第31話 舐めプ許すまじ(なの)
「これからどうするんだい?」
「まずは能力の割れたさっきの二人を仕留める」
他の二人は能力が不明なので後回しだ。まぁ邪魔してくるんだろうが、スフィアさえ確保し続けていれば問題はない。
「スフィアが追加される前に終わらせたいところですね」
「残り五分足らずか、結構ギリギリだな」
俺は各々に作戦を伝え、まずはトキをターゲットに据えた。キャラネームが分かっていて、ある条件を満たせれば怖い相手じゃない。その鍵を握るのはネオンと宗介だ。
すでにミモちゃんの能力で敵のいる位置は判明している。俺達のいる場所から遠ざかっていく二つの光点で、障害物となる壁を無視して逃げている方がトキだ。
「暗闇の方は基本無視な」
あの能力は確かに厄介だが、時間制限があるようだし、攻撃力はないから問題ない。
「さぁ、反撃開始だ」
走り出したネオンは残っていた電力を使い光速で逃げる敵を追いかける。スピードはネオンの方が圧倒的に速い。すぐにトキの行く先に回りこんだのがマップを見て分かった。
「捉えました!」
二つの光点が重なった瞬間にボイスチャットからネオンの声が聞こえた。敵の透過と暗闇能力もエグいが、こっちはこっちでそれを上回る凶悪なコンボ攻撃がある。
「宗介!」
「任してくれたまえ! 〝交換転移〟!」
宗介の能力である〝交換転移〟の発動条件は、敵と味方のどちらを転移させるかで条件が異なる。
味方はキャラネームが分かっているだけで発動できるが、敵の場合は味方の誰かが敵に触れ、対象のキャラネームを記憶する必要があった。だが光速移動ができるネオンがいれば、それはそう難しいことじゃあない。
「え? うっそ! わぁ――ッ!?」
宗介のいた位置に転移してきたトキは驚きの声をあげていた。
「あらよっと!」
「いでっ!」
そのまま俺は手にしていたスフィアを彼女の頭に投げつけた。このコンボを初見で回避できる奴はまずいないだろうな。
『プレイヤー・コガネが敵一体を撃破しました』
ちなみにこのコンボを前回の赤き制裁戦で使わなかったのは、対策されることを恐れたからだ。だが他の試合が観戦できないこの大会では隠す必要はない。正直、ネオンを敵全員と接触させれば、どんな相手にも勝てるチート染みた能力。ただし〝交換転移〟は消費WPが多いので、一試合に二回までしか使えないのが弱点だな。
「これで四対三」
このリードを守りながら逃げ切る、という考え方は危険な臭いがプンプンするぜ。こと対戦ゲームにおいてタイムアップ勝ちを狙うのは、残り時間から逃げ切れる選択肢を持っており、且つその逆算が可能でなければならない。
思考停止状態で逃げ切ることばかり考えていると、往々にして逆転劇というドラマを生む結果になる。負ければ人生終了のお報せなのだ。ともなれば読んで字の如く、敵も死に物狂いでくるだろう。
そう、死に物狂いでくる……そんな相手に手を下すのは――。
「コガネ……」
ミモちゃんが俺の袖を掴み、意思を確認するように見据えていた。僅かに浮かんだ俺の気の迷いを見透かした彼女の瞳が訴えかけてくる。いまさら後戻りなどできないのだと。
「わかってる……わかってるよ。ミモちゃん」
ゲームに対しての真摯さにおいて、この中でミモちゃん以上のプレイヤーはおそらくいないだろう。それはネオンのような正義心とはまた違うものだ。
リアルとゲームの境界線が曖昧だとか、そんな犯罪動機の理由付けをするような陳腐なレベルの話ではない。ミモちゃんの思考回路はゲーマーとしての矜持を物語り、およそ女子小学生とは思えない域にまで到達している。
樺山三森はかく語りき。
――舐めプ許すまじ(なの)。
舐めたプレイング、つまりどんな理由があろうと勝負の舞台に立った者は全力で戦う義務があり、臨んだ勝負の結果は個人が負うべきモノでなければならない。
彼女の心の言葉を代弁し、要約すると「手を抜いたらコガネとは絶交なの」だ。
それは何としても避けねばならない。
何故ならミモちゃんは将来的に俺の嫁となるのだからなぁ! 今はまだ不思議系きゃわたん星人としてマスコット化しているだけだが、あと七年、いや五年もすれば理想的な無口の文系美少女に進化すること請け合いである。
しかも中身は廃人ゲーマーというギャップのオマケ付。
「何を想像しているのか知りませんが、気持ち悪い声を洩らさないように。耳が不快です」
「さ、作戦を思いついただけだし!」
俺はネオンのゴミを見るような視線から逃れるように前に歩き出す。
「それで作戦というのは?」
「敵を一網打尽にするナイスな作戦だ」
その後、手順を説明し終えた俺を見る二人の目は微妙なものだった。
ネオンは明らかに不満そうだし、宗介にいたっては頭を抱えてブツブツと呟き続けている。
「コガネ君、そんな最低な作戦をこの私が許すと思いますか?」
「許す許さないの問題じゃあない。やるんだよ」
「しかしッ! そんな人の弱みにつけ込むような真似は――」
ネオンの言いたい事は分かるが、勝つ為の最善策を取る。
「約束は守る。賞金から払えば文句はないだろう。なぁ、宗介?」
「確かにルール上は問題ないだろうけど、僕も気が乗らないなぁ」
「じゃあ負けて地下で一生強制労働するか?」
俺の言葉に口をつぐんだ宗介を一瞥し、ネオンが言うところの最低な作戦に取り掛かる。
ミモちゃんが〝反響定位〟を発動させた。まずは敵の位置を知らなければならない。
「三人とも固まってるの」
「俺らと同じ様に作戦会議中だろう。ネオン、準備はいいか?」
苦虫を噛み潰したような表情のまま、ネオンは仕方なくといった風に頷いた。しかしだな、この作戦で一番嫌な役をしなくちゃならないのは俺なんだぞ。
ネオンは敵の固まっている場所に向かって走り出した。スフィアは俺が手に持ち、宗介とミモちゃんも今いる場所で待機。この作戦が上手くいけば、まだ姿を現していない敵二人もまとめて倒せる。
どんな能力を持っていても関係なく。
俺は正義のヒーローなんかじゃない。どこにでもいるちっぽけな人間だ。
罪悪感は確かにある。だがそれでも、ここで負けるわけにはいかない――。




