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聖属性の付与

カクヨム、アルファポリスで同時掲載

大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。

※ Xにイメージイラストがあります

 ユリィは闇に唯一対抗できる属性が付与されている。それがあれば闇属性を付与したリッチャとまともに戦えるかもしれない。打開策がようやく手に入り胸を撫で下ろす中、不思議な現象が起きる。


「何だ!?光り出した!!」


 ユリィは戸惑う中同時に本体の感触が無機質で冷たい金属から木材のような手触りと温もりに変わった。


「お主が持つのは聖魔の杖。その名の通り聖属性の杖じゃ」


「今のは杖と付与された加護の両方の聖属性が呼応して起きたのか?」


「その通りじゃ。二つが合わさり聖の力が増幅しおった。これだけあればあやつと対抗できるじゃろ」


「えっと…とりあえず凄いことが起きているのか」


 ちゃんと理解は出来ていないが聖属性を与えられていることは把握できた。聖属性は闇属性に対抗できるものであることは知っている。単純に考えれば勝てる手段が見出せた事になる。先程まで絶望に突き落とされていたユリィは思わず杖を持つ手に力が入った。


「おい見ろ!」


 カチルが指差す方角にはふらつく足でこちらへと迫り歩くリッチャの姿がある。


「みんな、隠れるんだ!」


「そう言う事で退散するぞ。頼れるのはこの御仁だけじゃ」


「ユリィさん、気を付けてください」


「ああ、絶対倒す!」


 瓦礫の影に隠れ終わった頃、リッチャとの距離は十歩程度まで接近していた。突如リッチャは足を早める。ユリィへ向ける目は焦点が合っていない。だが動きにブレはなく武器を振り上げ叩き下ろした。


ジャリン!


 耳をつんざく金属音が響く。相当な圧力を受けたものだと思ったが肩への衝撃をさほど感じない。さらなる闇を抽出されたリッチャの腕力はそれによって増強されているはず。実際今回も腕や肩などの関節から血が噴き出ているため手加減しているわけではない。付与された聖の加護が和らげてくれたようだ。


−何だこの感覚!?−


 ユリィはリッチャを押し返した。体格的に膂力はリッチャの方が優っているはずだが聖属性による増強がユリィにそれを可能にさせた。ギチギチと金属音が耳に入る。今のユリィには聖属性で守られている。それによって闇への恐怖を払拭され果敢に押し返させた。


プジュグヮ〜


 熱した鉄板を押し付けた様な音が起きる。杖の先端がリッチャの顔面に触れる手前、黒い煙が巻き上がっていた。思わぬ光景にユリィはつい手を止めてしまう。


「なんだこれ!?」


 その行動はリッチャに反撃の機会を与えてしまった。


「しまった…」


 リッチャから渾身の一撃が放たる。咄嗟にユリィは防いだが吹き飛ばされてしまった。聖の付与のおかげで痛みもない。突然起きた謎の現象。そのせいで仕留め損ねたがユリィが優勢であることには変わりない。一方完全に押されるような戦いを見させられた暗黒使いはそれに苛立ちを感じていた。


「役に立たんのぉ!こうなったら…」


 暗黒使いが詠唱すると自我を失っているはずのリッチャがもがき苦しんだ。周囲に獣の唸り声の様な悲鳴が響き渡る。その直後ドス黒い血が大量に吐き出される。目や耳からも血が溢れ止まる気配はない。リッチャは既に致死量に達する血液を失っている。それでも生きているのは全身を汚染した闇が血管を充満し血の役割を果たしているためだ。


「おい、あんなの一人で相手できるのか?」


「あれはさすがにヤバいわね」


 かろうじて人の姿を残してはいるがまともとは言えないその様相に優位性が覆ったと危惧した。しかし老人はその二人とは違い冷静だった。


「心配しなさんな。あの御仁に任せなさい」


「まかせろって、どう見ても敵はマトモな状態じゃないぞ!」


 カチルは反発したがそこへアヤンは宥めに入った。


「ユリィさんを信じてください。それに…、聖属性が使えないと何もできなさそうですし」


 悔しいがそれが一番の問題だ。そもそも一般的に闇属性への対策をする習慣がない。闇属性は禁忌であるため扱う者との遭遇を想定する必要がないと考えられている。それに加えて唯一の対抗手段である聖属性は素質がなければ習得する事できない。たとえ優秀な魔導士や術士であっても習得できるわけではない。


「あいつに任せるしかないのか」


 さらなる闇を注ぎ込まれたことによりリッチャはもはや人の気配を失っていた。肌は闇に汚染された血液により変色し眼球も白目が同様に赤黒い物体に変貌している。口からは血の混じったヨダレを垂らしふらついていることから自我はもはや喪失しているであろう。


