ep.9 郷
由の家に着くと、女性たちは荷車から積み荷を下ろす作業をすぐに始めた。
着いた途端に二人が次々と手を伸ばして来るので、慌てて石は取り手の囲いの中から逃げた。
... 怖かった、生ける屍に襲われたかと思ったぜ
そのまま石は荷車の側でぼんやり立っていた。
すると、テキパキと忙しくしていた弦からの一言。
「いっさん、ここはもう良いですから」
...ここに居ると邪魔って事かよ
体よく追い払われた。
仕方がないので、忙しそうな荷車から離れて、立っていた。
...仕方ねえ、妙のほうが、あしよりもよっぽど役に立ってるしな
石を誰も責めたりしないが、まだ幼い、たえまで片付けの手伝いを頑張っているのに、ぼんやり突っ立ってるのは大人として流石に気が引けた。
といっても、殊更やる仕事もない。
風の音に耳を澄ませた。
...なんだ?
僅かな音と人の気配を感じて、そちらに意識を向けた。
... 獣か?
石の耳が、ひくひくと動く。
遠いが、二本足で刻む足音。
サクリサクリと、この家に近づいて来るようだ。
石は気付かないふりをしながら、その音に集中した。
...よしの知り合いの、郷の住人だろうか?
足音は一瞬止まって・・・また動き出した。
...向こうは気付いたな
足音の来る方向へ、杖先を置いた。
ザッザッ!と振動が手に伝わる。
...もう、こんなに近くに来てたのか!
石はゾっとした。
相手は、居場所を隠すことに長けている。
歩幅を変えたり足を強く弱く踏んだり、呼吸も抑えていて捉えどころのない奴だ。
この距離なら、普段であれば相手をだいたいイメージ出来る。だが、まだ相手が男か女かさえ掴みきれてない。
...忍みたいな奴・・・
よしの話では、ソの郷は顔見知りしかいない小さな集落で、みんな身寄りのない者達。
遠方から、訪ねて来るような縁者は居ない人々が多いとも言っていた。
過去が分からない者は多いようだが、皆ごく普通の人達で、今は、そのほとんどが職人という事だった。
...郷の住人なのか? それとも助五郎の手下に尾けられていたのを気付かなかったのか?
助五郎には、居所を知られないほうが身の為と、石は考えている。
最悪、屋敷に行って今より拗れた結果、逃げなきゃならないこともある。
奴が、足を止めた。
互いの距離は三歩半くらいか、一撃には遠く、仕掛け始めには丁度良い距離。
...男だ、助五郎の手下なら居場所を報告される前に叩く。その後は先へ行くふりして来た道を戻ろう。そのほうが追いかけられるよりマシだ
まだ素知らぬ顔をしながら、石は身体に力を込めた。
石は、いつでも暴れられるように杖の握りを変える。
すると、男のほうが声をかけてきた。




