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賊の仲間に精霊術士が

カクヨム、アルファポリスで同時掲載

大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。

※ Xにイメージイラストがあります

「精霊術士がいる…」


 駆けつけて来たアヤンから情報を伝えられた。


−賊の仲間に精霊術士がいるからどうなるんだ?−


 ユリィはすぐに理解できなかった。


−精霊からの加護は属性の付与。それから属性を得た攻撃をできるようになり、また耐性もできる。そんなことをしてもらって賊にどんな得が…-


「お前さんと同じことをしているんだよ!!」


 既に理解しているタシノキが答えを言ったおかげでようやく頭の中の点が線で結びついた。


「じゃあリッチャは炎の加護が付与された魔法剣でさっきの爆発を起こさせたって事?」


「状況的にはそうだろ」


 答えたタシノキは呆れため息をついた。


「そんな方法があるんだ。そんな方法で擬似的に魔法剣士になれるのか」


「いや、魔法剣士は精霊術を魔法剣そのものに付与する」


「違うの?」


「ああ。外部からの付与で武器に付与するなんて本来のやり方じゃない」


「じゃあ奴には何が起きているんだ!?」


 それを問うた直後何かに勘づいた二人は反射的に距離を広げた。その僅か後に炎が通り抜ける。


「おっと、今はおしゃべりをしている場合じゃないぞ」


 話に夢中になっていたが二人は敵地の真っ只中にいる。先ほど炎を放ったリッチャは切先を向け滲み寄っていた。熊の俊敏さは体躯に比例するのと同じでその巨体から生み出される俊足は縮地かのように一瞬のうちに移動する。それにも関わらず徐々に歩み進むその挙動は不気味に思える。しばらくしてリッチャは歩みを止めた


「来るぞ」


 そう警告したのと同時にリッチャは腰を落とし剣を後方に回した。次に勢いよく振り回すと剣からは無数の火球が飛び出した。


「こんなの反則だぞ!!」


 一つぐらいなら容易に避けられるが、数が多ければそれは難しくなる。


「冷静に避けろ!」


 焦ると避けられるものも避けられなくなる。なんとか最後の一つを避けた頃再び構えをとるリッチャの姿が目に映った。


「次が来るの!?」


 そう思った瞬間新たな火球が放たれた。


「攻撃があれだけで終わるわけがないか!」


 現実的に考えればこちらを仕留めるまでやめるはずがない。それを避けるとユリィは次なる攻撃に備えて構えた。しかしリッチャの動きがさっきと違う。


「こっちに向かっている!?」


 ユリィは油断していた。当たり前だが何度も同じ攻撃を繰り返すわけがない。それに気づくのが遅かった。身体は完全に火球を避けるための予備動作をとっている。


−避けられない!!−


 加護を受けているとはいえ魔力を帯びた刃を叩きつけられれば命はない。ユリィは避ける方法を模索したがその答えが出ることはなかった。


−え!?−


 ユリィが死を覚悟した直後、その間に立ち塞がる人影があった。その直後爆炎が巻き起こる。


−身代わり!?−


 タシノキが盾になる形で二人は吹き飛ばされた。直撃を避けられたユリィは大事に至らなかったがタシノキはそうはいかない。タシノキの持つ大剣は身を覆うほどの大きさがあったおかげで多少は軽減された。だがそれは気休めにしかならない。自力で立ち上がれるような容態にまで陥っている。だがそのような状況下でタシノキは歯を食いしばる。そして力を振り絞った。


「おいっ、嬢ちゃん!!」


 タシノキはわずかに残った力で声をあげた。


「あっ…、はい!」


「加護をコイツだけに使え!」


 それを伝え終えるとタシノキは意識を失った。唐突に受けた指示にアヤンとユリィは戸惑った。タシノキは自身を犠牲にしてこの戦いをユリィに託した。だがすぐに行動に移せなかった。タシノキの意思を優先すれば負傷したタシノキを放置する事になる。アヤンの回復能力は乏しいがそれでも今すぐにでも治療をさせるべきである。


