形から入いる落ちこぼれ
カクヨム、アルファポリスで同時掲載
大幅に書き直しました。展開や登場人物に色々変更があります。読んだことある方もぜひ読み直して下さい。
※ Xにイメージイラストがあります
ユリィは、セフ行きの乗車券を二枚購入した。
ナバやメウダに向かう際には、セフを経由する。
ここで目的地の馬車に乗り換える。
思わぬ大金を得た二人。
そのおかげで馬車移動ができるようになった。
定期便の出発は、翌日の昼。
この日は買い物をして、時間を潰すことになった。
旅に出るならそれなりの準備が必要。
だが二人は、旅費を用意するので手一杯。
それに加え、前倒しされた出発。
手荷物は、わずかな日用品しかない。
まず向かったのは道具屋だ。
サイカは王国内で最も栄えた商業の街。
商店街の規模は王都を凌ぐとも言われている。
二人はその中で、ひときわ大きな店舗を選んだ。
品揃えが豊富で、上級冒険者も利用する店として知られている。
取り扱われている品が多いため、店内は種類毎に区画分けられている。
あまりの広さに迷いそうになりながらも、二人は傷薬を扱う区画へと足を運ぶ。
棚にはずらりと商品が並んでいた。
傷薬だけでなく、毒や麻痺を治療する物まである。
「これだけあると、何を買えばいいか迷いますね…」
「そうだね。傷薬だけで、もこんなに種類があるのか…」
すると、近くにいた女性店員が声をかけてきた。
「どういった物をお探しですか?」
「ええっと…」
積極的な接客に、二人は思わず言葉に詰まる。
「どういったと言われても、色々だな」
「そうですね。どれがいいのか決められなくて…」
「それでしたら、私がおすすめ品をご案内します」
二人とも、自分たちに何が必要なのかさえ曖昧。
それなら詳しい人間に任せた方が賢明だと考えた。
「じゃあ、お任せしようか」
「そうですね。お願いします」
二人は提案に乗った。
「ところで、今現在の所持品はどうなっていますか?」
「ええっと…」
二人は手持ちの袋を広げ、中身を説明する。
「低級傷薬が三つと、毒消しが一つ」
「私も同じ傷薬が二つで、毒消しは二つあります」
二人の報告が終わる。
一方、店員は愕然とした表情になる。
「確認しますが…治療に関するものは、それだけですか?」
「うん」
「私も以上です」
「では、他に何をお持ちですか?」
「水筒用の皮袋と火打ち石。それから、今は宿に置いてある野宿用の毛布」
「私も、同じ物が宿にあります」
「…もしかして、それで全てですか?」
「これで全部だな」
「数が少ないので、間違いありません」
店員は絶句した。
一般的に見て、冒険者として必要最低限な所持品すら揃えられていない。
この程度の備えで、魔獣が徘徊する街の外へ出る。
これは自殺行為に等しい。
だが同時に、それは店員としての使命感に火を付けた。
(ちゃんとした旅ができるように、私がなんとかしてあげないと)
店員の案内のおかげで、二人は無事に買い物を終えることができた。
本日買い揃えた品々を見回す。
等級の高い傷薬に、麻痺やそれ以外の治療薬も揃っている。
野宿をする予定はないが、保存食や野宿を充実させる用具も一応買った。
それらを眺めているだけで、一人前の冒険者になった。
そんな気分になってしまう。
もっとも、これほどの荷物を背負って旅はできない。
だが、これからは馬車を利用する。
追加料金を支払えば運んでもらえる。
街に滞在している間は、預かり所を利用すればいい。
手数料はかかるが、資金に余裕がある今であれば問題はない。
「それじゃ、宿に送っておいて」
「はい、かしこまりました」
配達の手配を終え、二人は店を後にする。
「じゃあ、次の店に行こう」
「はい!これからがメインですね」
商店街を進むとしばらくして、目的の店の前に辿り着いた。
「この店だ」
二人が向かった先。
そこは、魔法職の装備品を専門に扱う店だった。
「さっきに続いて、ここも立派な店構えですね」
「これだけ大きければ、きっと気に入る装備が見つかるよ」
「そんな気がします」
「じゃあ、早く入ろう!」
入り口のすぐそこには、ローブがずらりと並んでいた。
右が魔導士用、左が術士用。
建物の規模に比例するかのように、その数は圧倒的だ。
アヤンが今身につけているローブは、はっきり言って地味。
年頃の少女が着るには、飾り気がなさすぎる。
ユリィのローブは、王都の商店街で売られていた処分品。
安価な素材を使い、地こちらも味を追求したような見た目だった。
「これだけ多いと、迷いますね…」
初級者向けの簡素な物。
家が建つ値が付く高級品。
その幅は広い。
防御性能は同程度でも、地味な物もあれば、華やかな物もある。
「好きなのを選んでいいよ」
「これ可愛いですけど、結構しますね」
「お金は充分にある。遠慮しなくていいよ」
「ダメですよ。確かに今はありますが、無駄に高価な物を買うのは良くないと思います」
アヤンは堅実だった。
デザインが凝っていれば、その手間賃が値段に加算される。
だがアヤン自身、派手な装いを好む性格ではない。
いくつも見比べた結果、白を基調とした清楚なデザインを選んだ。
花の刺繍がされた生地を使われている。
今着ているローブより、明らかい見栄えがいい。
試着したアヤンが、ユリィに感想を求める。
「どうです、似合いますか?」
その姿は、まさに穢れなき聖女だった。
清楚さを追求したそのデザインは、アヤンの魅力を引き立てている。
「すっ…すっごく似合っている」
