ep.1 翌朝
...酷え二日酔いだ
脳ミソまでガンガン届く痛みを抱えて、助五郎が起き上がる。
目を開くと、見慣れぬ部屋に居た。
...どこだ此処は?
線香の匂いがした。
助五郎は周囲を見回しゾッ!とする。
「縁起でもねえ」
助五郎は、亡き妻の陶が最後を過ごした部屋にいた。
ここで陶がどんな死に方をしたか、助五郎が一番知ってる、その部屋にいる。
昨日、石いう目暗が来た。
その翌朝。
昨夜は、石の為に蘭の部屋で小さな宴を開いてやった。
これも、あの腕の立つ男を飼う投資のようなもの。
しかし、普段より飲んで、部屋を出てからの記憶が曖昧だ。
『石を部屋に案内しろ』と八助に言いつけたのは覚えてるから、石も今頃は起きて飯を食ってる頃だろう。
...今から誰かやって、女房を連れて来させるとして、石と女房を、俵永の居る宿に泊まらせるか、いやそれはマズイな
俵永の女に対する性癖は最悪だ。
他人の妻だろうが、見境いが無い。
下手をすれば、俵永が石を殺して女房を奪う可能性がある。
ふと見ると、廊下と隔てた障子の色がやけに明るい。
とっくに陽は、昇っているようだ。
...いま、何時だ? もう昼なのか? ワシは何時間ここで寝てたんだ
あたりを見回した。
「相変わらず、辛気臭え部屋だ」
この部屋を改装したいと、ずっと思っているのだが先延ばしにして来た。
陶の怨念が、この部屋に詰まっているようで怖ろしいからだ。
...来たのは『アレ』以来、か
陶が亡くなった後の数日は、屋敷の者たちへの体裁もあって、助五郎は自分の部屋の隣に仏壇を構え位牌を置いていた。
たが、その間ずっと眠れない日が続き、助五郎は堪らなくなって、この部屋に位牌を移した。
『朝と晩、欠かさずに線香を立てておくように』と奉公人に言いつけてあるので、毎日焚かれてる線香の匂いが、部屋中に染み付いている。
助五郎は、しばらく位牌を眺めていたが、陶に見られている気がして目を背けた。
閉め切った部屋で充満した線香の匂いを嗅いでいる内に、助五郎は、この部屋で交わした陶との最後の会話を思い出していた。




