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不死鳥の力

カクヨム、アルファポリスで同時掲載

大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。

※ Xにイメージイラストがあります

 リッチャはうめき声を上げた。闇の侵食がより深まったようで息はさらに荒くなり汗と同時にどす黒い血が涙のように溢れ出ている。


「ぐあああああ!!」


 断末魔のような掛け声を上げながらリッチャは再び闇色の火球を放つ構えをとった。


−またあれを!待て、確かこの方角には…−


 ユリィが振り返った先には避難したアヤンとタシノキがいる。火球を放たれてしまうとアヤン達が巻き添いを喰らってしまう。


「アヤン!逃げるんだ!!」


 ユリィは必死で叫び非難を呼びかける。今なら間に合うかもしれない。しかし一人で動けないタシノキはそうはいかない。


−今から担いでいたら間に合わない−



 ユリィの騒ぐ声は暗黒使いの耳に届いていた。


「騒々しいの…、うむ!?」


 声はリッチャの向こう。視線をそちらへ向け、あるものが目に入った瞬間暗黒使いは焦り始めた。


「まさかあれは…。おい貴様!!」


 リッチャは攻撃を放つ直前だった。



 ユリィは二人が逃げ切ることを願ったが自身の安全も確保しなくてはならない。対処すべく向き直ったユリィは目を疑った。


「あれ?」


 数瞬後には闇の火炎が襲い来ると覚悟していた。しかしリッチャはその攻撃を中断していた。


−なぜだ−


 しかしこれは幸いだった。あの攻撃が放たられなければ後方は当分安全。だがそれは一つの脅威が保留になったにすぎずリッチャは再び攻撃体制に入った。


「あやつを斬れ」


 暗黒使いに従いリッチャはユリィへと飛びかかる。


「来る!」


 武器を振り上げたリッチャが迫る目が合った。


−なんだ、あの目は!?−


 ユリィは恐怖のあまりたじろぎそうになった。血液に浸された瞳から強烈な眼力が見える。闇に侵されながらも支配から抵抗しようとしているのか。だがここで気圧される訳にはいかない。リッチャは攻撃が届く距離まで接近している。


ブワッ


 側面を薙ぐ一撃を後退し避ける。その直後リッチャの肉体に再度同じ現象が起きる。


ブシュ


 今回は腕のみならず武器を振り回した際に負担のかかった足を含めた他の部位からも血が噴き出る。やはり自我を失っているようで前とは違い苦しみはせず攻撃を繰り返す。その度に肉体が壊れいった。


−ひどい−


 ユリィにとっては命を奪おうとする存在ではあるが同情した。暗黒使いには駒程度にしか思われておらず文字通り操り人形にされた。だが身の安全を考えればこのまま自滅してくれることを期待した。しかしそれは当分先のようだ。そうなればユリィが無事で済まなくなく。避け続けるのには体力だけでなく集中力も必要。ユリィは現在その両方が尽きようとしている。


ドゴッ


 疲労から隙が生まれたせいで攻撃を許してしまう。剣による攻撃を避けた直後に放たれた蹴りを避ける事ができなかった。


「ぐはっ!」


 打ち込まれた膝が腹へとめり込んだ。リッチャの筋力は闇の加護によって数倍に増幅されている。まともに受ければ内臓は腹の中で押し潰されていただろう。加護が付与されていたおかげでそのような事態には陥らなかったが、受けた衝撃は尋常ではない。


「ユリィさん!!」


 アヤンは叫んだが返答はなかった。地面へと伏したユリィは動く気配がない。やはり素手で戦うユリィには相手が悪い。闇の加護は攻撃手段を奪う。そうなれば避けることしかできない。


「………」


 アヤンの声が脳内にこだまする。意識は今の所ある。呼びかけに応えたいが身体は動いてくれそうにない。声をあげようとすると腹に激痛が走る。腹を蹴り上げられたせいであろう。それに加えて呼吸するだけでも苦しい。指なら微かに動いた。だがそれができたところで何もならない。


−だめだ、動けない−


 身体は動かないが眼球くらいなら動かせられた。そのおかげで遮蔽物に隠れるアヤンを見つけることはできた。無事であることを確認できて安心しようとした矢先アヤンが身を乗り出し始めた。


−何をしようとしている?−


 一緒に避難していた術士が止めようとした。アヤンは振り切ろうとする。同時に自身への付与が解除されていることに気付いた。


−もしかして俺を助けに?−


 遠距離から回復ができないアヤンはユリィの側まで行く必要がある。だが状況的には完全な自殺行為。自身の命は大事だがそのために危険を冒してまで助けてもらうことは望まない。ユリィは思いとどまってくれることを願った。突如二人の動きが止まる。