「やれ」


「ぐがああああ!!」


 暗黒使いが指示を出すと発狂したような声を上げながら飛びかかる。動きはさっきより明らかに早い。防いだユリィに余裕が消えている。


「少年、踏ん張ってくれ!」


 カチルが声援を送る中アヤンは両手を組み祈った。先ほどの一方的な試合より望みはある。それが届いたのか、ユリィの杖の先端がリッチャ触れると動きを止めた。


グジュワァ〜


 再び煙が上がり同時に断末魔が部屋中に響き渡る。間近で獣の雄叫びのような悲鳴を聞いてユリィはたじろぎそうになったが先ほどの様な不覚はとらなかった。リッチャはさらなる力を手に入れたが勝ちを諦めたわけではない。そのおかげでこれが有効だと分析する冷静さがあった。


「何をしておる!」


 何やら指示を出した暗黒使いは慌てていた。


「早く引け!」


 暗黒使いは先程から撤退するよう指示を出していた。闇に侵され傀儡となれなれば術者の指示は絶対のはず。逆に窮地に立たされた状況下でも術者が留まるように命じれば従い留まり続ける。


「効いているぞ!」


 それは熱した石に水をかけた時に発生する水蒸気のように周囲に漂った。だがそれは程なくして晴れた。


「なんだこれ?」


 視界が明らかになるとリッチャに異変が起きていた。杖を押し当てていた箇所が健康的な人の肌の色に戻っていた。直後悶絶していたリッチャが反撃に出る。至近距離からの攻撃、ユリィはなんとか身を翻すと即座に背中へ向けて杖を振り落とす。リッチャはその衝撃で地面に伏す。ユリィは即座に背中へと杖を押し当てた。


「どうだ!!」


 リッチャからは再び煙が吹き上がる。


「あれは一体…」


「浄化されているのじゃな」


「じょっ浄化!?」


 聖属性と触れることにより闇に汚染された血肉は浄化されやがて人としての肉体を取り戻していた。


「もしかしたらあの方、助かるのですか?」


「残念じゃがそれはない。あれほどの汚染を受けてしまったらもう遅い」


 残酷ではあるがそれが闇に侵された者の末路だ。リッチャのように闇に生かされる状態になってしまえば浄化をしても焼き石に水。供給が続いても肉体が限界を迎えれば崩壊する。ハナから暗黒使いはリッチャを使い捨てにしようとしていたという事になる。


 一方ユリィには想定外なことが起きた。リッチャが強引に立ち上がり始めた。慌てたユリィは押し返す。だがバランスが崩れてしまう。力に頼って押し付けたせいだ。力の向きを変えられ拘束を外されてしまった。


「しまった…」


 その隙にリッチャは立ち上がった。慌ててユリィは杖を振り回そうとする。しかしそれは受け止められてしまう。ユリィは冷静さを欠いていたため動きが読まれた。一方リッチャにとってその行為は自虐行為になる。ユリィの動きを封じられたが握りしめた手からは噴き上がる。


「なんで離さない!?」


 弱点である聖属性に触れれば言いようのない苦痛が襲うはず。しかしリッチャは悲鳴どころか眉ひとつ動かさない。その光景は傍観するカチル達も疑問に思っていた。


「どういうことだ?」


「どうして耐えられるの!?」


「これは…浄化されたせいじゃなかろうかのぉ。体内の闇が薄まれば聖属性からの苦痛も和らぐ」


 聖の加護で力が増幅していたユリィが今は力負けをしている。


「うっ…動かない」


 ユリィは焦った。そんな中、不意にリッチャと目が合った。その白目部分は相変わらず赤黒く染まっているが瞳には強い意志が見えた。リッチャは僅かだが人としての自我を取り戻していた。通常の人間であれば闇に押さえ込まれてしまう程度だが人並外れた肉体と精神力を持つリッチャはそれで保てた。


−俺に何かを伝えようとしているか?−


 そこには殺意が感じられなかった。ユリィは力を緩めた。同時にリッチャも抵抗を止める。両者は無言で向き合った。浄化されたとはいえそれは一部。だが雰囲気はさっきと違い穏やかに見える。闇を失えば損傷した肉体は再び疼き苦痛が襲うがその気配はない。今のリッチャは気力だけで立っている。先程の抵抗でおそらく力を使い果たしている。それは好機だがユリィは対峙を続ける。視線の先にいるリッチャ、その口元がふいに動き出す。


「少年よ、頼む…」


 すぐ傍にいるユリィには聞こえた声。その言葉の意図をユリィは汲み取る。リッチャの死は避けられない。朽ちるのは時間の問題だが人である事を失いたくはない。多少は浄化されたがその体躯は相変わらず毒々しい。しかし今のリッチャには禍々しさがない。ユリィは深く息を吸い込んだ。次に意識を集中させ構えをとる。そしてリッチャに向けて放った。


「やあっ!」


 ユリィの掛け声がこだまする。真っ直ぐ伸びた腕の先に握られた杖がリッチャの腹へと突き立てられていた。そこは武道で重視される丹田と呼ばれる場所。これは概念に過ぎないが杖術においても意識することを教えられ、突きはここを狙い同時に掛け声が合わさり有効となる。


