第27話 墓参り
俺は裏ヘッズベルの大会が始まる一週間前、墓地に来ていた。
「親父、母さん……」
もしも大会で負ければ、この場所へは二度と来られなくなる。もちろん負けるつもりはないけど、絶対に勝てる保証がない事も理解している。
「馬鹿なことしてんのかな? 俺」
答えてくれるはずのない両親が眠る墓石に向かって、俺はそんなことを呟いていた。
ちょうどそんな時、一人のスーツを着た男性が俺の方に近づいてくる。
手には百合の花束を抱えていた。
「奇遇だね」
何で音遠の親父さんが此処に。
俺は心の中でそう呟きながら、訝るような視線を向ける。
「……」
「私と君のお父さんのこと、訊きたいかい?」
「別に。親父の交友関係なんて興味ないし、俺は俺のためにヘッズベルで優勝して、賞金を貰えればそれでいい」
「そうか」
音遠の親父さんは小さく溜め息を吐き漏らした。
「じゃあこれは私の独り言だ。尊敬していた先輩の墓前でする、寂しい男の独り言だ」
言いながら男は墓石に花束を添え、穏やかな微笑みを湛えながら両手を合わせた。
「ある若い男はゲームが好きだった。幼い頃から好きで、それさえあれば他に何も要らないと思えるほど熱中していた。やがて男は夢を持つようになった。こんな素晴らしいゲームを自分も創ってみたい、と。そして大学を卒業し、親の反対を押し切り、ゲーム会社に就職した男はそこで、桜庭銀次という先輩と出会った」
「……っ」
俺の親父の名前だ。
「天才プログラマーと評され、あらゆるゲームに精通したプロフェッショナルだった先輩を、男は心から尊敬していた。崇拝していたと言ってもいい。そして先輩はヘッズベルの原型となるゲームエンジンを作り上げ、VRゲームが再び注目されだした」
VRゲームは二〇一〇年代に物珍しさから脚光を浴びたものの、今ほどHMDの小型化ができず、多くの人が3D酔いで苦しむような欠陥品だった。
そして対応したソフトウェアの数も少なく、何より開発コストに見合うほど需要が無かったという理由から衰退していった代物だ。
だけどそんな時代に、俺の親父はVRゲーム開発に熱意をかけて挑んでいた。
『コガネ、また頼まれてくれるか?』
『やだよ。どうせすぐ気持ち悪くなるもん』
『まぁまぁそう言わずに。色々と改善したんだ』
およそ一〇年前、当時まだ幼かった俺は、親父の作っているゲームのデバッガーみたいなことをやらされていた。幼稚園児を実験台にするとか、俺の親父も大概なゲーム廃人だったな。
「私はね……先輩を尊敬していたと同時に妬んでもいた。彼は私と違い、とても自由な人だった。財閥の跡取りとして生まれ、やがては家督を継がなければならなかった私は、ゲーム創りという夢を諦めざるを得ない境遇だったからね」
話長いなぁ。結局なにが言いたいんだろう。
「だが彼は死んだ。故に私は、私のやり方でその遺志を継ぐことを決めたのだ」
「おっさん、寝言を言うのも大概にしろよ。親父は確かに仕事馬鹿で、俺や母さんに迷惑ばっか掛けてたよ。でもな――」
世間一般から見れば確かにダメな親父だった。
残業ばっかでほとんど家に帰らないし、たまに帰ってきても風呂を浴びて寝るだけ。
そんでもってたまに家族サービスしたかと思えば、事故って大勢の人を巻き込んだ挙句にあの世行きだ。
「親父のゲームはこんな事の為に作られたんじゃねえ!」
「……ならばその正しさを、優勝という形で私に示したまえ」
そう言い残して、音遠の親父さんは去っていった。
「言われなくても勝つさ。絶対にな」