「ありがとうございます。それでは、これにしますね」
ユリィはつい見惚れてしまった。
これからは、ずっとこの姿を拝むことになる。
そう考えたら、妙に意識してしまう。
ローブの購入を終えると、次は杖を扱う区画へ移動した。
こちらも魔導士用と術士用が、別れて展示されている。
「これって、魔力を上昇させる効果があるのか」
「それがあると、お値段が張りますね」
「いや…。戦いのことを考えたら、こういうのを選ぶべきだ」
戦闘を優位に進めるには、武器の性能が重要になる。
生死に直結する以上、妥協してはいけない。
とは言え、数が多すぎて再び迷う事になる。
こちらも、デザインを競うかのように並べられている。
中にはそれを追求したあまり、実用的ではない形状まである。
時間をかけて吟味した末、ようやく手に取った杖。
柄に蔦が絡み、先端には花の飾りを施されている。
派手ではない、上品で、シンプルさを好むアヤンらしい一本だ。
「じゃあ、清算に行こうか」
ユリィに促され、会計に向かおうとしたアヤンは、ふと気づいた。
「そう言えば、ユリィさんは何も買っていませんよね?」
「問題ない。俺の欲しい物があるのは、ここじゃない」
「別のお店なのですか?」
ここでも、宿へ送ってもらう手続きをしようとした。
だが、今回は大した荷物ではない。
この程度で送料を支払うのは無駄遣いだと、アヤンに反対された。
「じゃあ、俺が持つよ」
「大丈夫です。自分の荷物は自分で持ちますから」
断られ、気まずくなる。
だが決して、それを下心で言ったわけではない。
確かに、女の子でも持ち歩ける程度の荷物。
とは言え、男が手ぶらで女の子は荷物を持って歩く。
そんな光景を周囲にどう見られてしまうのか。
どうしても気になってしまう。
次の店に向かう道中、ユリィは足取りを無意識のうちに早くしてまった。
「ちょっと、歩くのが早すぎますよ!」
「あっ、ごめん」
考えが先走ってしまった自分に気づき、またしても気まずくなる。
やがて二人はある場所に辿り着いた。
この街で唯一、武闘家向けの装備を扱う専門店だった。
「なるほど、戦いやすい服に変えるのですね」
「その通り」
「ユリィさんには、そっちの方が合っているのかもしれません」
「まあ、それもあるけど…」
確かにユリィの職業は魔導士。
だが戦闘は得意な武術を用いる。
それは疑問を生み出す。
結果、似たような質問を毎回受ける。
この展開には、いい加減うんざりしている。
だったらいっそのこと、武闘家の装いをすればいい。
そうすれば、そのやり取りもなくなる。
さすがは専門店。
こちらも、さまざまな武道着が並んでいる。
その中で、ある一着に目が留まった。
東方の国で作られた道着。
ボタンがなく襟はクロスさせて合わせる。
その上から、ベルトの代わりに『帯』と呼ばれる布を締める。
袖口はゆったりとしており、胸には金色の刺繍が施されている。
それは髭や立髪を蓄え、手足が生えた巨大な蛇。
見慣れる生き物からは神々しい印象を受ける。
「かっこいいな、これ」
店員の話によると、東方ではこれが龍の姿らしい。
文化は違えど魅力は充分に伝わる。
やはりこれがいい。
ユリィは試着室へと持ち込んだ。
「どうかな、これ?」
カーテンを開け、アヤンに見てもらった。
「ピッタリですね。とても似合っていますし、素敵だと思います」
その言葉に、ユリィは思わず焦った。
「そっ、そう?じゃあ…これにしようかな」
『似合っている』や『素敵』。
そのような褒め言葉は、冷静に考える余地がなくしてしまう。
「動きやすそうですか?」
ユリィは正拳突きを放ち、ハイキックを繰り出し、着心地を確かめる。
「うん、問題ない」
決断のきっかけは不純だったが、実用性としては申し分なかった。
その後、武道用の靴と、拳を保護するためのグローブも選んだ。
「もう、杖は持たないのですか?」
「俺には必要ないよ」
武術で戦う方が性に合う。
魔導士用の装備を新調することはなかった。
それより、こちらの方がよほど身体に馴染んでいる。
「ありがとうございました」
二人は新たな装備を腕に抱えながら、二人は店を出る。
そして、宿へと戻って行った。
翌日、目を覚ましユリィはベッドから立った。
視界には、壁に架けられた道着が映る。
その前へと進み、袖を通す。
昨日まで世話になった魔導士の衣装は、袋の奥へとしまう。
新しい衣装に身を包んだユリィに、昨日とは違う感覚が起きる。
ただ服装を変えただけだが、そんな気がしてしまう。
部屋を出た、ちょうど同じくして。
向かいにある、アヤンの部屋の扉が開く。
「おはようございます、ユリィさん」
現れたアヤンは、昨日買ったローブを纏っていた。
「お…おはよう」
美少女である。
その認識は元々あった。
新しい衣装はそれがさらに際立つ。
直視しづらい状況になった。
あくまでも旅のパートナー。
そう位置付けていた。
だがこの先、余計な感情が芽生えてしまわないか、そんな不安が胸をよぎる。
同時に、これ程の美貌を持つ女性と共に行動している。
その事実に、小さな優越感を生んだ。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。そろそろ出発しよう!」
そう答えたユリィの口調は、明らかに慌ただしかった。
(余計な事を考えたらダメだ)
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