「おい、あれを見ろ!」


 丹田を中心にリッチャの肉体が浄化されている。遠目からもその光景が映った。胴体から両腕両脚へと広がり、やがて顔色も人の肌の色を取り戻す。しかしリッチャに動く気配はない。リッチャは大量の血液を失っている。肉や神経が闇に蹂躙され尽くした。肉体が闇の虜へと堕ちる、それは人でなくなるのと同義。そんな絶望下でもリッチャは自我を取り戻すことができた。そして最後の力を振り絞り人の姿である間に葬ってくれるよう望んだ。


 文字通り立ち往生したリッチャの表情は穏やかだった。ユリィは打ち付けた杖をそっと離すと目を閉じ哀悼を送った。術士の虐殺を指揮した忌むべき野盗の頭領であることは確かだ。しかし戦いが終わった今は命を賭して戦い合った間柄としての敬意を払った。


「ユリィさん!」


「お見事ね!」


「よくやった!」


 戦いが終わり脅威は去りアヤンらが駆け寄って来た。他の野盗もほぼ駆逐されたようで怒号は聞こえなくなっていた。


「ふう、なんとか倒せたよ」


「心配しましたけど無事でなによりです」


 アヤンは安堵すると皆はそれに釣られて笑みを浮かべた。


「一息ついているところで悪いがまだじゃぞ」


 老人の指摘に一同は現実に引き戻された。リッチャとの戦いが終わった安心感からある人物の存在を失念しかけていた。この惨事を引き起こした張本人がまだこの場所にいる。一同が向けた視線の先には苛立つ暗黒使いの姿が見えた。


「この役立たずが!!」


 怒り叫ぶと当時にリッチャに向けて杖を振りかざす。するとその足元に禍々しい闇色の魔法陣が現れた。


「なんだこれは!?」


 ユリィは咄嗟に後退した。その直後魔法陣からは黒い炎がリッチャを包み込むように吹き上がった。


「何て事を…仲間だろ!?」


 ユリィは叫び批判した。リッチャの死は報いかもしれない。だが死した相手に対してこのような仕打ちを行うのは目に余る。


「目障りだから消えてもらった」


 リッチャを手駒としか見ていない暗黒使いは容赦をしない。地獄の炎とも比喩できる強烈な火力に焼き尽くされたリッチャが立っていた場所には煤のような残滓があるだけだった。


 ユリィが怒りに震える一方様子を伺うカチルの額から冷や汗が流れた。先程疲労された魔法は明らかな高等に分類されるもの。それを扱えられる暗黒使いは仲間達を遥かに凌駕する力を持っている事になる。


「爺さん、もうしばらくこれ借りるぞ」


 そう告げ改めて杖を構えたユリィをすぐさまカチルが止めに入った。能力が圧倒している暗黒使いとは戦うこと自体無謀であると必死に伝えた。しかしユリィは聞く耳を持とうとしない。二人が揉める一方、暗黒使いは悩み躊躇っていた。


−まさかこんな所で見つけられるとは…−


 カリアンは別の案件を抱えていた。今回その目標と邂逅したのは完全な予定外だった。最重要項目でカリアンはすぐにでも確保したい。だがそれには慎重を要した。圧倒した力を振るい傷つけてはいけない。そのせいで攻めあぐねていた。


『カリアンよ、下がれ』


 謎の声が一同の頭に響いた。カリアンとはこの暗黒使いの名なのか。声の主を探すと頭上に鮮明ではない人らしき姿が浮かび上がっている。


「ル…ルキ様!」


 突如現れたルキという名の男。今回の黒幕であるカリアンが慌てひざまづき始めた。


「こいつはどうやら投影魔法だな」


 これは遠距離から術者の姿や声を投影することができる魔法。学院では習得困難な魔法だと教わっている。


「先生の誰も使えなかった魔法…。コイツも暗黒使いっぽいな」


「見るからにそうよ」


 ナギの言う通り不鮮明であるがこちらも暗黒使いの風貌をしている。カリアンの対応だけでなく衣装や装飾品からも格上であることが伺える。


「お言葉ですが今目の前にご所望の娘がおります。あと少し時間を頂きたい」


『ならぬ』


「なぜです!?」


『時期尚早だ』


「今はその時ではないと!?」


『言葉のままだ。理解せよ』


 不服なのかカリアンは口をつぐんだ。しばらく沈黙が続きようやく言葉を返す。


「仰せに…従います」


 渋々、そう聞こえる口調だった。結果的にこれは幸いな展開である。言い方を変えれば誰一人手をかけずに帰るよう命じたと解釈できる。


「腑に落ちぬが貴様ら命拾いしたな。さらばだ」


 不満げな顔でそう吐き捨てたカリアンは詠唱を始めると足元に魔法陣が現れた。カリアンはその光に包み込まれ姿を消した。


「転移魔法か」


 予想通りビーツ団には魔法を扱える者が関わっていた。根城から転移させたのもカリアンで間違いないだろう。ビーツ団においてどのような立場かは分からないが急激に勢力を伸ばした要因にもなっていると考えられる。だが今はこれ以上の追求ができない。それより脅威が去ったことを喜ぶべきであろう。


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