再び巻き込まれる落ちこぼれ
カクヨム、アルファポリスで同時掲載
大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。
※ Xにイメージイラストがあります
サイカ発の五台の馬車で編成された定期便。
それらは街道を順調に進んでいた。
ユリィとアヤンにとっては、馬車に乗る事自体が初めてだった。
そのせいか、出発してしばらくは揺れに戸惑い、落ち着かない時間が続く。
だが、次第に身体が慣れてくると、周囲の風景を楽しむ余裕が生まれてきた。
馬車の運賃が高額だ。
それゆえ、利用すること自体に敷居がある。
実際、乗客の多くは身なりが良い。
冒険者と思しき者もいるが、装備品の質が良さそうに見える。
実績があり、それに伴う収入がある。
だからこそ、こうして馬車を利用できるのだろう。
ユリィは幌から顔を出し、遠ざかるサイカの方角へと視線を向けた。
そこで、ある出来事を思い返す。
(俺たちが捕まえた三人の野盗が死んだ。それも同じ日の、同じ時間に)
三人の死因について、ユリィが疑われることはなかった。
だが、その不自然な末路を迎えた者達と、つい最近似た状況で遭遇している。
(あいつらにも、呪いの紋様が刻まれていた)
場町で捕らえた賊と、酷似している。
偶然にしては出来過ぎていた。
遠距離からの即死魔法。
習得難度の高いその魔法を扱える魔導士は、決して多くない。
(つまり…、犯人が同一人物の可能性がある)
しかし、一介の野盗がそんな魔導士と簡単に繋がれるものだろうか
(そう言えば、魔獣使いもアヤンを攫おうとしていた)
当初は成り行きだと思っていた。
追い剥ぎ目的で待ち伏せていた奴ら。
遭遇したアヤンを見て『売った方が得だ』と判断。
そして、生け捕りにしようとした。
しかし、改めて考えると違和感がある。
(奴らは尾行し、頃合いを見て襲った)
同一人物が依頼し、始末もした。
そういう仮説でも辻褄が合う。
(リッチも、アヤンを連れ去ろうとしていたな。しかも、首謀者がいる様な言い方だった)
このように整理すると共通点が多いことに気づく。
もしユリィの仮説が正しければ、組織的な何かが存在している。
ならず者を唆し、動かすためにリッチのような存在を仲介に使える組織。
それは、かなりの規模を持つはずだ。
(裏世界の大物が、アヤンを欲しているのか!?)
現実的とは言い難い。
もし、単に魅了されただけでここまでの指示を出す。
だとしたら、その首謀者は正気ではない。
ふと、ユリィはアヤンの方へと視線を向けた。
確かに、アヤンには目を惹く魅力がある。
つい見入ったのか、視線に気付いたのかアヤンが、こちらを見返してきた。
ユリィは慌てて視線を逸らす。
(いや、気持ちが分からなくもないな…)
しばらくすると、周囲の景色は平野から山道に変わり始めた。
ここから先は、山林を開いて造られた道だ。
そこへ差し掛かろうとした瞬間。
馬のいななき声と共に、馬車は急停車した。
「うわぁ!」
突然の制動に、乗客たちがバランスを崩してしまう。
「何やってる!危ないだろうが!!」
野太い声が車内に響いた。
「もっ、申し訳ございません!行く手に人の姿が見えましたので…」
御者が慌てて弁明する。
そして指差した先。
道を塞ぐように、一人の男が立っていた。
御者は台から降り、男の元へと駆け寄る。
しばらく言葉を交わした後、男に肩を貸し支えながら戻って来た。
「そいつ、ひどい怪我だぞ」
男は出血しており、呼吸も荒い。
「これを使え!」
その乗客は傷薬を差し出した。
「た…助かりました」
応急処置を受け、男の様子はようやく落ち着く。
「何があったんだ?」
男は、貨物便の乗務員であると名乗った。
少し前、この先の山道で野盗の襲撃に遭という。
この様な場所では、野盗の待ち伏せは珍しくない。
そのため、街道を走る馬車には通常、護衛を雇い同行させる。
この定期便にも、護衛は配置されている。
乗車料が高額になる理由の一つが、その護衛費用だ。
貨物便にも同様に護衛は付いていたが、野盗側の戦力が圧倒的だった。
護衛が全滅する前に、男は隙を見て逃げ出した。
現地点で、彼以外に逃げ延びた仲間は確認されていないらしい。
事情を聞いた定期便の責任者は、運行の中止を告げた。
