第25話 決着?
最初に違和感を覚えたのは、カブラギが遠く離れたミモちゃんを狙ったことだった。普通に考えればミモちゃんと同じ索敵系の能力を持ち、その位置を看破して攻撃させたのだと思っただろう。しかし、俺はもう一つの違和感が確信に変わった時、チート行為を疑い始めた。
「……何を証拠に」
「証拠を立証することは不可能じゃないが、お前が俺の策に嵌まった時点で、それが証明されたも同然なんだよ」
カカオは俺が何を言っているのかまだ理解出来ていないようだ。だから俺は判り易く自分の耳を指差して言ってやることにした。
「盗聴してるんだろう? 俺たちのボイスチャットを」
「っ!?」
突かれた図星にカカオがその場から一歩後退した。
本当は盗聴者がカカオである確証はない。だが最も可能性が高いのはこいつだ。
ファンは性格的にそんな柄じゃなさそうだし、まだ姿すら見せていないガクシよりも、一番身近で状況に対応してきたのがカカオとカブラギだ。
敵チームのボイスチャットを盗み聞きするようなヴンダーが存在する可能性は、極めて低いことに俺は気付いた。
「このゲームはオンゲではあるが、別にボイチャ必須というわけじゃない。使わない奴はオフにすることも多い。まぁ使ったほうが有利なのは確かだけどな」
「……」
「つまり会話を盗聴するヴンダーなんて、システム上では使えないゴミ能力なわけだ。存在する可能性はゼロじゃない。けど、そんな通用するかも分からない能力を習得してる馬鹿はいない。だからお前の盗聴は、能力じゃなくチート行為の可能性が極めて高い」
カカオが諦めたように小さく息を吐いて肩を竦める。そんな悪びれる様子など、些かも感じさせない余裕が癪に障った。
「なぜ分かったのさ?」
「お前はカブラギに『今ならやれる』と言い、カブラギは『わかってる』と答えただろう? そんな根拠はどこにもなかった。つまり、お前たちは盗聴した内容から勝手に俺たちが無策だと判断したんだ」
俺はミモちゃんと合流する場所に向かっている間、『氷を用意すること』、『丘を利用して雪崩を引き起こす』という策をテキストチャットで伝えていた。それは盗聴では知り得ないことだ。だからカカオは不測の事態に対応できなかった。
「……なるほどね、策に嵌まったってのはそういうことか」
「それじゃ、もう決めさせてもらうぜ」
「ははっ、そんなに上手くいくかなぁ?」
カカオの捕球力は確かに高い。俺とミモちゃんのショットでは仕留めることは困難だろう。だがそれはあくまで、真正面から馬鹿正直に投げた場合だ。二対一のこの状況でなら方法はいくつかある。
例えば――。
「名付けて、インビジブル・スノウ」
俺は右手で地面に触れ〝磁力念動〟を発動させる。今回は引き寄せる方ではなく、反発し弾く方の能力。ちょっと恥ずかしいネーミングをしちまったぜ。
「ちっ! また小細工しやがって!」
地面から弾かれて盛大に噴き上がる雪が視界を覆う。同時に駆け出した俺は、カカオの側面から回り込むようにして距離を詰めた。
「くらえ!」
「舐めるな! ――ってハァ!?」
俺の手元を見たカカオが驚愕し、すぐに背後から迫る気配を察する。
「スフィアがない……囮か!」
雪の目眩ましを利用した連携、それに素早く反応したカカオは、腐ってもトッププレイヤーだけのことはある。だからこそ二の矢は準備しておいた。
「ザンネン、囮の囮なの」
「え?」
俺がスフィアを持っていると見せかけて、実はミモちゃんに渡していた。と見せかけてスフィア自体はちょっと空に投げて誤魔化していただけだ。
「――ぷげッ!!」
俺が投げたスフィアを後頭部に喰らい、カカオは雪原に倒れ伏した。尻を突き出したような無様な態勢で倒れていたのだが、これはこれで良い眺めである。うむ、これは良い尻だ。
「くっそォ――!」
俺とミモちゃんは軽くハイタッチを交わす。
「へーい!」
「やったの」
カカオに当たったスフィアが宙を舞い、それをミモちゃんが優しく受け止めようとした。しかし、その瞬間に視界の端で何かが動いた。
「……?」
ミモちゃんの手の中に収まるはずのスフィアが、いつの間にか消えていた。
そして、微かに吹いた風の先にそいつが立っていた。
「ガ、ガクシ……」
『プレイヤー・ガクシがリバウンドスフィアを確保しました。よって、プレイヤー・カカオへの攻撃は無効となります』
カカオを倒したと思ったことで油断していた。
「コガネ君、まさかここまで追い詰められるとは、僕も驚いたよ」
朗らかな笑顔の後ろに『ゴゴゴゴ』とかいう文字が見える気がする。バトル前とはまるで別人、それくらい威圧感を持った存在だった。
「ミモちゃ――」
俺の背筋が凍りつき、一瞬の判断に戸惑った時にはもう遅かった。
針の様に鋭い一撃が俺の脇をすり抜けていった。
「あうッ!!」
『プレイヤー・ガクシが敵一体を撃破しました』
「ごめんなの……コガネ」
ミモちゃんは最後にそう言い残して、空に上がっていった。
この場に残されたのは、俺とガクシとアウトを逃れたカカオ。形勢逆転されたわけだ。そして俺のWPはさっきの〝磁力念動〟を発動させた時点で空っぽ。
スフィアもガクシに取られちまってるし、ぶっちゃけ普通に戦って勝てる状態ではなかった。
――仕方ねえ。アレを使うしかないか?
「まだ何か隠していそうだね」
「さぁて、どうだろうな……」
奥の手を使えば少しは抵抗できるかもしれない。ただ、この状況では時間稼ぎぐらいにしか使えない上に、今の集中力じゃ失敗する可能性もある。
「――ッ!」
俺が判断に迷っていた隙を突き、ガクシがスフィアを投げてきた。
――やっべ!
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そして視界が暗闇に覆われた後、俺はバトル開始前の待機ルームに立っていた。