−コイツを放ったまま戦うなんて…−


 ユリィが葛藤していると加護が解除され新たに氷の加護が付与された。


「ユリィさん!ちゃんと前を見てください!!」


 その声でユリィは我に返った。目の前には再び迫り来るリッチャの姿がある。だがユリィは焦ることはなかった。氷の加護で炎への耐性がある。ユリィは避けるとすぐさま反撃に出た。


ジャキーン


 ユリィが放った回し蹴りは刃の側面で受け止められた。ユリィは即座に距離を広げる。やはり先ほどとは違い速度が落ちている。だが不利だとは思わない。


−タシノキは自身を犠牲にしてまで俺に託したんだ−


 アヤンの方へ目をやると気丈にこちらを見据えていた。残酷だが現実は受け止めなくてはならない。タシノキを助けるのはこの戦いが終わってから、言い換えれば助けたければリッチャを倒さなくてはならない。


「来い!」


 ユリィが叫ぶとリッチャは飛びかかってきた。一瞬のうちに目の前まで迫り来る。しかしユリィに避ける素振りはない。


「ユリィさん!!」


 リッチャがユリィの脳天を目掛けて剣を勢いよく振り下ろす。だがその動きが突如止まる。ユリィが鍔元の刃を握り押し止めていた。


「!?」


 炎の加護を纏った剣を氷の加護で強化された掌が押さえつけている。そのおかげでユリィが傷つくことはない。ユリィは臆することなくさらに抑え込むと切先が押し上げられる。リッチャの方がユリィより二回り以上体格が勝っているが力負けしている。


「ぐっ!」


 突如リッチャは力を緩めその反動で剣を振り上げた。


「うわ!」


 力の方向が変わったせいでユリィはバランスを崩す。そこへリッチャが腹を目掛けて蹴り繰り出す。


「しまった!」


 優位に立った驕りからの油断。そのせいで避けることはできず吹き飛ばされてしまう。強烈な蹴りであったが加護が威力を緩和してくれたため大事には至らなかった。まともに受けていれば意識を失っていたかもしれない。


「後もう一息だったのに…」


 腹をさすりながらユリィは悔いた。掴みかけた勝機を逃してしまう。同じ手は通じないので別の手段を考えなくてはならない。


「ええい、何をしている!」


 リッチャの後方から苛立った声が響く。そこには黒いローブを纏った術士の姿が見える。神殿の術士とは違い漆黒の生地に奇怪な模様が描かれている。以前戦ったリッチと雰囲気は似ているがそれとは別の禍々しさがある。アヤンの言っていた精霊術士はおそらくこれで、同時に野盗をここへ導いた仲間でもあるようだ。


「こんな奴らさっさと始末せぬか!」


 叱責するや否や手を掲げるとリッチャを黒いモヤが覆った。不気味な光景にユリィには悪寒を感じたが、その後から違和感が起きた。そのモヤが不可解に思えた。魔法は属性には炎・氷・風・雷の四種類がある。ユリィが見る限りそのどれにも該当しない。


「気をつけてくだされ!あの者は暗黒使いですよ!!」


 神殿の術士が叫んだ。ユリィは何を言っているのか分からなかった。


「ユリィさん!あの人闇魔法を使いますよ!!」


 アヤンが言った闇魔法。それには聞き覚えがあった。


−それって授業で習ったあれの事?−


 ユリィは学院の座学で教わったある魔法の存在を思い出した。主なる四種類の属性以外のものがある。それは闇属性。しかしこれは主要国家間との取り決めで習得どころか研究さえも禁止されている。禁忌であるため違反すればどの国でも重罪として裁かれる。しかしそれでも破り習得する者がいる。それが暗黒使いと呼ばれている。


「試験のために言葉くらいは覚えていたけど」


 つい最近まで学生だったユリィには座学の単位を取るために必要な知識しか持っていない。闇属性に関しては禁忌である事を理解できれば充分だった。危険である事は知っているがどのように危険なのかは知らない。


「貴様!俺に何をした?」


「ククク、お前にさらなる力を与えてやったんじゃよ」


「本当にそれだけか!?」


 そう言ったリッチャの容態は普通ではないようだ。全身からは汗が溢れ、さらには呼吸が乱れ手足に震えが起きている。それに伴い血管が浮き出し筋肉が盛り上がっている。


−闇属性の加護を受けるとああなるのか?−


 具体的な事を何も知らないユリィがそれがどのようなものかを目の当たりにする。ユリィは身震いした。得体の知れない加護を受けたリッチャは震える手で剣を構え切先を向ける。だがその目の焦点は合っておらず高熱を出した病人のようにふらつき気力で立っている状態だった。