これは定期便の管理運営団体の規程に基づいたもの。
速やかに引き返し、最寄りの警備団へ通報。
安全が確認されるまで、待機しなくてはならない。
「そんな…」
「急いでいるのに…」
乗客らは口々に不満を漏らす。
「も…申し訳ございません。安全のためです」
責任者は頭を深々と下げながら、必死に宥めた。
たいてい警備兵が駆けつける前に、賊は撤退している。
だがその後、捜査のために街道は封鎖される。
どの道、待たされることは確実となる。
乗客らは途方に暮れた。
すると、先ほどしゃしゃり出た乗客が口を開いた。
「お前ら、ちょっと聞いてくれ。おそらく賊はまだ現場にいる」
「それで?」
「俺たちが今から向かって撃退する。終われば、すぐに通れる」
無茶な提案だが、男は大真面目だった。
「馬鹿なことを言わないで下さい!」
当然ながら責任者は反対する。
乗客の安全を預かる身。
その立場上、認めるわけにはいかない。
しかし、乗客の中には同調する者が現れた。
「言われてみればそうだな」
「俺も冒険者だ!この話乗った!!」
「俺は元衛兵で戦いの心得はある!手を貸そう」
血気盛んな冒険者や、軍役経験者が次々と名乗りを上げた。
責任者は必死に引き留めようとしたが、彼らに思いとどまる気配はない。
「よし、決まりだ。早速向かうぞ。俺の名はタシノキだ」
「タシノキって…、あのタシノキか!?」
冒険者達はその名に反応した。
「俺も聞いたことがあるぞ!隣国ベウコにいる、凄腕冒険者じゃないのか?」
「上級冒険者が一目置くと聞いている。そのタシノキで間違いないのか!?」
自身の名声が知れ渡っていることに、タシノキは満足げに笑った。
「そこまで知ってくれているのなら、自己紹介の必要はない」
タシノキは冒険者界隈で有名な存在だった。
高身長に丸太の様な腕。全身に刻まれた多数の傷。
背には大剣を負っている、が防具は飾り気の無い肩当てと胸当てのみ。
“攻撃こそが最大の防御”
無骨な装備が、まさしくそれを体現している。
名を明かす、それだけでタシノキは冒険者達の心を掌握した。
責任者はなおも止めに入ったが、もはや誰も耳を持たない。
一同は救助に向かう段取りを始め出した。
「馬車は全部で五台。そのうち乗客用三台、荷物用と護衛用がそれぞれ一台か」
タシノキは乗客用の一台に参加者を乗せ、護衛用の馬車も同行させる案を提示した。
「許可できません!」
責任者が割って入る。
実行すれば規約違反になるだけでなく、黙認した責任者にも処分が下される。
だがタシノキは、相手にしようとしない。
静観する護衛部隊の方へと向かった。
「お前ら!賊に襲われている人がいると聞いて、何もせずに帰る気か!?」
規程に従えば、帰らなければならない。
そもそも彼らが結んだ契約は、この定期便の護衛。
加勢する義理はない。
しかし、誰も反論できずにいた。
「そうこなくちゃ。協力、感謝する!」
強引に護衛達を巻き込むと、タシノキは責任者の前へと歩み寄った。
「オヤジさんは、『助けを求める声が聞こえたから、冒険者の客と護衛が助けに向かった』と報告してくれ。話としては筋が通るだろ?」
「だから許可はできません!さっきから言っているでしょ!!」
「安心しろ。あんたたちは巻き込まない。ここで待っていろ」
「黙認したら、私も共犯です!」
責任者は必死に抵抗したが、タシノキにはどこに吹く風だった。
「冒険者が六人、護衛が七人…。あと何人か欲しいな」
そう言って、タシノキは乗客達を一人一人見て回る。
その視線が、やがてユリィの前で止まる。
「おい、そこの武闘家」
タシノキがユリィを覗き込む。
「お前だよ、お前!」
「えっ?俺!?」
「他に誰がいる?武闘家はお前しかいないだろ!」
何を言ってんだ?
タシノキはそのような表情をする。
(そうか。今は、武道着を着ているんだった)
ユリィには、まだ実感がなかった。
昨日まで魔導士の装いをしていたので、誰も武闘家と呼ぶことはなかった。
しかし、そんな事情を初対面のタシノキが知るわけがない。
今のユリィは、どう見ても武闘家そのものだった。
「で…、何?」
「わからないのか?」
タシノキは、当然の様に言った。
「お前も手伝え」
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