立ち往生
カクヨム、アルファポリスで同時掲載
大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。
※ Xにイメージイラストがあります
サイカを発った、五台の馬車で編成された定期便は、街道を順調に進んでいた。
ユリィとアヤンにとっては、馬車に乗る事自体が初めてだった。
そのせいか、出発してしばらくは揺れに戸惑い、落ち着かない時間が続く。だが、次第に身体が慣れてくると、周囲の風景を楽しむ余裕が生まれてきた。
馬車の運賃が高額だ。
それゆえ、利用すること自体に敷居があり、相乗りしている客層には品がある。
乗客の多くは身なりが良い。冒険者と思しき者もいるが、質のいい見た目をした装備品で身を固めている。
実績があり、それに伴う収入がある。
だからこそ、こうして馬車を利用できるのだろう。
ユリィは幌から顔を出し、遠ざかるサイカの方角へと視線を向けた。
そこで、ある出来事を思い返す。
−俺たちが捕まえた三人の野盗が死んだ。それも同じ日の、同じ時間に−
三人の死因について、ユリィが疑われることはなかった。
だが、その不自然な末路を迎えた者達と、つい最近似た状況で遭遇している。
−あいつらにも、呪いの紋様が刻まれていた−
場町で捕らえた賊と、酷似している。
偶然にしては出来過ぎていた。
遠距離からの即死魔法。
習得難度の高いその魔法を扱える魔導士は、決して多くない。
−つまり…、犯人が同一人物の可能性がある–
しかし、一介の野盗がそんな魔導士と簡単に繋がれるものだろうか
−そう言えば、魔獣使いもアヤンを攫おうとしていた−
当初は成り行きだと思っていた。
追い剥ぎ目的で待ち伏せていた奴らはが、遭遇したアヤンを見て『売った方が得だ』と判断し、生け捕りにしようとしたのだと。
しかし、改めて考えると違和感がある。
–奴らは尾行し、頃合いを見て襲った–
そう考えれば、魔導士と繋がる同一人物から依頼されていた、という仮説も辻褄が合う。
−リッチも、アヤンを連れ去ろうとしていたな。しかも、首謀者がいる様な言い方だった−
このように整理すると共通点が多いことに気づく。
もしユリィの仮説が正しければ、組織的な何かが存在している。
ならず者を唆し、動かすためにリッチのような存在を仲介に使える組織。
それは、かなりの規模を持つはずだ。
−裏世界の大物が、アヤンを欲しているのか!?−
現実的とは言い難い。
もし、単に魅了されただけでここまでの指示を出しているのだとしたら、その首謀者は正気ではない。
ふと、ユリィはアヤンの方へと視線を向けた。
確かに、アヤンには目を惹く魅力がある。
つい見入ったのか、視線に気付いたのかアヤンが、こちらを見返してきた。
ユリィは慌てて視線を逸らす。
−いや、そうだとしたら気持ちが分からなくもないな…−
しばらくすると、周囲の景色は平野から山道に変わり始めた。
ここから先は、山林を開いて造られた道だ。
そこへ差し掛かろうとした瞬間、馬のいななき声と共に、馬車は急停車した。
「うわぁ!」
突然の制動に、乗客たちがバランスを崩してしまう。
「何やってる!危ないだろうが!!」
野太い声が車内に響いた。
「もっ、申し訳ございません!行く手に人の姿が見えましたので…」
御者が慌てて弁明し、指差した先。そこには道を塞ぐように、一人の男が立っていた。
御者は台から降り、男の元へと駆け寄る。しばらく言葉を交わした後、男に肩を貸し支えながら戻って来た。
「そいつ、ひどい怪我だぞ」
男は出血しており、呼吸も荒い。
「これを使え!」
その乗客は傷薬を差し出した。
「た…助かりました」
応急処置を受け、男の様子はようやく落ち着く。
「何があったんだ?」
男は、貨物便の乗務員であると名乗った。
少し前、この先の山道で野盗の襲撃に遭という。
この様な場所では、野盗が待ち伏せは珍しくない。
そのため、街道を走る馬車には通常、護衛を雇い同行させる。ユリィが乗るこの定期便にも、護衛は配置されている。乗車料が高額になる理由の一つが、その護衛費用だ。
貨物便にも同様に護衛は付いていたが、野盗側の戦力が圧倒的だった。
護衛が全滅する前に、男は隙を見て逃げ出した。
現地点で、彼以外に逃げ延びた仲間は確認されていないらしい。
事情を聞いた定期便の責任者は、運行の中止を告げた。
