第34話 最速の勝負
「こ……このフィールドは」
準決勝でもそうだったが、今回もまた一風変わったフィールドだった。
フィールド名は〝未来都市シンジュク〟。
都庁を中心に半径五キロメートル四方を壁に囲まれた、現実世界の新宿が再現されたフィールド。従来の市街地フィールドに似ているが、これまた一風変わったギミックが見られる。
「く、車が飛んでますね」
「移動オブジェクトだな。昔のSF映画なんかでよく出てくるやつだ」
レトロゲーの移動ブロックの要領で、キャラクターを運んでくれるフィールドギミック。
キャラクターの走力よりも車の移動スピードの方が速い。空中での高速戦闘が主体となる分、跳びながら移動ポイントを変えなければ狙い撃ちされる。高い操作技術が必要とされる上級者向けフィールドってところか。
「こうなると敵と接触しなきゃ使えない、ネオンとソウスケのコンボは難しいな」
「えぇ、私の〝帯電強化〟は走らなければ充電できませんし、飛び交う車の上ではそれができませんね」
触れるために不用意に跳び込んでいけば空中で落とされるのは明々白々。
「だったら無理に空中戦をしなければよくないかい?」
ソウスケの意見は見当ハズレもいいとこだ。
「頭上ってのは人間の死角だ。それにVRゲームじゃ視界も現実よりさらに制限される。地上に張り付いていたら、まず勝ち目はないぞ」
〈バトルスタート一〇秒前……スフィアの投下を開始します〉
どこからか現れた審判ロボのベルがバトル開始のカウントダウンを告げる。
同時に俺たち全員へ向けたオープンボイスチャットがフィールド内に響き渡った。
『アッセンブル4thの諸君、この決勝戦……良いバトルにしよう!』
それは他でもない、敵チーム〝赤き制裁〟のリーダー・ガクシの声だった。相変わらず爽やかでいけ好かない野郎だ。
「返事しないんですか?」
「相手のペースに合わせる必要はない。良いバトルにするつもりもない」
俺の頭にあるのはただ勝つことのみだった。
〈ヴェット・シュピール(戦闘開始)!〉
上空から飛来するスフィアを視界に捉えた直後、例によってミモちゃんをその場に残し、落下地点へ全力で駆け出した。
しかしその直後、ヴンダーを発動させたミモちゃんからボイスチャットが入る。
『コガネ、変なの』
『どうした!?』
『敵が……二人しか視えないの』
発動された〝反響定位〟の情報が俺のマップにも共有される。すると、そこには俺たち四人以外の赤いマーカー、つまり敵の位置が示された光点が表示されていた。
「二人だけ……? そんな」
マップを確認したネオンが動揺するのも無理はない。ルールでは四人一組でしか参加できないとされている。にも関わらず、敵は二人しかマップには表示されていない。
考えられるのは二つ。
一つは本当に二人だけで参加している。債務者ではないゲスト参加のガクシ達が、運営側にそういう条件を出したのもかしれない。
そしてもう一つは、ミモちゃんのような索敵系の能力者が捉えられないジャミング能力を有したプレイヤーがいるのかもしれない。
「敵を探れる能力がある以上、それに対抗する能力があっても不思議じゃない」
ネオンの平静を取り戻させるために言ったが、実のところ俺は前者の可能性の方が高いと踏んでいた。根拠はいくつかある。
まず何故マップに表示されない敵が二人だけなのかという点。
索敵を掻い潜る能力者が二人いるとは考えづらいし、一人の能力だとするなら二人分しか消せないのは中途半端だ。人数制限のある能力だという可能性も勿論あるが、それこそ半端な能力すぎる。
マップに表示されないだけで姿が視える能力だとすれば、発見された時点で意味を成さなくなる。
ネオンと同タイプの常時発動型ヴンダーに属するなら、あまりにも脆弱すぎる能力だ。
そんなアドバンテージの少ない能力者を、あのガクシがチームに入れるとは考えられない。
導き出される結論は、やっぱり初めから敵は二人だけというケース――。
「とにかく今はスフィアを先に取ることに専念しよう!」
「おっ、珍しくまともなこと言うなソウスケ」
「珍しくは余計だろぉ!」
茶化してはみたがソウスケの言う通り、まずはスフィアの確保が先決だ。
このヘッズベルというゲームは、最初にスフィアを取った側の勝率がグンと上がる。バトル開始時の状況は一見すると五分の勝負だが、ものの一分後にはその天秤は大きく傾く。
だから今この瞬間に全力を尽くす。
俺が試合直前にステータスを振り直したのはこの瞬間の為だ。
俊敏性に全振りした俺の走力は、赤き制裁のサブマスターであるファンと同等。ネオンの
〝帯電強化〟状態ほど速くはないが、デフォルト状態ではゲーム中最速を誇るスピード。
――見えた!
二〇秒ほどトップスピードで駆け抜けた交差点の中央に、土煙が上がっているスフィア落下地点が視界に入った。
俺のスピードには付いてこれないネオンとソウスケはまだ遥か後方。だが問題ねえ。
どの道、今回に限っていえば二人はバックアップに回ってもらう筋書きだ。
『コガネ、来てるの』
落下地点に到達寸前、ミモちゃんから通信が入った。
『わかってるッ!』
燃えるような赤いツインテールをなびかせ、予想通りファンが逆側から走ってきていた。
バトル開始と同時に突っ走ってきたのは奴も同じ。
「取らせるかよ!」
「こっちの台詞じゃ!」
電光石火の速度で、スフィアの落下地点を俺とファンが交錯し駆け抜けた。
アスファルトに焦げ痕の軌跡を残しながらブレーキを掛ける。手にしたスフィアを握り締めながら俺はほくそ笑んだ。
「へっ、あっぶねぇ。ギリギリ間に合ったぜ」
「ぐっ」
ファンとは確かにステータス上では同じ速さだった。ただしこの落下地点までの距離には僅かに差があった。ここが何の障害物もない平原の様なフィールドだったなら、正に互角の勝負だっただろう。しかしこの新宿が再現されたフィールドは非対称な作りになっている。
だから地形的にほんの僅かだが俺の方が有利だった。
「むきーッ!」
地団駄を踏み悔しがるファンを横目に俺はマップを確認する。相変わらず敵は二人分しか表示されていないし、ガクシだと思われる敵のマーカーは開始地点から動いていない。
俺の仮説が正しければ、敵チームはガクシとファンだけ。だから今、この場でファンを始末できれば勝ったも同然!
「ここは一時退却じゃ!」
「逃がすか!」
俺もファンも〝俊敏性〟に特化させたステータス。
つまり投擲力〟と〝捕球力〟は初期値――。
隙を突いて至近距離からショットを放てれば倒せる。
ネオンとソウスケは速さについてこれない以上、俺がファンをやるしかない!




