第30話 下水道のくっせえ臭いまで再現されていなくて助かった
〈バトルフィールドへ転送します〉
準決勝が始まり、俺たちは待機室から一斉にバトルフィールドへ転送された。
「ここは……」
「どうやら地下の下水道か何かみたいですね」
俺たちが転送された先は、これまでの開けたフィールドとはまるで違う、空の見えない空間だった。迷路のように入り組んだ道が続き、道の中央には水が流れている。
「こんなフィールドは僕も見たことがないね」
宗介がそう言いながらマップを開いた。おそらく大会用に作られた特殊なフィールドなのだろう。ここでテストして後で実装するつもりかもしれない。これじゃまるで俺達がモルモットみたいじゃねえか。
「でもこれはミモちゃんの能力がある分、こっちが有利なフィールドだな」
とはいえ敵の能力も分からないのだから、慎重に動く必要がある。ミモちゃんと同じ索敵系の能力者がいるかもしれない。
〈――ヴェット・シュピール(戦闘開始)!〉
戦闘開始の合図後、しばらくするとスフィアがフィールド上に落下した爆音が轟いた。いつもならある程度の落下予測地点が分かるが、天井付きの閉鎖された場所ではそれが分からない。まずはお互いに、スフィア探しからスタートといったところか。
「コガネ」
「あぁ、とりあえず敵の配置だけ先に確認しておこう。頼む、ミモちゃん」
セオリー通り、ミモちゃんが〝反響定位〟を発動させる。
全員のマップに表示された敵の位置は、現在地から北東に一キロほどの場所に固まっている。スフィアが落下するポイントは、これまでの経験からフィールドの中央付近である可能性が高い。敵チームもそれぐらい分かっているだろう。
「コガネ君、急ぎましょう。このフィールドは、先にスフィアを確保した側が有利です」
ネオンの言う通り、こんな狭い場所じゃスフィアを避けることは難しい。先にスフィアを確保して、待ち伏せをしながら戦えばルーズボール(こぼれ球)も取り易いしな。
俺達はマップを確認しながらフィールドの中央を目指した。
迷路のようになっているとはいえ、マップには道がどこへ繋がっているか視認できる。これは敵も同じだろうから鉢合わせをする可能性が高い。
「ここらで二手に別れるぞ。ネオンは少し遠回りして〝帯電強化〟を溜めておけ」
「わかりました!」
俺とミモちゃん、そして宗介は最短距離で中央を目指し、ネオンは単独行動で回り込む。ネオンの能力は連携にはあまり向いていないが、それを補って余りあるポテンシャルを秘めている。正直な話、俺もあんなカッコいい能力が欲しかったですわ。
――俺のは使い勝手はいいけど地味なんだよなぁ。
「コガネ君! スフィアがあったぞ!」
地上の光が射し込む一画に、崩れた瓦礫とともにスフィアが転がっていた。
これで先に確保できる――。そう思った瞬間だった。
「なっ!?」
細長い通路の壁から飛び出してきたのは敵チームの一人だった。壁を破壊してきたのではなく、明らかにすり抜けてきた。
「透過能力か!」
敵のキャラネームは〈トキ〉。全身黒の忍装束を身にまとった少女だった。
「スフィアは頂くでござるよ!」
「くっそ!」
トキはそのままスフィアを拾い上げ再び壁をすり抜けていった。スフィアを持ったまま壁を抜けられるとは良い能力じゃねえか。
「ミモちゃん!」
「もうやってるの」
トキを追うため、ミモちゃんはすかさず〝反響定位〟を発動させていた。そしてメンバー全員にその位置情報がマップに共有される。
一番近いのは別のルートにいるネオンだ。攻撃を受ける前に情報を伝えておく必要がある。
『ネオン、そっちに壁抜けができる奴いったぞ! 悪いがスフィアは先に取られた!』
『聞こえてましたから大丈夫です!』
とはいえサポートには回らなければならない。
俺は全速力で迷路を駆け抜けトキの後を追った。
それにしても、誂えたように便利な能力を持ってやがる。
この閉鎖的なフィールドで、障害物を無視して移動できるのは大きなアドバンテージだ。
しかも俺達の意表を突いたにも関わらず、無理に攻めてこなかったのは数的不利を理解していたから。
ムカつくぐらい賢明なプレイヤーだ。
『最悪の場合は〝帯電強化〟を使ってでも逃げろよ』
『えぇ』
走ること二分。角を曲がったところの通路でネオンを見つけた。
「っ!」
ネオンが俺に気がついた直後、彼女は壁からスルリと抜けてきたトキに背後を取られていた。
「ネオン後ろだ!」
「もらったでござるッ!」
三メートルもない至近距離から投擲されたスフィア。普通なら回避不能。だがネオンはここまで走り溜めていた〝帯電強化〟を発動させ、その場から消え失せた。
「消えた!?」
あまりの速さに標的を見失ったトキがその場で固まる。
そして壁に弾かれたスフィアをそのまま捕球したネオン。
トキは虚を突かれたせいでまだ動けずにいる。そのまま仕留められる好機だった。
その空隙を埋めたのは不意の暗闇だった。まるで自宅のブレーカーが落ちた時のように視界に映るすべてが闇の中に溶け、俺を含めた味方全員の思考が寸断された。
「なっ!」
一瞬、何が起きたのか理解できなかった。ゲームのバグかと勘違いしたほどだ。それほどまでに視界は真っ暗な闇に包まれている。
「暗い暗い暗い! 何がどうなってんのさ!」
横にいる宗介がくっそやかましい。
どうやら俺の視界だけが塞がれているわけじゃないらしい。つまり導き出される答えは一つ。
「敵の能力か!!」
「ご明察! これが小生のヴンダー〝暗転幕劇〟!」
どこからか敵の声が聞こえたが、暗闇能力のせいで位置やキャラネームがわからない。
「コガネ君!」
「落ち着け、スフィアはお前がまだ持ってるんだろ」
そうだ。確かにトキの壁抜けと、もう一人の暗闇コンボは強力だが、それはあくまで攻勢に回った場合に限る。トキを助けるために能力を使ったんだろうが、そいつは失策だったな。
数秒後、能力の時間制限が切れたらしく暗闇が晴れた。
「やはりトキには逃げられたか」
「ごめんなさい」
「いや……闇雲に投げてスフィアを奪われる方が危ねえから、ネオンの判断は正しいぞ」
まだ試合が始まって五分足らず。敵の能力も二人分は把握できたし断然有利だ。
その後、ミモちゃんが集合し四人が揃った。




