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座頭の石 (ざとうのいし)  作者: とおのかげふみ
第三章 子毛の町

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ep.15 襲撃

屋敷の外に出て、(よし)の家へと戻る道すがら(すず)のことを考えた。


...あの嬢ちゃん、正直に言わなきゃいいんだがな


子供が(つら)い思いをするのは嫌なものだ。

いくつもの小さな傷があったあの小さな手に、何もしてやれない事が哀しい。


夜風が、酒で火照(ほて)った身体を冷やしていく。

夜空には月が浮かんでいるのだろう、まわりが少し暖かく感じる。


...(つる)は、起きて待ってるんだろうか?


寒くもないのに、何故か身が震えた。


...早く帰りゃ良かったなぁ? でも、あしのせいじゃねえんだぜ


久しぶりの酒は旨かったが、あの助五郎(スケゴロウ)がしつこく酒を勧めるから、仕方なく付き合って、遅くなってしまったわけで・・


...つるに、この言い訳通るかなぁ


ゴリゴリと頭を掻く。


...(あいつ)は合理的な女だから、阿呆(あほう)みてえに、あしの帰りを待ったりせず、寝てるだろう


・・って思いてえとこなんだが、こんな事なら、一言「先に寝とけよ」って言っとくべきだったかなぁ? やだなー、帰るのが()っかねえ...


見えない星々を、頭に思い描き夜空を仰ぐ。

夜風のおかげで、酔いは冷めた。


...これなら大丈夫だろう


もうすでに、棒鼻(ぼうばな)は過ぎて、それでも()けて来る者が居る。


...やれやれ、今日は尾けられてばっかりだな、ここに来てから、えらい有名人だ


さて、やるか・・つるが厄介(やっかい)になるって云うのに、由の家に面倒なモンを連れて行くわけにはいかねえしな...


まわりは野っ原。

道の途中で、(いし)は足を止めて振り返った。


「いつまでついてくる気だ、お前さん達。酒で足も覚束(おぼつか)ねえ男を痛めつけて、(かね)でも取ろうって腹か? 生憎(あいにく)あしは銭はねえ。怪我もしたくねえし、させる気もねえんだ


早々に(けえ)んな。あしは、お前さん達から見りゃ、ただの見窄(みすぼ)らしいオヤジに見えるんだろうが、外見(そとみ)だけじゃあ理解不能(わかんねえ)こともあるんだぜ」


(いし)が云い放ってから、間があって、男が三人現れた。

(かま)(ナタ)(かたな)を手に、真っ赤に目を血走らせている。


男達は緊張した面持(おもも)ちで、石に近づいて来る。

対照的に、石はリラックスして、まるで月夜の散歩を楽しんでいるようだ。


...荒い呼吸(いき)と汗の臭い。そんなに緊張してたら、まともに身体は動かねえだろう? 連中(こいつら)慣れてねえな


自然な動作で杖先を一歩前にポンと投げ、男達が来るのを待つ。

同時に、三人の背後の月明かりから隠れた林の暗闇に隠れている、奴らの様子も(うかが)う。


...全員をいっぺんに相手するのは骨が折れる。とりあえず三人。あとは出たとこ勝負


三人のうちの一人が、刀を振り上げ、奇声を上げながら突っ込んで来た。


...闇討ちって、そんなに騒ぐもんだっけ?


男の刀は振り降りる事なく。

男は、足元から突然、跳ね上がってきた杖先に喉を突かれて、白目を剥いてひっくり返った。


石は何食わぬ顔で、残りの二人に声をかけた。


「次は?」


(とお)も数を数えないうちに、それは終わった。

一段と冷え込んだ風は、ゴゴゴ・・・と(けもの)のような雄叫びを上げ、木々や草原(くさはら)を揺らしながら駆け抜けていく。


風が通り過ぎた後、三人の襲撃者は()なしたが、石は逃げずにその場に(とど)まっていた。

三人の男は、明らかに修羅場()慣れしていない者達だ。

勢いよく皆向かって来ただけ、三人いても、無防備で統率も無い烏合(うごう)(しゅう)


