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座頭の石 (ざとうのいし)  作者: とおのかげふみ
第三章 子毛の町

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ep.19 俵永

俵永(ヒョウエ)(こん)の着流しの(すそ)を短く断ち、腕を使いやすくして、その上から陣羽織(じんばおり)を羽織っていた。

頭は月代(さかやき)を剃らずに放置している。

体は、鬼造(オニゾウ)ほどてはないが、背が高くガッシリしていて、刃の長さが三尺(約90㎝)の大太刀(オオダチ)を片手で軽々と持っている。

その上腕に、田亀(タガメ)のような形をした黒いアザがあった。


ヴヴヴ、グルグルグル、ウオ、アオーン!。


苛立つ野良犬たちが、何頭も二人の周りに群がって来た。

ウロウロと辺りを徘徊(はいかい)し、隙を伺っている。


月明かりから、身体を隠せるような場所はないかと、(いし)後退(あとずさ)りする。


...こいつはイカれてる。だが、おそらく踏んだ修羅場は片手じゃ効かないだろう。今まで、殺してきた相手も


疲れ切った、いまの状態じゃ相手に出来ない。

なんとか逃げる方法を考えなければ、ここであの世行きが決まってしまいそうだ。


俵永は石が退()がるのに合わせるように()を進めてくる。

俵永の目に映る街道は月に明るく照らされて、視界は開けている。

その先に石が隠れる場所は、用意されていなかった。


石は覚悟を決めた。


...懐に飛び込んでみるしかない



ゥゥゥウオウ、ゥオオウゥォオー!!


石が覚悟を決めたその時、一匹の野犬が、ススキ野から飛び出して俵永に襲いかかった。

牙を()いた野犬を、慌てる事なく斬り捨てると、二つに別れた胴体の下腹部を、俵永は蹴り飛ばした。


「ええい!小五月蝿(こうるさ)い!! ケダモノ風情(ふぜい)が人間様に襲いかかるとは


小賢(こざか)しいケダモノを、一匹、二匹斬り捨てたからといって、俺を恨むのか!」


...そりゃ、恨むだろう


「おい! 貴様、逃げられると思うなよ」


石が背中を見せ、逃げる素振(そぶ)りをすると、俵永が追いかけて来た。

石は背を向けて両手を合わせ、隙間(すきま)に息を吹き込んだ。


即興(そっきょう)犬笛(いぬぶえ)だ。

取り囲んでる野良犬を思う通りに動かすのは無理でも、人に聞こえない犬笛の音は、野良犬たちを強い興奮状態に導いた。


ウワウ、ワウ、アオウ! ウオウ、アオウウ、ヴヴオオウゥォオーン!!


野良犬たちが一斉に吠え始めた。


狂ったような鳴き声に、俵永が驚いて足を止める。

野良犬たちは、俵永を取り囲み吠えながら、グルグルと周りを回っている。


また一匹、俵永に喰らいつこうと野良犬が飛び掛かる。

ギャン! と鳴いたその一匹は、俵永の大太刀に胴体をパックリ斬り裂かれて生き絶えた。


俵永は、今度は自分から野良犬に襲い掛かる、ススキの間を駆ける一匹を串刺しにした。

そして、また飛びかかってきた一匹を斬り捨てる。

この野犬の頭が、道をコロコロと転がっていった。


「この狂った野犬ども! いい加減にしろ!」


鳴き声が聞こえなくなるまで、俵永は(カタナ)を振るう。

やがて生き残った野犬は、散り散りに逃げていった。


「ようやく居なくなったか、この畜生(チクショウ)共が、クソッタレ! 


「おや、あいつも消えたか? まあいい。殺しを見られたわけじゃ無し。散々切り刻んで川に流してやったから、バレるわけも無いだろう」


俵永は帯に吊るしてあった瓢箪(ひょうたん)を取ると、口に当て、なかの酒を(あお)った。


「酔ったせいで、(つか)の握りが甘かったかもしれん。俺が二撃も打って()し漏らすとはな


暗殺(しごと)帰りの余興(よきょう)に、耳障(みみざわ)りな歌を唄う(やつ)始末(しまつ)しやろうと思ったんだが・・まあ、良い。楽しみが増えたと思おう。次は、必ず殺す」


俵永は誰も居ない街道を眺めて、愉快(ゆかい)そうに笑った。






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