「きゃあ!」


 悲鳴と共に術士に斬りつけられた。そこには野盗の姿がある。


−しまった…−


 再び危機が訪れる。野盗に対しては優位であったが制圧したわけではない。それであればまだ倒されていない野盗の存在を留意するべきだった。救助を期待したが側にいる意識を失ったタシノキは頼れず、近くに仲間はいない。術士が倒れると野盗はアヤンを次の獲物として狙いを定める。アヤンは腰を抜かし座り込んだ。今のままであれば術士と同じ目に遭う。それは何としても避けたい。その一念が動ずにいた身体を立ち上がらせ横隔膜を押し上げさせた。


「アヤン!!!」


 叫んだ直後ユリィの頭をかすめるように何かが通り過ぎた。しばらくして野盗の動きが止まった。


「ぐがぁ…」


 それは野盗の首を貫いていた。喉は潰され声は出ず血が溢れるように流れ出る。突如起きたこの光景に恐怖を通り越しアヤンは言葉を失った。程なくして野盗は倒れ絶命した。


「どういうことだ!?」


 ユリィは咄嗟に振り返ると暗黒使いの姿が目に入った。近くには倒された術士がいる。投げつけたのはその術士の杖だと理解した。


「その娘に手を出してはならぬ」


 相手は死んでいたが萎縮するような声で告げた。


−アヤンを守った!?−


 ユリィは理解できなかった。確実性をとったのか仲間を殺してでも阻止しようとしていた。暗黒使いにとってアヤンは敵であるはず。


「うっ…」


 ユリィの膝が自ずと床へと付いた。アヤンの窮地で無我夢中になったおかげで立つ事ができたがついに限界が訪れた。再び息が荒くなり全身に倦怠感が襲う。


−そうだ、あいつらをどうにかしないと…−


 そうは思ったがユリィはもう戦える状況ではない。ユリィは己の不甲斐なさを嘆きながら拳を握りしめる。今残った体力でできるのはその程度。もはや嘆くことしかできないと諦めそうになったユリィは自身に異変が起きていることに気づいた。眩暈がやわらぎ全身が火照ったような感覚がしている。ふと自身の手に視線を移すとその現象に目を疑った。


−腕が…燃えている!?−


 それは付与された炎の加護に似ている。だがより輝きが強く活力があるように見える。さらに不思議なことに体調が改善しているような感覚も起きている。


「おーい!」


「ユリィく〜ん!」


 ユリィは声の方に目をやった。そこではカチルとナギの二人がアヤンのそば手を振っていた。


「あれ?身体が動く…」


 ユリィは顔を向けた際に肘を立て身体を起こしていた。全身が暖かい。身体が楽になった感覚が起きたが実際良くなっているようだ。


「横にいるのは誰だ?」


 そこには老人がおり魔法を発動させる仕草をしている。神殿内で高い地位に就いていそうな装いをしている。


「とにかくじっとしていろ!」


 カチルの指示に従った一方状況を把握できずにいた。その状況下でユリィの全身を纏う光はさらに強まる。それは燃え盛る炎のように見えた。


「おい貴様、さっさと始末しろ」


 暗黒使いが命じるとリッチャはユリィへと飛びかかる。その姿はすぐさまユリィの目に映った。


「だめだ!立ち上がれない!!」


 多少回復したが満身創痍には変わりない身体では逃げられそうにない。ユリィは反射的に全身を縮める。当然ながらこれは抵抗にすらなっていない。今度ばかりは完全に死を覚悟した。


ブオォォォ


 ユリィは死んだものだと思っていた。確かリッチャはすぐそこまで迫っていた。それなのにまだ生きている。攻撃が当たった気配がない。


−どうしてだ?あと凄い音がする…−


 状況を把握できずにいるユリィはゆっくりと目を開いた。すると目の前には炎に包まれたリッチャの姿があった。視界が紅いことにも気づく。一瞬リッチャが燃えているからだとい思った。だがそれはユリィの目の前から発せられていることに気づく。ユリィはふと手のひらを見た


「あれ、燃えているように見えるぞ!?」


 その現象は全身に起きていた。ユリィの全身を覆う炎のような紅い光は実際に炎であることが分かった。燃え盛るとの表現が適当な火力を発せられているが火傷の形跡はない。それに加えて心地よい温かみがある。


「俺の炎が引火したのか?」


 ユリィは状況をだいたい把握した。この炎の正体は分からないが負傷したユリィを回復させている。火だるまになったリッチャは少なくとも体制を立て直すまで襲っては来ないであろう。ユリィは動かず治療の専念に努めた。



「何をしておる!!」


 罵声を浴びかせながらも暗黒使いが念じると闇の波動が巻き起こり炎を掻き消した。炎は消えたがそれによってリッチャは全身に火傷を負ってしまった。


「……」


 さすがは野盗の大組織の頭領に登り詰めた男。これほどの大火傷を負いながらも声を押し殺し続けている。だが暗黒使いはその豪胆さに敬意を払うことはない。闇を強め負傷した箇所を修復する。強引な治療を受けるリッチャは尚も声を上げようとはしなかった。それは痩せ我慢で手を握り込み歯を食いしばり全身からは大量の赤黒い汗が流れている。もはやこれは治療というよりは闇によって壊れた組織をつなぎ合わせているだけある。