こういう修羅場()慣れした石が、造作(ぞうさ)なく返り討ちに出来たのも当たり前だ。


地面に散らばった、三人の凶器(エモノ)を探ってみた。

農耕用の(かま)(ナタ)()が欠けた(なまく)らの刀。


...山に草刈りにでも行くつもりだったのかよ


切羽(せっぱ)詰まった素人(しろうと)物盗(ものと)りなら分かる。

だが、どう考えても石を狙って来たとしか思えない。

目が見えないと、舐めてかかっていたのかもしれないが、三人の本気さと頼りない凶器の組み合わせが不自然だ。


もう一つ、三人の背後で暗闇に隠れて様子を(うかが)っていた連中の存在がある。

連中(そいつら)の方が場慣(ばな)れしている気がした。

三人を叩きのめせば、後ろの連中が出て来るかと思ったが、全く動こうとしない。


月明りの届かないギリギリの一番近い場所で、この場を観察していた『奴』がいる。

目が見えて暗闇に慣れれば、背格好(せかっこう)くらい分かったかも知れないが、石には気配しか分からない。


ただ直感で、『奴』がこの連中のリーダーだと感じた。


「おい、お前さん達。かくれんぼか? そんな遊びは、いつ卒業するんだ。隠れてないで出て来いよ、あしが一緒に遊んでやるから」


ニヤニヤしながら、石は暗闇に向かって話しかけた。

足下には、倒れた三人の男たちが(うめ)いている。


石の言葉に、暗闇の連中がざわついた。

出てくるかと思ったが、『奴』が動くと収まった。

その後も、挑発(ちょうはつ)してみるのだが、連中は誘いに乗って来ない。


『奴』が、連中をコントロールしているのだろう。


...朝から歩き詰めで、今日はもう疲れた、こっから多勢を相手にするのは分が悪い(不利だ)


あしにとっちゃ関係ねえが、ここに倒れてる三人も、早く手当をしたほうが良い。朝まで、奴らと(にら)めっこする気はねえや...


「お前ら、こいつらを医者に()せてやれよ」


三人が倒れてる地面を、杖でトントンと叩く。

暗闇に(ひそ)む奴らに返事は無いが、呼吸音は聞えてないから、まだ暗闇(そこ)に居る。


三人(こいつら)は、きっと使い捨てなんだろうが、死ねば、お前さん達みたいな(クズ)でも寝覚めは悪かろう


「あしも、死んだとなりゃ気分が悪い。手当くらいしてやれ、分かったな」


最後は、(さと)すように言ってみた。

返事は無い。


カチン! ときた。


(にら)めっこじゃねぇんだぞ。いつまでダンマリ続けるつもりだ


「あしの前は、いつだって暗闇だ。意味が分かるか? お前さん達が来ねえなら、こっちから、暗闇に迎えに行ってもいいんだぜ」


石が一歩踏み出すと、暗闇がざわついた。


...六、七(人)、もう少し居るか。今、相手にしたくねえ数だ


圧をかけるのをやめて、穏やかな口調に変える。


「まぁいいや、あしはもう帰る。早寝早起きが、毎日の日課なんでな。怪我人の面倒は、お前さん達がしとけよ」


石は後ろの連中にアンテナを張りながら、背を向けた。

背後から襲ってくれば、戦闘(やる)しかないが、出来る事ならこのまま戻りたい。


気を張って歩いたが、誰も暗闇から出て来る様子はなかった。


...不健康な奴らだ、たまには朝日の下で働けよ


連中の気配を感じなくなると、ドッと長旅の疲れが押し寄せて来た。

背中に岩を背負っ(しょっ)てるかのように、一歩、歩くたびに体は重くなっていく気がした。


...まずいゾ。(よし)の家に辿り着くのが、一苦労だ


定吉(さだよし)が言ってた、人が(けもの)に襲われるという話が頭を(かす)めた。


...()な話を聞いちまったな。こんな()(ぱら)の真ん中で、へたばったら獣の餌になっちまう


体が倒れる前に一歩、足を出し、その勢いで二歩目を出す。

ゆっくりした足取りで一歩一歩、獣が襲い来る恐怖を感じながら石は歩いた。






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