第33話 そして、決勝戦が始まる
試合後、本城さんが部屋に入ってきた。
「皆様、決勝戦進出おめでとうございます」
「どうも」
先の試合の結果に不満が残っているのか、音遠はいまだに不機嫌な様相を呈している。こんな状態で本当に大丈夫なんかコイツ。
「でも、もう決勝だなんて何か実感ないよね」
そう言いながら宗介は肩を竦めた。
「まぁそもそも参加チーム自体が少ない上にシードだったしな」
「決勝戦は一時間後になります。それまではこの部屋でご自由におくつろぎください」
本城さんは俺達にそう告げ、再び部屋を出て行った。
そして訪れたしばしの休憩時間。
「つっても別にすることねえよな……」
「決勝戦の作戦とか練らなくていいのかい?」
「相手の能力も分からないのに立てられるかよ」
やはり宗介は不安なのだろう。なんたって決勝はあのガクシ率いる〝赤き制裁〟だ。奴等の強さはアリーナの試合で体験済み。オマケにマスターのガクシとサブマスターのファン、二人は能力も出さずに俺らと互角以上だった。
まぁファンはアホの子っぽいのでそこまで脅威ではないが、ガクシについてはその力を計り兼ねている。
「……どこかで会った気がするの」
鞄から取り出したスナック菓子をポリポリ食べながら、ミモちゃんがそんな言葉を呟いた。
いつも無表情な彼女の顔はどこか不機嫌な様相を呈している。
「会ったって、ガクシのことか?」
「べぼどぼでばっだばはおぼいばねないも(でもどこで会ったかは思い出せないの)」
「食べながら喋るんじゃありません」
多分、別のオンラインゲームでってことだろう。だとしたら俺も会ったことがあるのかもしれん。あんなキザったらしい奴いたかなぁ。
「ガクシさん達の能力もそうですが、新しく加入する二人も気になりますね。きっと前よりも手強いメンバーを揃えてくるはずです」
「……どうだろうな」
およそ一時間後、いよいよ決勝戦が始まる時間がやってきた。
時刻はすでに二三時五〇分。日付が変わる一〇分後に試合が開始される。
俺達はそれぞれの個室へと入り、ゲーム内の待機室へと移動する。
柄にも無く心臓が早鐘を打っているのが自分でも分かるな。
この試合に勝てば俺の望みが叶う。期待と不安が入り混じり、さっさと試合を始めて終わらせたい焦燥感に駆られている。
「何はともあれ、やるしかない」
サイバースペースを抜けて待機室の扉を開くと、そこにはネオン、ミモちゃん、ソウスケの三人が待っていた。
「遅かったじゃないか。もうすぐ試合が始まるってのに」
「すまん、少しステータスをイジってたもんでな」
俺はキャラクターのステータスを振り直した。
この決勝のバトルにおいて、少しでも勝率を上げるためには必要なことだ。
「そ……そのステータスは本気なのかい!?」
俺の能力値を確認したソウスケが驚きのあまり身を仰け反らせた。
ネオンに関しては閉口したまま固まっている。そう、普通に考えれば俺の振り直したステータスは、自殺行為に等しいものだからだ。しかしそんなことは俺自身が百も承知。
だが俺は逆にこの戦法こそが最善だと確信していた。
「本気と書いてマジと読むってやつだ」
俺があえて事前にソウスケやネオンに話さなかったのは、一〇〇パーセント反対されることが明白だったし、何より俺の意図を知れば、嘘が下手な二人からそれらが露呈する可能性があった。悪いが二人にはまだそのことを伝える事はできない。
ただミモちゃんだけは、説明するまでもなく理解してくれていた。
それが分かるのは彼女もステータスを振り直していたからだ。
「やっぱり……そうすると思ったの」
「流石、俺のベストパートナーだぜ」
この決勝戦の鍵を握るのは、ミモちゃんだな。
俺とミモちゃんは握った拳同士を突き合わせる。これぞ正しく阿吽の呼吸というやつだ。
「ちょっ! 本当に本気なんですか!?」
我に返ったネオンがすがるように迫ってきたが、先ほどと同じ言葉で俺は返答した。
まったく理解できずに不安を募らせるネオンをよそに、待機室内にはフィールドへと転送が開始されるアナウンスが始まった。
〈バトル開始二分前。プレイヤーをバトルフィールドへ転送します〉




