第29話 早すぎる準決勝
「……なんじゃこりゃ」
こんな不公平なトーナメントがあってたまるか。これでは俺の計画が台無しだ。
ガクシ達が参加してくることは分かっていた。だからこそ途中のバトルを観て対策を練るつもりでいたのに、これじゃあ完全に相手の手の内を知らず、ガチで戦わなければならないじゃないか。
「この組み合わせはどういうことでしょうか?」
音遠が俺の焦りを代弁するように、本城さんへ質問を投げかける。
「どう、と言いますと?」
「明らかに公平性を欠いているように見えます」
「厳正な審査の結果です」
こんのアマ、ぬけぬけと嘘をつきやがる。俺が目を細めて疑惑と憤慨の視線を本城さんへ送りつけていると、彼女がこちらを一瞥して言葉を重ねた。
「組み合わせに関してましては、会長からメッセージを預かっております。お聞きになられますか?」
「……お父様から?」
『知っての通り、この大会では多額の借金を抱えた債務者達が参加する。しかし彼らの借金の総額はチーム毎に異なる。故にその額に応じたハードルを用意せねばならぬ。それが厳正な審査の結果だ。以上』
タブレットに映し出された音遠の父親はそう語り、まるで音遠が最初からこの疑問を問いかけることを知っていたかのようだった。いや、実際に予測していたからこそメッセージを残していたのだろう。
「お前の親父さん、相当なゲーム好きだな」
「どうしてそう思うのですか?」
「赤き制裁のガクシ達。あいつらも借金なんて無いだろうし、俺達と戦わせる為に呼んだ刺客ってところだろ」
そもそも裏ヘッズベルは、古代ローマのグラディエーターさながら、債務者同士を戦わせるための催し物みたいなものだ。そんな素人集団に騎士が混じってもまず波乱など期待できない。ならばどうするか――、騎士には騎士をぶつける以外ない。そうしなければ観客の射幸心を煽ることが出来ないからだ。
「これは明らかにフェアな勝負じゃないよ。辞退すべきじゃないのか?」
俺の話を聞いていた宗介がさすがにビビリだした。だが無理もない。
「いや勝負自体はフェアと呼べなくもない。俺達を本当に勝たせたくないだけなら他に方法はいくらでもある。にも関わらず相手が手強いだけ、つまり〝難易度〟が高いだけだ。それに俺たちは第二シードだ。手っ取り早く優勝を狙えるポジションにいるのは逆に有難いぜ」
音遠の親父さんは根っからのエンターテイナーらしい。客にどれだけ盛り上がる試合を見せられるか。それだけを考えた結果がこれだったようだ。
「し、しかしだね……」
「ごちゃごちゃ言っても、今更クーリングオフなんて出来るわけねえだろ」
少しは妹を見習え。こんな状況においてもミモちゃんは眉一つ動かさず、何故か俺の股間を凝視しているぞ。えっ、何で?
「コガネ、チャック開いてるの」
「ふぁ――ッ!?」
少しは兄を見習って、緊張感持ってね!
「あの……そろそろ時間ですので、準備の方をして頂いてもよろしいでしょうか?」
本城さんが冷めた表情で俺達を見ていた。もう何か恥ずかしくて死にたくなった。
俺達は用意された席に着き、各々のPCからヘッズベルにログインを始める。
「皆様、バトルは三〇分後に開始されますので、ゲーム内の待機ルームでお待ちください。それでは私は一旦失礼させていただきます」
本城さんはそう言い別室へと戻っていった。
最初から他チームのバトルは観戦できなかったのか……対策を立てるのは諦めるしかないな。こうなるともう対戦相手が決まるのを待つ以外にすることがねえ。
「桜庭君……」
「何だ?」
「必ず、勝ちましょう」
「ったりめーだ」
そして以降は誰も口を開かないまま、PCモニターに対戦チームが表示され、早すぎる準決勝の幕が上がろうとしていた。
〈準決勝・『アッセンブル4th』対『ヤミイズル刻』〉




