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座頭の石 (ざとうのいし)  作者: とおのかげふみ
第四章 最後の会話

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ep.6 都合

助五郎(スケゴロウ)に呼び出されて数日が経ち、定吉(さだよし)は仕事道具の買い物もあって、久しぶりに子毛(まち)にやって来た。

ついでに、(よし)親子の生活を助五郎に伝えようと屋敷まで足を伸ばした。


屋敷の表の玄関口から声をかけると、神経質そうな()せた奉公人が出てきて、応対した。

奉公人は、「まったく、なんでここから来るんだ」とブツブツ言いながら土間へ降りると、定吉に「ついて来るように」と言って歩き出した。


玄関から入ることなく裏手にまわり、殺風景な小部屋の前に定吉は連れて来られて、廊下を上がって部屋で待つようにと言われた。


板の間に座り待っていると、ドンドンと足音がして不機嫌そうな顔の助五郎が現れた。

助五郎は部屋の首座(しゅざ)にドカッと座り、正座する定吉(さだよし)を見下すように見た。


そして、定吉が話をするのを睨むようにして見つめ、聞き終わると助五郎は言った。


「報告が遅いな、もっと頻繁(ひんぱん)に来るようにしろ。ワシの都合の良い日に人をやるから、その日の内に屋敷に来るようにするんだ。分かったな、五七(ごひち)ちょっと来い」


呼ばれた男がやって来る。

この部屋まで定吉を案内して来た、痩せた神経質そうな男だった。


「出口に案内しろ」

「へ、へい」

「二度とないように、ちゃんと言い含めておけよ」

「わ、わかりやした」


五七は、助五郎の前では萎縮して(かしこま)っていた。

助五郎が部屋から出て行くと、その後ろ姿を見送る。


「ついて来い」


定吉を見下ろすと、冷たく言った。

定吉は、今度は裏口に連れて来られ外に出るよう(うなが)される。


「もう玄関口から来るな、裏口(ここ)から入って来い」


五七はそう言うと、ピシャリと戸を閉めた。


定吉は、この前との対応の変化に少し面食らっていたが、苦笑いして気を取り直した。


...さあ、帰るか


職人としてソの郷に居つく前、定吉はある理由から助五郎を調べていた事があった。

その人となりは想像出来てはいたものの、こんなに急に態度が変わるとは想像もしていない。

前に会った時の親切な態度は、結局うわべだけのものだったのだろう。


...助五郎にとり、自分は取るに足りない者だということだ


それに屋敷に人相や態度の悪い者達が増えた。陶さまがいた頃に居た、気の良い奉公人たちは居なくなったようだ。問屋(みせ)には暫く足を運んでないが、あっちも良い奉公人は辞めたのだろうか?...


助五郎は、堺では間違いなく阿漕(あこぎ)な事に手を染めていた八九三(ヤクザ)の一人だった。あの素行の悪い奴らはどこから来たのか? 昔の仲間なのだろうか?


帰り道、考えながら歩いていた。

すると、いきなり後ろからバシ! と頭を(はた)かれる。


... ()ったぁ


叩かれた方向を振り返る、そこには男がいて、自分を睨みつけていた。


...小者(コモノ)が..


八助(ハチスケ)さん。いきなり叩くのは、無しじゃないですかね」

「てめえが、呼んでるのを無視したからだろ」


八助は叩くだけでは飽き足らず、定吉を蹴ろうして来る。


定吉は軽くいなした。

すると、イラッとした八助は定吉の足元に(つば)を吐いた。


「危ないなぁ、これからはせめて、後ろからはヤメてもらえませんか?」


定吉は怒りを抑えつつ、距離を取る。


「うるせえ! 弥切(やキり)のアニキが、てめえを呼んで来いって言うから探してたんだ! 早くついて来い!」


そう言うと八助は、唾を吐き捨てた。


...今の俺はこんな小者にさえ、理不尽な事をされても我慢するしかない


昔の自分と、現在(いま)の自分を比べてみて、哀れで自嘲(わら)った。


「なにが可笑(おか)しい?」


八助が、定吉を前に凄んで見せた。


「いえ、なんとなく笑ってしまったんです。それよりも、弥切さんが呼んでるんでしょ。早く連れて行って下さい」


張り合う気にはなれず、定吉は八助に先へと(うなが)した。


弥切が待っているという場所に向かう間も、八助は何かと定吉にチョッカイをかけて来るので面倒だった。

定吉は能面(のうめん)のような顔でやり過ごす、ニヤニヤと自分を(あざけ)る八助を怒らせないように気を遣って。

それでも八助は、定吉が怯えていないのが気に入らない様子だが、怖いとは思わないのだから仕方なかった。


定吉も、そこまで芝居してやるつもりはない。


まだ夕暮れ前、いつもよりずっと早めに開いた屋台で弥切は待っていた。

弥切は、二人を見ると片手をあげて手招きする。

八助がすたすたと駆け寄って行った。


「兄貴、連れて来ました」

「ああ、ご苦労。お前はもういいぞ」


八助が腰掛けに座ろうとするのを弥切は手で制した。

そして、おでんの皿が乗るだけの幅の狭いテーブルの上に、(カネ)を置く。


「これで女でも買って来い」


八助は明らかに不満気な顔をしたが、弥切が睨むと愛想(あいそ)笑いを浮かべる。

そのままテーブルの金を鷲掴(わしづか)みにすると、去って行った。


その様子を、少し離れて眺めていた定吉。

弥切が、座れと手で指図する。


「座れよ。そんなとこに突っ立ってられちゃ落ち着いて呑めねえ」


定吉は、少し弥切を眺めて、それから仕方なく腰をかけた。





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