「なんか…いや絶対にやばい!」


 そう思った矢先、リッチャはすぐ横まで移動していた。


−えっ!?−


 ユリィは反射的に後方へ身体を反らせた。腹と鼻を掠めるように黒い物体が通過する。先ほど同じように剣から放たれた。だがそれは炎とは別物。奇妙で毒々しい霧状の塊だった。


「うっ!」


 ユリィは咄嗟に受け身と取ったおかげで頭を打つことはなかった。しかし安心などできない。すぐに次の攻撃が来る。


ザボォ


 視界が闇色になると同時に眼球と瞼が焼き切れそうな感覚が起きた。だがユリィは無事だった。動物的本能が次は頭を突き刺すと推測して回避行動をとっていた。攻撃が外れた剣は床へと突き刺さる。あと僅かでも遅れていたら頭の方が串刺しになっていただろう。


−今のうちに!−


 リッチャが剣を抜き取るために時間を要したおかげでユリィには立ち上がる余裕ができた。何とか体勢を立て直せそうに思った直後、それを打ち砕く容赦ない攻撃が与えられる。


「うっ!」


 こちらも避けられたがいつまで続くか分からない。今回は下手に受け止めることができない。相手は見るからに危険と思われる闇属性を纏っている。それを氷属性で受け止められるとは期待しない方がいい。別の加護でもそれは同様。触れること自体が危険だ。


「あの小僧、なかなかしぶといな。それでは」


 手間取るリッチャにぼやいた暗黒使いが何かを念じ始めた。すると闇が強まったが同時にリッチャが悲鳴をあげた。


「なっ、何をしている…」


 リッチャの目は赤黒く毒々しい色に変わる。同時に皮膚の色も変えていた。呼吸は前以上に荒い。それに加え浮き出た血管が脈と連動して動いているのが目視できる状態になっている。


「ぐががぁ!!」


 うめき声を上げながら剣を降り回すと闇色の火球がユリィを襲った。


「ひぃ!」


 あまりの禍々しさにユリィは思わず腰が引けそうになったが側面へと避け難を逃れた。その直後、背後で黒い炎が噴き出た。


「何なんだあれは…」


 一見すると炎魔法に見えなくもないが明らかに別物。焼かれた場所は毒が撒かれたように溶け変色している。浴びていたら骨まで焼き尽くされていたかも知れない。


「ぐわあ!!」


 再びリッチャの悲鳴がこだまする。攻撃を放った腕からは血が噴き出ていた。闇の力で強化したせいで身体が耐えきれず壊れたようだ。腕を抑える手からは赤黒い血が溢れ出ている。リッチャは暗黒使いを睨んだ。


「心配するな。闇の力が傷を塞いでくれる」


 治ったという言葉が適当なのかは分からないが、すぐに出血は止まった。それと同時にユリィは不可解な現象が起きていることに気づく。流れ出た血液しているのか水蒸気のように霧散している。闇に身体が蝕まれた影響かリッチャは高熱にうなされる病人のようにふらついている。


「あんなやり方治療じゃない…」


 闇属性の恐ろしさを目の当たりにして思わずそのような感想がこぼれ出た。だが敵の心配をしている余裕はない。ユリィ自身に加えタシノキもアヤンも無事に切り抜けなくてはならない。ユリィがふとタシノキが倒れている方へ目をやる。だがそこにタシノキの姿はない。


「あれ?」


 倒れていた場所は確かにそこだったはず。記憶違いだと思い見回したがやはり見つからなかった。


「そこのお方!」


 声の方角には先程の術士がタシノキを抱え走っていた。応急処置はしていたがその状態で救出に向かえば傷は悪化する。


「私がお仲間を安全な場所に移します!」


 退避先の瓦礫の影にはアヤンもいる。そこにいればおそらく安全だろう。


「怪我をしているのに…助かる」


 タシノキへの憂いは何とかなった。しかし闇の加護を得たリッチャに対する打開策は相変わらず見つかりそうにない。


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