表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
座頭の石 (ざとうのいし)  作者: とおのかげふみ
第四章 最後の会話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/61

ep.8 あきらめ

普通は、人の道を外れる事にそれなりの理由がある。

例えば、貧困(ひんこん)の底に生まれる、暴力や虐待を受けて育つ、親の愛を受けられなかったなどの成育環境に恵まれなかった場合。

また、成長期にイジメや理不尽な扱いを受けて社会から爪弾(つまはじ)きに遭い、辛酸(しんさん)を舐めて成長して、(ねじ)れた思想を持った時。


弥切(やキり)は、そのどれにも当たらなかった。


彼が八九三(ヤクザ)になったのは、()いて云うなら田舎のごく普通の人々の中に生まれてしまった事。

周囲が、それを個性や才能と理解出来なくて、ただその個性と才能を押し潰そうとしてしまった事だろう。


弥切が生まれたのは、その地域では最も豊かな家だった。

豪農の地主の跡取り息子として何不自由なく育ち、周囲(まわり)も、将来の当主として気を使い御機嫌をうかがう。

大人は、幼い弥切に丁寧に挨拶し、それが当たり前な環境で育つ。


ただ、幼い頃から弥切は、普通の子供と違っていた。

大人達は幼い子供になぜ? そんな扱いをするのか、他の子供達と比べれば明らかに違っている。


...なるほどそうか!大人達は僕ではなく父に頭を下げているのだ


と理解した。

それから、彼は(おご)る事なく振る舞った。


「みんな、僕に挨拶しなくて良いよ。怖がらなくても、僕に力はないから」


それは、周りの大人達には可愛げない子供に映る。

結果大人達は、気味悪い生き物を見る目で弥切を見るし、挨拶は続けられる。


弥切は考えた。


...そうか、子供らしいところが無いからだ


「大人は、子供らしい無邪気なほうが好きなんでしょ。あんまり賢い子供は嫌だよね」


ある日、叔父にそう言うと彼は笑顔を見せながら言った。


「そんな事あるはずないだろう、みんなおまえの利発さに感心してるよ。こんな子供がいて俺は兄貴が(うらやま)ましい」


叔父は弥切にそう言ったが、


「あんな小賢(こざか)しい子供は見た事ないな。いつも俺を見下してるようで、可愛げがないガキだ」


と陰では話していた。


数えで十二(才)になった弥切は、大人の考えを簡単に推察できるようになっていた。


相手の頭の中が透けて見えるような、そんな感覚。

父が大人と話す内容の単語までは理解出来ないが、相手が心から納得しているのか上辺だけなのかが透けて見える。

母が愛人を作る父を恨んでいる事を感じとり、身の回りの世話をする(じい)やは自分を嫌っていて、奉公人や父の商売相手は自分を気味悪がっている。


ある日、奉公人同士がこんな話をしているのを耳にした。


「あの家の坊ちゃんは取り替え子、物の怪(モノノケ)があの家の赤子と自分の子を取り替えていったに違いない」


弥切は、自分らしく振る舞うのを止めた。

感じた事を、そのまま口にはすると自分が不利になる。

黙っていたほうが、この世の中は生きやすい、という事を悟った。


それから、普通の子供を演じる事にした弥切にとって、この世の中は何の感動もない、つまらないものになっていた。

相手が嘘をついてると分かりながら、わざと(だま)されてやる。

誰かの本気じゃない言葉に、喜んだふりをする。

そんなことをしてるうちに、弥切にとって、生きることは死ぬまでの暇つぶしとなった。


自分の将来は、家業を継いで妻をもらい、子を成して家の後継を決めて老いて死ぬだけだ。

生まれたら生きて死ぬ。虫も動物も草木も全ての生き物がそうだ。

自分だけが、そこから逃れられるはずはない。

これが当たり前のことだと、弥切は幼くして自分を納得させることにしていた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