第37話 イライラする。
ビル群を走り抜け、合流地点まで辿り着くと、そこにはミモちゃんが待っていた。
「さて、どうすっかな」
ガクシはネオンを倒した後、スフィアを確保したが追ってこなかった。その理由は簡単だ。
わざわざ追わなくてもこっちの位置が分かるからだ。
「コガネ、どういうことなの?」
離れた場所にいたミモちゃんには何が起きたのか分からない。
ガクシが使用した能力については、ボイスチャットの内容から察せられただろう。
でもその正体は俺が説明しなければならない。
『コガネ君』
「ッ!?」
俺がミモちゃんにガクシの能力について伝えようとした瞬間、フィールド全体に聞こえるようにオープンのボイスチャットが響き渡った。
「ガクシか」
『勘の良い君のことだ。もう僕の能力に見当がついているんだろう?』
無視してもいいが、俺のはあくまで推測の域を出ていないのも確かだ。向こうから能力をバラしてくれるなら願ったり叶ったりだな。
『ガクシ、お前は……お前の能力は他プレイヤーの能力をコピーする能力』
『流石だね』
『お前は俺をバカにしてんのか。あんな立て続けに能力を見せれば阿呆でも気づくさ。仮に能力が三つ使用できる〝トリプルホルダー〟なんてのが存在したとしても、そんな都合良くファンやネオン、そしてソウスケの能力を持っているわけがない』
ネオンより速くスフィアを取れたのは、〝帯電強化〟とファンの〝短距離転移〟を併用したからだろう。
『だからお前の能力はコピー……いや、それは正確じゃないな。もっとシンプルにバトル参加プレイヤー全員の能力が使えるってところか』
これならあくまでもガクシの能力は一つとしてカウントされる。それにしたって規格外の能力であることは確かだ。レア中のレア、スーパーレアな能力だろうな。
『ふっ、そこまで見抜くとはね。僕の〝完全贋作〟は無敵の能力だ。敵の能力が強ければ強いほどそれがすべて僕の力となる』
無敵って……お前は小学生か。
俺の推測とガクシの言が真実なら、ミモちゃんの〝反響定位〟も使えるはず。だからこの場所もとっくにバレてる。
「思い出したの」
「……?」
ミモちゃんが俺の横で呟いた。一体何を思い出したというのだろうか。
「ガクシとファン……二年前に戦ったことがあるの」
「二年前……まさかアスオンの頃か?」
俺とミモちゃん、そしてソウスケがプレイしていたアーステア・オンライン。そこでガクシ達と戦ったことがあるとミモちゃんは言うのだ。
悪いが俺には記憶が無い。アスオンは人口の多い人気オンラインゲームだったし、何よりプレイ期間が長かった。そんな中で同じギルドのメンバーですら、一部のプレイヤーを除けば今では曖昧にしか覚えていない。
「アスオン時代も同じキャラ名だったのか?」
「字が違うの。〝楽師〟と〝鳳〟だったの」
お、思い……だせねえ!! やっぱり思い出せねえよ!! 普通はこういうところで印象的な場面が頭に浮かんでくるもんだが、マジで何も思い出せない。
そんな心中を覗かれたようなタイミングで、ガクシが過去語りを始めやがった。
『君にとってはただの攻城戦だったかもしれない。だが僕は屈辱だった。君達たった二人に僕のギルドは敗れた……あんな屈辱的な仕打ちを受けたのは初めてだったよ』
おいおい、声色がどんどんドス黒くなってるぜ。こういう面倒くさい手合いがウチのチームにもいた気がするな。誰とはいわないが。
『海外でも名の知れたプロゲーマーを擁する僕のギルド、〝クリムゾン〟はあの事件が元で崩壊してしまった。以来、僕はアスオンを引退した君の行方を追って、様々なゲームを渡り歩いてこのヘッズベルに辿り着いたのさ』
イライラする……イライラする。
『僕がはじめに他の二人を狙ったのは、君たち二人と決着をつけるためだ。アーステアでの借りを、ファンと共に返すために……そして舞台を整った!』
イライラする。
俺は一体何の為にここまで戦ってきたんだ?
毎日毎日、両親が起こしてしまった交通事故の悪夢を見て、犠牲者の怨嗟の声が心の締め付けていくあの感覚に苛まれる。
イライラする。
いまさらゲームを楽しめなんて事は、俺の口から言えたもんじゃねえけど――。
イライラする。
そして俺の中で何かがブッツりと切れて何かが弾けた。
『いい加減にしろォ!!』
『え?』
『べらべらと御託並べやがって。お前は自分が負けた相手にいちいち因縁つけて回ってるのか? くだらねえんだよ。お前の復讐劇のために、俺の目的を邪魔するってんなら――』
ぎしりと奥歯を噛み締め、溜めた苛立ちと憤怒をフィールドに轟かせた。
『そのスカした顔面にスフィア叩き込んで、ぶっ飛ばしてやるよォ!!』
「コガネ、キレすぎワロタの」
『これまでプレイしてきたゲームで、〝俺とミモちゃんが組んで〟戦った時の勝率は一〇〇パーセント。悪いが天地がひっくり返っても、お前らに勝ち目はねえ!!』
『知ってるさ……だからこそ、このバトルに意味がある!!』
ガクシの言葉を合図に、最終対決の火蓋が切って落とされた。
「コガネ、いま発動させた〝反響定位〟で残り使用回数は二回なの」
「十分だ」
フィールドマップも全て把握し準備はこれで整った。あとはガクシ達を迎え撃つだけだ。
「北東、右方向に一人、逆から一人接近中なの」
「どっちが誰かを悟らせないように走る速度を合わせてるな」
そしてスフィアを持っているのも、どちらかは分からない。〝投擲力〟の弱いファンではなく、ガクシが持っていると考えられるが……と、これは考えても意味がないのでアタリを付けるしかない。
「俺の勘では左がガクシ、右がファン。んでスフィアはガクシが持っている」
「じゃあ逆かな」
「信用ゼロ!」
「コガネの山勘が当たった試しないの」
悔しいがミモちゃんの言う通りで、逆にミモちゃんの勘はよく当たる。というわけでここは素直に従っておこう。
「そんじゃまぁ、いきますか」
「ほい」




