みがあった。タシノキはまわりくどいやり取りは好きではない。
「ふむ、簡潔に言えばお主らにしか頼めない案件がある」
「俺たちにしかか。それは暗黒魔法を見てしまったからか?」
「それもあるがこの少年とお嬢ちゃんがいるからじゃ。いやこの二人が必要不可欠なのじゃ」
「俺と!?」
「私!?」
「まずは嬢ちゃんに無属性を習得してもらう」
ヤサカから使命を告げられたが二人は反応に困った。
「私は存じ上げないのですが、それはどのような属性ですか?」
「俺も初めて聞いた」
告げられた属性は二人が聞いたことのないものだった。
「確かどの属性の影響を一切受けていない属性だったな」
「それって伝説みたいなものじゃないの?」
「おお、そちらのお二人は知っておられたか」
カチルとナギには多少の知識があった。
「確かに伝説と呼ばれても致し方ない。何しろ扱える者がこの世に一人いるかどうかと言われておる」
「不純物を完全に除いた魔力を用いるって難解すぎる仕組みだったような…。それをこの娘が習得できると言うのか?」
「うむ、お嬢ちゃんには素質があるのじゃ」
「私に素質があるってどういうことですか?」
「話せば長くなる。それからじゃが、お嬢ちゃんの能力を最大限に発揮するにはそこの少年が重要となる」
「今度は俺か!?」
「うむ」
今度はユリィに役目を与えられた。戸惑ったがそこでユリィは重要なことを思い出した。
「爺さん、アヤンの役に立てるなら俺は手を貸したい。でも俺はこれからメウダ寺院に用がある」
「メウダ寺院じゃと。ニシにあったあれのことかの?」
「知っているのか!?」
ユリィとアヤンの目的地は近い。それであれば知っている人はいるであろう。新たな情報を聞けると思いユリィは色目き立った。だがふと聞こえたある言葉が引っかかった。
「ところで爺さん。今『あった』って言い方していたけど、何でそういう言い方をしたんだ?」
普段なら聞き流してしまう表現ではあるが今回は気に留まった。その言葉の意図が気になり同時に胸騒ぎが起きていた。
「用があるのに知らぬのか?」
「まあ、そうなんだけど」
「本当に何も知らんようじゃな。そこは十年以上も前に閉鎖されておる」
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