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座頭の石 (ざとうのいし)  作者: とおのかげふみ
第四章 最後の会話

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ep.2 最後の会話

あれは例年より秋が短く肌寒く、子毛(こげ)の家々が冬支度(ふゆじたく)を早めに始めた頃の事だった。


「わしへの当てつけか? それとも、今日、死んでくれるって事か?」


奉公人(ほうこうにん)を通して何度も呼ばれ、迷惑でしか無かった。

『今日はどうしても』と懇願(こんがん)されて仕方なく部屋に来てみれば、(すえ)は部屋の中央に()かれた蒲団(ふとん)(あお)向けになり、首まで(かけ)蒲団をして顔に布を(かぶ)せていた。


遺体(いたい)にしか見えない。

助五郎(スケゴロウ)は、嫌々(いやいや)部屋に入ると、陶から離れた所に腰を下ろした。


...この(アマ)、なんのつもりだ?


陶が息をするたび、布が上下するのを見るだけで怒りが()いてくる。

しばらくの沈黙の後、助五郎が話を切り出した。


「話ってのはなんだ? ワシは、一日中寝てるだけのお前と違って忙しいんだ。用件を言え!」


顔にかけた布が、かすかに動いた。


「あなたに 言って、 おきたいこと、がある の」

「なんだ?」

「これ からの、こと」


(ワラ)いが、腹の底から込み上げて来た。

陶と二人きりのこの部屋に充満(じゅうまん)する、耐えがたい緊張感の反動かもしれない。


「ひ、ひ。 おまえ、 何を言い出すかと思えば・・」


もうすぐ死ぬこの女に、『これから』なんて関係ない。


...ついに、毒で頭がイカレちまったか・・


「あのな、誰も口にしねえから言って置いてやる。この家にとっちゃ、お前が生きてるだけで迷惑なんだよ


「早く逝ってくれりゃ、皆せいせいする。役立たずでも、飯は食わしてやるから、余計な事は考えずに黙ってあの世にいけ!」


...バカバカしい! くだらねえことで、ワシを呼び出しやがって。この馬鹿女ともこれでオサラバだ


助五郎は立ち上がり、陶に背を向けた。


「たん・・・がん、しょ」


廊下と(へだ)てた戸に手をかけた瞬間、聞こえた言葉に助五郎は立ち止まった。


御上(おかみ)()てた嘆願たんがん(しょ)を 書き残し たの」


助五郎は、全身の血液が一気に逆流するのを感じた。


... (たん) (がん) (しょ)


「あな たの知らない、ところへ 隠し た。あなた には、見つか らない」


助五郎は、深く後悔した。


『もっと早くに殺しておくべきだった』


「どういう・・ことだ。お前は、ワシと約束したはずだ。ワシが子毛(まち)住人(やつら)に危害を加えないなら、大人しく死ぬ。そう言ったんじゃなかったのか?」


部屋の温度が、一気に冷たくなった。

助五郎(スケゴロウ)は、いまにも陶を殺しそうな狂気を、その目に(とも)している。


「あなた 、私の死後、きっと心変わりする でしょう。だ から あなたにも、毒 を盛ったの・・・よ」


長い沈黙の間、助五郎は己れを自制することに必死だった。


...この女は、この手で殺す!


だが、その前に聞いておかなければならないことがある。

それは、嘆願書(たんがんしょ)行方(ゆくえ)と、書いてある内容。

それを聞き出さないと、殺すわけにはいかない。


ゆっくり息を吸い、ゆっくり息を吐く。

こんな当たり前の動作すら難しいほど、助五郎は怒りに震えていた。


「嘆願書は、 ・・・どこにある」


助五郎は、陶にゆっくりと近づいた。

そばに立つと、布のかかった陶の顔を見下ろす。


...このバカ女の、顔を踏み潰してやりたい


助五郎は鬼の形相(ぎょうそう)で、必死に殺意を(こら)えながら陶を見つめている。


...ともかくこの女に、嘆願書の場所を吐かせないと始まらない。クソ! その中身次第では


この辺りのあるじとなり支配する事も武士(サムライ)として生きる事も、ワシの夢が、全て水の(あわ)になってしまう


クソったれ! 簡単に騙せた世間知らずのバカ女に、死に際になって追い詰められる事になるとは思わなかったぞ


脳裏に、陶と出会った日の事が思い出された。






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