 一方ユリィを覆う炎はようやく消えた。立ち上がったユリィは深呼吸をした。先ほどと違い痛みは感じない。完治とは言えないが十分動き回れる状態まで回復していた。


「そこの御仁、こっちへ来なされ!」


 老人が声を張り手招きしていた。あの老人が治療したことは間違いない。ユリィは小走りで向かった。


「無事か!?」


「何とか」


「この方が治してくれたのよ」


「助かったよ。それよりアヤン!」


「私は無事です。よく分かりませんが助かりました」


 近くには串刺しになった野盗の亡骸とナギの治療を受けて一命を取り留めたが昏睡状態の術士がいる。どうやらアヤンに怪我はなかったようだ。安心した一方ユリィは相変わらず状況を飲み込めずにいる。


「お主、これを持ちなされ」


 老人は突如自身が持っていた杖を手渡して来た。


「なんだよいきなり…、ってこれ高そう!」


 流れで受け取った杖を見てユリィは慌てた。それは明らかに高級な造りをしている。白銀で造られたそれは木製にはない金属独特の冷たさと重み、そして豪華な装飾がなされている。高価な杖となれば家一軒どころか豪邸が買えてしまう。


「返すよ。何かあったら弁償なんてできないから…」


 高級品に縁のないユリィには傷付けてしまう展開を思い浮かべてしまい、手を震えさせながら返そうとした。


「心配しなさんな。ちょっとやそっとじゃ壊れやせぬ!」


「そういう問題なの?」


 一方的に渡された上に返却を拒否された杖。その芸術品とも言うべき立派さに思わず見入ってしまう。


「お主、棒術の心得はあるかの?」


「棒術はやったことないな。杖術ならできるよ」


「杖術じゃと?それは魔法職が教わる戦闘術じゃぞ。なんで武闘家のお主が習得しておるのじゃ?」


 ユリィの身の上を知らない老人は不思議そうな顔をした。武闘家の衣装に変えても似た展開は続いてしまう。


「まあよい。これで戦ってもらう」


「戦うってこんな高そうな杖で!?」


 ユリィは焦った。一方的な要求をされたことよりより高級品で戦う事への抵抗感が先行した。


「何かあっても責めたりはせぬ!では、じっとしていなされ」


 ユリィの意思を一切聞き入れる事はぜず強引に話を進めた老人は詠唱をし始めた。するとユリィの足元が輝きだす。それは白く神々しい光で全身を包み込んだ。


「なああんた、さっきこの爺さん俺に何をしたんだ?」


「炎の加護だ」


「えっ?炎の加護でそんなことをできるの」


「やり方次第ではできるらしい」


「そんな方法があるんだ」


「不死鳥って知っているかしら?全身を覆う炎は外敵から身を守り、内なる炎は瀕死の傷さえも癒す。炎の精霊から不死鳥の力を借りて来てもらってあなたを助けたのよ」


 二人の話をまとめるとやり方次第では不死鳥から力を又貸しできるらしい。


「ねえアヤン、炎の加護でそんなことができるの?」


「いえ、私も初めて知りました」


 アヤンは精霊術が得意ではあるが学院で教わった範囲の知識しかない。昇華させるためには専門機関であるナバの神殿で学ぶ必要がある。一方しばらくして老人の詠唱は終わった。


「終わったぞ」


「何をしたんだ?」


「聖属性を付与してやったんじゃ」


「聖属性!?」


 その属性名を聞いて一同は驚愕した。


「この老人が聖属性を扱えるとは…」


「あれって習得が相当困難なのよね」


「って言うか聖属性も付与できるんだ」


「言われてみれば!」


 めいめいが疑問をぶつけ合っていると老人が割って入った。


「お主ら!今は戦いの最中じゃぞ!!」


 一同は我に返った。老人の言う通り、今は討論にかまけている状況ではない。この付与はこれから倒すべきリッチャに備えて行ったもの。あちらも治療を終えていた。しかし雰囲気はさっきまでとは違う。


「なんだあれは!」


 赤黒く染まった目は焦点を失い血の混じった涎を垂らし夢遊病者のように意識なくふらついている。火傷で爛れた皮膚を修復するために闇の魔力を注ぎ込んだせいで皮膚は変色し風貌をさらに禍々しくさせた。


「むごいな」


「敵とはいえ同情するわね」


 カチルは絶句しナギは憐れんだ。リッチャには過剰な闇を注ぎ込まれたため意思までも侵食されてしまった。それと戦うユリィも哀れに思った。業から解放するには決着をつけるしかない。


 ユリィは老人から受け取った杖を振り回し身体に慣らす。学院で使っていた杖は扱いやすい安価な木材で作られた。それと比べ金属製のこちらは重量がある。扱いにくそうだが高価な材料で作られているためかそう感じない。


「授業で使っていた物と全然違う」


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