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ぞわぞわさん  作者: 大河 亮
第二章
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4

 警察署で蔵和田想和子に関する捜査資料を探す島崎。日付は大体わかるが膨大な資料のため探すのに苦労していた。何度か休憩をはさもうかと思ったが、もう少しだ、もう少しだと自分を鼓舞しながら探した。そしてようやく蔵和田想和子強姦の捜査資料を見つけた。資料によると犯人は三人で下校中の想和子を車に連れ込んで強姦した後、その場に想和子を降ろして逃走。近くを通りかかった人が通報し発覚。想和子は病院に運ばれたが外傷は特になかった。犯人の三人は二日後に逮捕。三人の情報も詳しく記載されている。この事件から2ヶ月後に想和子は自殺したと倉井は言っていた。また島崎は捜査資料を探す。


 すると課長の本田が資料室に入ってきた。課長が直々に資料室に来るのは珍しい。「父さん。調べものの最中すまないねぇ。実は父さんたちが事情聴取した小林琳人の母親から苦情がきてな。息子は情報提供者なのに酷い取り調べを受けた。捜査に協力するのは国民の務めかもしれないが、今後このようなことが続くのであれば訴訟を起こすと言ってきた。俺は父さんが悪いとは思っちゃいない。だが立場上厳重注意しなきゃならないんだ」本田が深く溜息をつく。事情聴取から一週間以上経過してからの苦情。事実上の脅しだ。恐らくかなり揺さぶりが効いている。ご丁寧に自分のことは告げなかったようだが。「そうですか。申し訳ありませんでした」立ち上がって深々と頭を下げる島崎に本田は慌てて。「いやいやいや、いいんだよ父さん。頭を上げてくれ。次からちょっと気をつけてくれりゃいいんだ」島崎の狙い通りだ。「じゃあ引き続き頼むよ」そう言って本田は資料室から出ていった。


 しばらくして島崎は目当ての資料を見つけた。死亡したのは蔵和田想和子。16歳。マンションの屋上から転落。現場写真には仰向けに倒れている想和子が写っている。倉井の言っていた通りパーカーのフードを被ったままだ。マンションの防犯カメラに屋上に一人で向かう彼女が映っていたことと、2ヶ月前に強姦されていたことから自殺と判断された。自殺で間違いないだろう。島崎も納得する。捜査資料をじっくり読んでみたがいじめについては触れられていなかった。だがもし小松直子が想和子を強姦した三人から金を受け取ったりしていれば、それは紛れもない犯罪だ。許されることではない。法的な罰を受けさせることはできなくても、何としてでも償わせてやる。そのためにも想和子のことをもっと知る必要がある。島崎は想和子の住んでいたマンションの住所をメモすると、捜査資料を片付けて生嶋のもとに向かった。


「どうだ調子は」生嶋の後ろに立って島崎が聞く。「いくつか出てきましたよぉ。どれも核心には触れてないですけど」島崎はパソコンの画面を覗き込んだ。画面には女子高生強姦について、三人組による犯行、援助交際か!?、強姦事件の被害者女子高生自殺、強姦されたのを苦に自殺か、いじめが原因?、DVの恐怖。等々不確かな情報も多かった。世間に名前を知られていなかったのが救いと島崎は思った。いじめについて触れているページの内容によると学校側は完全に否定。生徒たちへの聞き込みでも皆黙秘。緘口令が敷かれたのだろう。倉井も言っていたように報復が怖かったこともあると思われる。何より主犯格でなかったとしても多くの生徒がいじめに加担していたようなので、自らの罪を暴くような恐ろしい真似は誰もできなかったのだろう。このページでも逆に怪しいと疑いが強まった様子だったが、それ以降の記事はなかった。


