第38話 勝利確認
正面に聳え立つ高層ビルの手前から道が左右に別れている。ミモちゃんの勘頼りで右方向の道路へ入った直後、前方から走ってきたのはファンだった。
「ビンゴ!」
「なッ!?」
ファンが驚いているところをみるに、ガクシは〝反響定位〟を使わなかったようだ。
実はそれもある程度は予測できていた。理由は〝反響定位〟の消費WPが大きいからだ。
ガクシはすでにファンとソウスケの能力を、最低一回ずつは発動させている。加えてバトル序盤にこちらの居場所を特定するため、〝反響定位〟も使ったはずだ。
どの能力も消費WPがそこそこ大きいものばかり。だからこれ以上のWP浪費は避けるために、奇襲をファンに任せたということだ。
ガクシのWP残量を考えると、ネオンの〝帯電強化〟以外の能力は、消費WPが少ない俺やファンの能力で四、五回。ソウスケとミモちゃんの能力だと一、二回が限度だろう。
奴は無敵だとか自慢していたが、WP切れという弱点はちゃんとある。
「スフィアよこしやがれ!」
「舐めるな! 返り討ちにしてくれる!!」
ファンの能力で警戒するべきは〝短距離転移〟だけ。この状況では〝物体不可視化〟の方は使い道がない。正面から突っ込んで捕球するのがベストだ。
ファンがスフィアを振りかぶり投擲態勢に入った。
――来るッ!
スフィアを放つ直前、陽炎のようにファンの姿が揺らめき消えた。そして同位置に姿を現したのはガクシだった。これは先と同じ、ソウスケの能力でファンとの位置を入れ替えた。そして上手いのはスフィアを投げる一瞬前に入れ替えたこと。
ファンの低い投擲力ではなく、ガクシの投擲力が反映されたショットならば俺には捕球する術がない。
「もらったぞ!」
「いや、見え見えだっつうの。ぶっ!」
「ドーン!」
ミモちゃんが俺をドロップキックで蹴り飛ばし、ガクシの放ったスフィアの正面へと入った。いや最初からスイッチするつもりだったけど、何も蹴り飛ばさなくてもいいだろう。
「ほいっ」
ミモちゃんはスフィアをがっちりと掴み、まんまと引っ掛かったガクシに対し薄く笑みを浮かべた。
「な、そんな! なぜ捕れる!?」
ガクシのショットは申し分ない威力だった。おそらく俊敏性はネオンの〝帯電強化〟とファンの〝短距離転移〟で補えるため低い。その分のステータスを投擲力に振っているはずだ。だからショットの威力に自信があったのだろう。
だが残念だったな。ミモちゃんは捕球力にステータス全振りだ。
「ば……馬鹿なのか? 二人共が投擲力初期値で僕らに勝てるわけがないだろう!?」
「勝てるさ」
俺はミモちゃんからスフィアを受け取ると、目の前のガクシを無視して逆方向へ走り出した。まずはファンを仕留めるのを優先する。
『ミモちゃん、ファンの能力の弱点を教える』
『……聞かせて』
後方から付いて来るミモちゃんにファンの能力の説明、そして仕留める手筈を伝えた俺はビルの角を曲がった先でターゲットを発見した。
「今度は逃がさねえぞ!」
「ちっ、しつこい男は嫌いじゃ!」
さっきの空中戦での借りを返す。そしてあの空中戦でファンの攻略手段も思いついた。
ファンが再び逃げようと跳んだ瞬間――。
「はっ!? ごふッ!」
ファンの逃走方向、その上空斜め上から俺が引き寄せた飛行車が突っ込んできた。
「クソッ!」
「お前が〝物体不可視化〟でやった手口と同じさ。ゲームの仕様でプレイヤーへの直接攻撃はできないが、オブジェクトをぶつけて間接的に動きを止めることができる」
飛行車に轢かれて派手に吹っ飛んだファンが空を舞っていた。
「くっ、能力で引き寄せたのか!」
「その体勢じゃスフィアの捕球は無理だな。――ってことであばよッ!」
俺が投擲したスフィアは一直線にファンへと飛んでいった。
「な、舐めるな!」
そして俺の予測した通り、ファンは〝短距離転移〟でスフィアを避けた。
「残念だったのう」
俺のすぐ横に転移してきたファンだったが、俺はそっくりそのまま言葉を返した。
「残念だったな」
「ッ!?」
ミモちゃんがスフィアを空中で掴み取り、そのまま転移したばかりのファンへ向かって投げた。〝短距離転移〟の弱点その一は転移範囲がその能力名の通り短いことだ。その距離はおよそ五メートル。
「まだだッ!」
背後から迫るスフィアを避けようと再びファンは能力を発動させる。だがここでファンは詰みだ。〝短距離転移〟の弱点その二、連続して二回までしか転移できず、次に発動できるまでのインターバルが存在すること。
この弱点はファンとの空中戦が終わった直後、地上に降りた際に、こぼれ球をわざわざ走って取りにいったことから推察できた。さらにその後、ガクシも同じ能力を使い、二回しか転移しなかったことで確信した。
俺はミモちゃんの投げたスフィアを取り、転移エフェクトが出現した場所めがけて全力で投擲した。転移直後には一〇フレームほどの硬直があるのも分かっている。
故にファンは俺の投げたスフィアを避けることも捕球することもできない。
『プレイヤー・コガネが敵一体を撃破しました』
「ガクシ……仇を……」
ファンが光となって空へと還っていく。これで残るはガクシ一人のみ。
あの状況ならガクシが〝交換転移〟は使えない。使えば自分がアウトになるからな。
そのガクシはといえば、つい今しがた現場へと到着したところだ。
「これで王手だ」
「…………ファンを倒したことは褒めてあげよう。ですが、さっきも言ったはずだ。君達では僕に勝てない」
「その前に言ったはずだ。俺たち二人では負けたことがないってな!」
ビシッとガクシを指差し、言葉を返した俺は漫画の主人公染みててカッコいい!
一度こういう感じで見得を切ってみたかった俺マジ中二病。
「あっ……」
調子に乗った瞬間、バチリと迸った紫電の軌跡が俺の脇をすり抜けていった。
そして俺が片手に持っていたスフィアが、いつの間にかガクシに奪われていた。
――スティール……された?
「くくっ、油断したね。ただでさえ僕に対し無力な君が、スフィアまで取られてしまったら、それはもう蹂躙されるしかないなぁ!!」
ガクシは態度を急変させた、というより溜め込んでいた鬱憤を吐き出すように声を荒げた。煽り耐性ありそうで実はなかったんだな。
「蹂躙開始ィ!!」
超スピードで駆け出したガクシが、俺とミモちゃんの周囲を目まぐるしく疾走する。〝帯電強化〟によって人間の限界を超えた速度を発揮し、その姿を捉えるのは至難だった。
そして俺の後方、わずか三メートル足らずの近距離からガクシがスフィアを投擲してきた。
その瞬間、俺は視界内の仮想キーボードをタタタッとリズム良く弾く。
ガクシの投擲したスフィアは俺の背中に直撃し、リバウンドした後に、アスファルトをころころと転がっていた。
スフィアは確実に俺の操作キャラクターに当たった。その事実を受け止めることを少しだけ疑い、目の前の出来事が夢でも幻でもないことをガクシは確認した。
「やった……ッ! 勝っ……た」




