第40話 桜庭黄金の計略
音遠には勝つこと優先する、なんて偉そうなことを言っておきながら、俺は今この瞬間を楽しんでいた。今まで金儲けのために色々なゲームをプレイしてきたが、そのどれともこのヘッズベルは違う。
熱くなる身体とは真逆に、背筋を流れていく冷たい汗。
この緊張感を味わえば味わうほど、俺はゲームの世界に没頭していく。研ぎ澄まされていく神経が敵の思考をトレースし、次に打つべき最善手を導き出そうと脳がフル回転する。
そしてその答えが出た時が最高に気持ちいいんだ。
人間はそうそう自分をコントロールできるものじゃない。頭では勝つことが絶対条件と考えながらも、そこにある可能性を試さずにはいられない。
「ゲームって……やっぱ最高だよな。ガクシ」
「くたばれぇ――ッ!!」
ガクシの動きは目で追えるレベルじゃなかった。いや目で追えたところで反応速度が追いつかない。
それは帯電強化の超スピードに加え、併用していた短距離転移のヴンダーがあったからだ。
俺は死角となっていた背後、しかもその頭上からの攻撃に対し反応できなかった。
悪寒を感じた直後には、ガクシの投げたスフィアが俺の背中を捉えていた。
「ぐおっ!」
さっきのように裏技での対応や、正面から捕球をする余裕など一切無かった。
スフィアが当たった威力で俺は吹き飛び、そのままガードレールに叩きつけられた。
『プレイヤー・ガクシが敵一体を撃破しました』
「今度こそ勝っ……――がはッ!!」
その一連の流れは、俺がまさに描いた通りの理想的な展開だった。
俺がガクシの投げたスフィアに当たり、それをベルがアウトコールをし、その直後に――
「どーん」
ミモちゃんの投げたスフィアが、勝ちを確信したはずのガクシの脇腹に突き刺さっていた。
「そんな……なぜ…………?」
「ダブルドッジだよ。制限時間が残り五分を切った瞬間、スフィアが追加されるルール。俺はそれを利用させてもらった」
「ま、まさか!」
「そうだ。俺がわざわざお前にベラベラと長話をしていたのも、二度もスフィアを渡して煽ったのも、制限時間を調整してこの瞬間にお前を仕留めるためだ」
実際の話この方法以外で、ガクシの能力に対抗する術がなかったのが本音だ。俺とミモちゃんがスフィアを持って、二人で戦ったとしても警戒された状況では仕留められない。
だから俺を倒した際に生じる、この隙を突く方法しかなかった。
「くそ……くっそおぉ!」
『プレイヤー・ミモが敵一体を撃破しました。アッセンブル4thの勝利です』
ガクシがアウトとなり、フィールド内にサイレン音がけたたましく鳴り響いた。
そして試合終了の合図と同時に、フィールドに残っていた俺たち三人はバトル待機室に一斉転送された。
「ナイス、さっすがミモちゃん」
「コガネもなの」
俺とミモちゃんはゲーム内のバトル待機室でハイタッチを交わした。
きっとミモちゃんのことだ。俺が最初からこういう展開に持っていくことも、視野に入れていたんだろう。
その後、ゲームからログアウトした俺はHMDを外して天井を見上げた。
「ふぅ……」
抜ける緊張感と共に大きく息を吐いた。当然だがこれだけ集中してゲームをしたのは初めてだ。正直マジで寿命が縮まった気がするぞ。
しばらく勝利の余韻に浸って個室から出ると、そこには音遠と宗介、そしてミモちゃんが待っていてくれた。
「やりましたね。桜庭君!」
「流石は僕の永遠のライバルだ(ファッサー)」
「だ、誰がライバルだっつうの」
ゲームの中なら平気でも、こうしてリアルで勝利を喜び合うのは何か恥ずい。そのせいか素直に喜んだ表情を浮かべることが出来なかった。不器用で御免なさい。
気恥ずかしさに頭を掻いていると、室外で待っていた本城さんが戻ってきた。
「皆さま、優勝おめでとうございます」
手短に優勝の賛辞を述べた本城さんは、鞄の中からタブレットを取り出して液晶画面をこちらに向ける。
「あなた方が優勝した時に、こちらの動画を再生するよう会長から仰せつかっております。ご覧になられますか?」
またかよ。ていうかどうせ見るんだから、その確認いちいち要らないと思うんですけど。
一応、音遠に目配せをし確認を取った俺は、本城さんの問いに頷いて答えた。
「では……」
『優勝おめでとう。本来なら私はその場に立会い、直接君たちと話すべきだったのだろう』
モニター越しに見る音遠の親父さんは、真面目な表情でそう語りだした。
その動画は時間にしてわずか一〇分程度のものだったが、見終えた後は誰もが呆然とし、現実を受け入れられないままだった。
俺なんかショック過ぎて、怒るどころか意識が飛びかけたほどだ。
ただ結果だけ見れば、こうなって良かったと思えなくもなかった。
それでもやっぱり腹は立つけどな!




