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座頭の石 (ざとうのいし)  作者: とおのかげふみ
第三章 子毛の町

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ep.11 口上

「来たな、お前は約束を守る男だと思っていたぞ、ワシの目に狂いはなかった」


部屋に顔を見せた助五郎(スケゴロウ)は、開口一番、(いし)にそう話しかけた。


...嘘つけ、血の果てまで追うって言ったのは何処(どこ)阿呆(アホウ)


「親分さんのご厚意に甘えて、敷居を(また)がせて頂きました」


石は、皮肉を抑えて頭を下げた。


「オジキ、この目暗(めくら)を連れて来るのには苦労したぜ。こいつは、来た途端に町中をうろついて、まったく話しになんねえんだよ」


...お前さんが、あしの後をずっと()けてただけだろ


「そうか、八助(ハチ)もご苦労だったな」


「へへ、」と、嬉しそうに八助(ハチスケ)が指で鼻頭(はながしら)を掻く。


助五郎は、悠々(ゆうゆう)と歩いて、石と八助の前を通り、ドサリと首座(しゅざ)に座った。

手枕(てまくら)を引き寄せ腕を乗せると、石を真っ直ぐ見やる。


「さて、ようやく聞かせてもらえるかな、あんたの名前を」

「大層な名前じゃ御座いませんが、あしの呼び名は」


「おっと、待ってくれ」


意地になって言わなかっただけで、たいした名前でもない。

石が言おうとしたら、助五郎が手で制した。


...?


「これだけ時間をかけさせられたんだ。普通に挨拶されたんじゃ面白くねえ


「・・そうだな、渡世(とせい)仁義(じんぎ)を斬ってもらおうか? 口上(こうじょう)を聞かせてくれよ」


...はあ? ・・・敷居を跨がせて、仁義を斬るなんて聞いたことがねえ。こりゃ、昼間の腹いせじゃねえか?


石は、イライラを抑えるために、 ふう と静かに息を吐いた。

そして、ゆっくりと大きく吸って気持ちを落ち着ける。


...やだなー


「分かりました。では、改めまして・・・」


石は、姿勢を正し座り直した。


「こ(たび)のお迎え、親分さまのご配慮いたみ入ります。玄関口を(また)ぎましてからのご挨拶、前後取り違えての非礼を、お許し頂きたく存じます


御無礼(ごぶれい)を承知の上、親分さまにもご納得頂いたということ。これより、この場に(えん)あってお集まりの皆さま、この不肖(ふしょう)の流れ者が、挨拶させて頂きます


「お(ひけ)えなすって」


石は左手を膝に、右手の(ひら)を見せるように前へ突き出した。

手の先の助五郎は、手枕に体を預けたまま。

・・・ニヤリと笑う。


助五郎一家の此処(ここ)にいる唯一の若衆(わかしゅう)、八助は、初めて見る口上に、口をあんぐり開けて目を見開いてる。


...やだなー。受ける相手が居ねえのに、仁義を斬るってなんだよ


と思うが、ここでまたトラブルを起こすわけにはいかず、グッと(こら)える。


...しゃあねえ、筋道(すじ)も仁義もクソもねえが、道化を続けようか、助五郎(スケゴロウ)を喜ばせるのが今日の仕事だからな


「早速のお控え、有難うございます。粗忽者(そこつもの)ゆえ、前後のこと間違いましたる(せつ)は、ご容赦願います。

子毛(こげ)の親分さんには、初お目見えと心得(こころえ)口上をあげさせて頂きたく存じます


「手前、生国(しょううこく)と呼べる故郷(くに)なく、産まれ落ちて間もなく里子(さとご)に出され、物心(ものごころ)ついた時には筑前(ちくぜん)にて(福岡県地方)潮風の香りを嗅いで育ち、引き取った養父母より貰った名を、石と申します


盲目ゆえに先々困らぬようにと、養父の計らいで当道座(とうどうざ)より、『座頭(ざとう)』の()をもらい得たことより、しがない者は『座頭の石』と呼ぶ事もあります。

が、この身は生来(せいらい)、産まれ落ちた時から(ただ)の石っころ。親分、子分さまには、石と呼んで頂きたく存じます


育ての親はこの世になく、死に水をとり、九州を後にして山陽道(さんようどう)を、風の吹くまま気の向くまま、空を屋根、草を枕にと旅を続けて参りますれば、これと定める家業なし


「かつては、浮世(うきよ)から渡世(とせい)を、ふらふらと行き帰り、今は世間(せけん)のはぐれ者に御座います。

御当家の皆様には、しばらくの間のお目汚(めよご)しとなりますが、万事万端(ばんじばんたん)何卒(なにとぞ)、宜しくお願い申し上げます」


石は一通りの口上を並べると、助五郎の返しを待った。





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