第26話 ノーゲーム
「コガネ君!」
待機ルームでは、バトルが終わるのを待っていたネオンたち三人がいた。相手がチートを使っていた等、色々な言い訳はできるとはいえ、負けは負けであるからして、皆と顔を合わせづらい……。なので開口一番に謝罪の言葉を口にすることで、溜飲を下げておこう。
「……すまん、負けちまった」
「は? 何を言ってるんですか?」
「な、何って、だから負けちまった謝罪をだな」
ネオンがキョトンとした顔で俺を見ている。ミモちゃんはいつもと変わらぬ無表情。
宗介は前髪をファッサーしてるが、こいつはどうでもいいや。
一体、何が起きたのかと考えていた矢先、ゲーム内にアナウンスが流れ始めた。
『これより10分後、緊急メンテナンスを行うため、全てのバトルを強制終了させていただきました。プレイ中の皆様にはご迷惑をお掛けして申し訳ございませんが、早急にログアウトをして頂くよう宜しくお願い致します』
「き、緊急メンテ……?」
「残念ですが、ノーゲームになってしまいましたね」
なるほど、俺がガクシからアウトになる直前に強制転移で戻されたのか。とはいえ、あの状況じゃ負けは確定していたも同然だ。最初は本気で勝つつもりでいた分、それなりに精神的ダメージがある。これが裏大会の本戦だったらと思えば、背筋が凍りつくってもんだ。
俺たちが待機ルームから出て、アリーナの広場へと向かうと、そこには〝赤き制裁〟の面々が待ち受けていた。
「……」
俺があからさまに不機嫌な表情でいると、ガクシが爽やかな笑顔で握手を求めてきた。
「やっぱり君は強かった。ありがとう、そして本当に申し訳なかった」
「は?」
ガクシは俺の手を取り、半ば無理やりに握手を交わした。そして、後ろを向くとアリーナ中に轟くほどデカい声を張り上げた。
「カカオ!! カブラギ!! 君たち二人は今すぐに〈くりむぞん☆〉から除名するッ!! 二度と僕の前に顔を出すな!!」
「ひっ……」
「ぐ……」
カカオとカブラギの二人は、放たれたガクシの怒声に言い返す言葉もなく、その場をそそくさと去っていった。俺もガクシの意外な言動に、正直ちょっとビビってしまった。
「お、おい」
「すまなかった。彼ら二人は以前にプレイしていたゲームの友人から紹介されたんだが、まさかチート行為をするような連中だったなんて……」
「どうやら盗聴のチートを使って、二人で情報を共有していたようじゃな。嘆かわしい」
ガクシの言葉を補足するようにファンが愚痴を漏らした。
まぁ、他のチームのいざこざなんかは正直どうでもいい。チートする奴は許せんが、俺がいま不機嫌なのはそんな事が理由ではないのだ。
「今度は是非、真剣勝負の場で」
「こちらこそ凄く勉強になりました。また機会があれば宜しくお願いします」
ネオンが礼儀正しくガクシの礼に応えていた。俺が思うに、ネオンは俺たちが受けた屈辱について何も理解していない。能天気ここに極まれりだ。
「ほら、もう時間だからさっさとログアウトしとけ」
俺がネオンの肩を掴んでその場から下がらせる。
「え、えぇ……では、ガクシさん、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
ネオンの後に続いてミモちゃん、ソウスケ、そしてファンもログアウトしていき、ガクシと俺だけがアリーナに残っていた。
「お前は……」
俺が言い掛けた時だった。
眼鏡の位置をカチャリと直したガクシが、薄く笑みを浮かべ、そして俺の言葉を遮るようにして言い放った。
「本戦……楽しみにしてますよ」
「――ッ!?」
まるで悪い夢を見ているようだった。
HMDを外して現実世界へと戻ってきた俺は、苛立ちのあまりデスクを拳で叩いた。
「くっそ! あの野郎……コケにしやがって」
「ど、どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもねえよ。あいつ……ガクシは俺らと同じ裏大会の参加者だ」
「そんな、まさか……」
おそらくファンも一緒に出てくるだろう。
どこで知ったのかは分からない。だが絶対にあいつは俺たちの壁となる存在だ。
実は言うと舐めていた部分がある。裏大会といえば激戦が想像されるかもしれないが、所詮は多額の借金を抱えた債務者の集まり。そんな連中がたかだか数ヶ月プレイしたところで、烏合の衆であることに変わりはない。そうタカを括っていた。だがガクシ達のような連中が参加者にいるというなら話は別だ。
「でも今日だって惜しかったじゃないですか。もっと連携を磨けばきっと――」
「馬鹿野郎、お前は本当に気づいてなかったのかよ」
不貞腐れた態度で俺がそう言っても、音遠はまだ理解していなかった。見兼ねたミモちゃんが横から口を挟むようにボソっと呟く。
「敵は誰もヴンダー使ってなかったの」
「つまり舐められてたんだよ! 使うまでもねえってな!!」
しかも俺らの手の内はほぼ相手にバレた。今から別の能力に変えるのはリスクも高いし、連携もステータスも見直さなきゃなんねえ。本戦が始まる前から崖っぷちってわけだ。
しかし、それでも諦めるわけにはいかない――。