定期便の管理運営団体の規程では、この様な状況に遭遇した場合、速やかに引き返し、最寄りの警備団へ通報。
安全が確認されるまで待機しなくてはならない。
「そんな…」
「急いでいるのに…」
乗客らは口々に不満を漏らす。
「申し訳ございません…。安全のためです」
責任者は頭を深々と下げながら、必死に宥めた。
警備兵に通報したとしても、到着した頃には賊が撤退していることがほとんどだ。だがその後、捜査のため街道は封鎖される。つまり、賊の姿がなくても、待たされることが確実となる。
乗客らは途方に暮れていると、先ほどしゃしゃり出た乗客が再び口を開いた。
「お前ら、ちょっと聞いてくれ。おそらく賊はまだ現場にいる」
「それで?」
「俺たちが今から向かって撃退する。終われば、すぐに通れる」
その提案に、乗客達はざわめいた。
「馬鹿なことを言わないで下さい!」
即座に責任者が制止する。
乗客の安全を最優先にすべき立場の者が、この提案を認められるはずがない。
しかし乗客の中には同調する者が現れた。
「言われてみればそうだな」
「俺も冒険者だ!この話乗った!!」
「俺は元衛兵で戦いの心得はある!手を貸そう」
血気盛んな冒険者や、軍役経験者が次々と名乗りを上げた。
責任者は必死に引き留めようとしたが、彼らに思いとどまる気配はない。
「よし、決まりだ。早速向かうぞ。俺の名はタシノキだ」
「タシノキって…、あのタシノキか!?」
冒険者達はその名に反応した。
「俺も聞いたことがあるぞ!隣国ベウコにいる、凄腕冒険者じゃないのか?」
「上級冒険者が一目置くと聞いている。そのタシノキで間違いないのか!?」
自身の名声が知れ渡っていることに、タシノキは満足げに笑った。
「そこまで知ってくれているのなら、自己紹介の必要はない」
タシノキは冒険者界隈で有名な存在だった。
高身長に丸太の様な腕。全身に刻まれた多数の傷。背には大剣を負っている、が防具は飾り気の無い肩当てと胸当てのみ。
“攻撃こそ最大の防御”
無骨な装備が、まさしくそれを体現している。
名を明かす、それだけでタシノキは冒険者達の心を掌握した。
責任者はなおも止めに入ったが、もはや誰も耳を持たない。一同は救助に向かう段取りを始め出した。
「馬車は全部で五台。そのうち乗客用三台、荷物用と護衛用がそれぞれ一台か」
タシノキは乗客用の一台に参加者を乗せ、護衛用の馬車も同行させる案を提示した。
「許可できません!」
責任者が割って入る。
実行すれば規約違反になるだけでなく、黙認した責任者にも処分が下される。
だがタシノキは、相手にしようとしない。静観する護衛部隊の方へと向かった。
「お前ら!賊に襲われている人がいると聞いて、何もせずに帰る気か!?」
規程に従えば、そうすることになる。
本来であれば、そうしなくてはならない。
そもそも、彼らに加勢する義理はない。
だが、タシノキに迫られた護衛達は誰も反論しようとしなかった。
「そうこなくちゃ。協力、感謝する!」
強引に護衛達を巻き込むと、タシノキは責任者の前へと歩み寄った。
「オヤジさんは、『助けを求める声が聞こえたから、冒険者の客と護衛が助けに向かった』と報告してくれ。話としては筋が通るだろ?」
「だから許可はできません!さっきから言っているでしょ!!」
「安心しろ。あんたたちは巻き込まない。ここで待っていろ」
「黙認したら、私も共犯です!」
責任者は必死に抵抗したが、タシノキにはどこに吹く風だった。
「冒険者が六人、護衛が七人…。あと何人か欲しいな」
そう言って、タシノキは乗客達を一人一人見て回る。
その視線が、やがてユリィの前で止まる。
「おい、そこの武闘家」
気づけば、タシノキが真ん前に立っていた。
「お前だよ、お前!」
「えっ?俺!?」
「他に誰がいる?武闘家はお前しかいないだろ!」
質問に苛立ちを感じた、タシノキはそのような表情をする。
−そうか。今は、武道着を着ているんだった−
ユリィには、まだ実感がなかった。
昨日まで魔導士の装いをしていたので、誰も武闘家と呼ぶことはなかった。
しかし、そんな事情を初対面のタシノキが知るわけがない。
今のユリィは、どう見ても武闘家そのものだった。
「で、何?」
「わからないのか?」
タシノキは、当然の様に言った。
「お前も手伝え」
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