 島崎はDVについても気になったので生嶋にページを開かせる。近所の人たちによると建設会社に勤める父親は、挨拶はするが近所付き合いはしない人で、愛想のいい人ではないとのこと。自殺した女子高生は元々明るい子ではなかったが、中学生になる頃からより暗くなっていった。もしかすると大人になっていく娘の体に欲情していたのかもしれない。父親にDVについて聞き込みに行くも追い返され真偽は不明。より一層怪しい。とのことだ。無茶苦茶だと島崎は思った。まず父親の勤め先は関係ない。何故想和子が暗くなったのかきちんと調査したのだろうか。娘の体に欲情というのも無理矢理すぎる。娘が自殺してすぐDVを疑われれば誰だって追い返したくなる。「この記事酷いでしょう。ちゃんと調査したんですかねぇ」生嶋も同じ考えだ。やはりこの件はあまりしっくりこない。もちろん可能性を全否定するわけではないが。


 他のページも見たが生嶋の言う通り核心に触れる記事は一つもなかった。名前が公表されていなかったこともあり、数自体が少ないのもあるが。「次は小松直子のことを調べます」生嶋が真面目な顔でパソコンの画面を見たが。「いや、小松直子のことはまたでいい。それより今から蔵和田想和子が住んでたマンションに行くぞ。家族が今も住んでるかはわからないがな」捜査資料から抜粋したメモを生嶋に見せた島崎。生嶋はすぐに理解して立ち上がった。


 蔵和田想和子の住んでいたマンションは築三十年程で、古ぼけたという印象は受けないが、周りを新しく綺麗なマンションに囲まれるとボロアパートのように見える。なんとも悲しげな佇まいだ。階段で二階まで上り目的の部屋の前まで来た。生嶋がインターホンを押してみる。だが音はならなかった。故障しているのだろうか。仕方ないので生嶋は扉をノックする。「すみません。警察ですがどなたかいらっしゃいませんか」返事はない。島崎が隣の家の住人に聞いてみようと移動しかけたそのとき。ガチャという音がして扉が開いた。中から出てきたのは白髪が混ざった短髪の中年男性だった。短いにも関わらず激しく振り乱れている髪は恐怖を感じさせ、目には人を寄せ付けない威圧感がある。こいつだ。こいつが蔵和田想和子の父親だ。島崎の直感がそう告げる。「すみません。警察ですがお話を聞かせていただけないでしょうか」生嶋が警察手帳を見せながらそう伝える。生嶋は少し気圧されている様子だ。中年男性は生嶋の顔を少し見た後島崎の目を見つめる。島崎も男から目を逸らさない。一触即発という雰囲気に生嶋は緊張した表情を浮かべている。「蔵和田さんですよね」しばらくの睨み合いの後に島崎が訊ねた。「はい」低く冷たい声で男は答える。正直今も住んでいたとは驚きだった。確かに蔵和田家は被害者側だ。逃げる必要はない。それでも娘の強姦事件そして自殺。大抵の人間は世間体を気にして引越すのではと島崎は思ったが、例外がいることには理解があった。「警察の方に話すようなことはないと思いますが」男はまた冷たく言い放つ。「13年前に亡くなった娘さんのことを聞かせてもらえませんか」相変わらず気圧されてはいたが、生嶋は男から目を逸らさずに言った。島崎は男が何か反応を示すと思っていたが、表情も態度も一切崩さなかったので嫌な想像が頭に浮かぶ。もしかするとDVは本当にあったのかもしれない。そう思わずにはいられなかったが、下手な先入観を持つのは危険だ。この男は何か得体の知れない雰囲気を持っている。島崎が思案していると。「構いませんよ。立ち話もなんですからどうぞ」そう言って男は扉を大きく開けた。以外とすんなり招き入れるのだな。島崎だけでなく生嶋もそう感じたようで、少し驚いた表情を浮かべている。「すみません。お邪魔します」島崎が先に答えた。相手の気が変わってはいけないし、変に間を空けると相手を警戒させてしまうかもしれない。こうして二人が蔵和田の家に入ると男は扉を閉めた。バタンという大きな音が異様に響いていた。

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