第23話 一進一退の攻防
アウトになったファンの体が光となって空に昇っていった。
これで三対三、とはいえ厄介なファンを最初に潰せたのは僥倖だ。
というか、ファンの奴はサブマスの癖にやっぱ阿呆だったな。もう一手なにかを仕込まれていても不思議じゃなかったと思うが。
「ヒャハハ、まさかお嬢がやられるとはなぁ! なかなか面白い能力持ってるじゃねえか!」
「余裕こいてると、お前も同じ目に遭うぜ」
「ご忠告をありがたく聞いて一旦退かせてもらうぜ。ヒャッハ――!!」
そのままカブラギは全速力で来た道を引き返していった。まぁネオンも能力を一度使ってるし、無理に追わない方がいいだろう。
不気味なのはガクシともう一人。姿を現していない敵の存在だ。
トッププレイヤーの集まるチームだけに油断できない。
「ミモちゃん、敵の位置は?」
「五〇〇メートルぐらい南西の林に三人固まってるの」
「向こうも相談中か」
少しの間待っているとネオンが戻ってきた。
「お待たせしました」
〝帯電強化〟の再チャージが完了するまでは時間を稼ぎたいところだが、そこまで悠長に敵が待ってくれるとも思えない。俺はネオンから受け取ったスフィアを見つめながら新たな策を頭に巡らせる。
そして、あることを思いついた。
「あいつら有名プレイヤーなんだし、掲示板とかに能力晒されてんじゃねえの?」
「さく……コガネ君、それを調べるのは卑怯なのでは?」
「アホか、情報収集も立派な戦略だっつうの」
正義超人ネオンの言い分も理解できないわけではないが、対戦ゲームにおいて相手の癖を知ることや、キャラ対策をするのは卑怯でもなんでもない。そんな言い分をネットで口にしようものなら動画勢(実際にプレイしたことがない人)と揶揄されるのが目に見えている。
「コガネ、相手の能力についてのデータは探したけどなかったの」
「マジで!? 何でだよ……」
ヘッズベルでは相手の能力をネット上に晒すことは暗黙の了解で禁止されているのか? しかしゴリ達は晒されてたし、くそっ、よくわからん。
相手の能力は分からない以上、迂闊に接近したくはないがスフィアはこちらが持ってることで有利な状況だ。それにネオンの〝帯電強化〟のチャージが間に合わなくても、奥の手はまだ残してある。
「二人とも、このまま奇襲を掛けにいくぞ」
「そうね。ミモさんの能力がまだ使える内に勝負をつけましょう」
ミモちゃんの〝反響定位〟は一度の発動で最大三〇秒間、敵の位置を知ることができる。しかも能力レベルが上がったことにより、チーム全員にその情報が共有される。ただし消費WPが多いので、カンストを控えたレベル帯とはいえ、一試合に使える回数は五回が限度だ。既に二回発動させているので、残りは三回。
「行くぞ、ネオン」
「はい」
俺たち二人は敵のいる方角に向かって駆け出した。ミモちゃんは俺の合図を待って〝反響定位〟を発動させる手はずになっている。一人がスフィアを持っていられる時間は三〇秒が限度なので、ネオンと交互にパスを回しながら距離を詰めていく。
数分後、目的の林まで辿り着いた俺はミモちゃんに合図を出した。そしてすぐにマップを開き敵の位置を確認する。
「一五〇メートル先に二人、もう一人はそこから五〇メートルほど東にいる」
「定石通り離れている一人を狙いましょう」
「オーケー」
俺とネオンはギアを上げたように走る速度を上げて林の中を駆ける。そのまま俺たちは敵を挟み撃ちにする形で二手に分かれた。
――見つけた!
孤立していたのは先ほど逃げていったカブラギ。まだこちらに気付いてはいない。そしてすぐさま反対側を走るネオンが注意を引くために声を発した。
「はぁ――ッ!!」
「ッ!?」
ネオンの声に反応したカブラギだったが、スフィアを持っているのは俺だ。俺はガラ空きになったカブラギの背中めがけてスフィアを全力で投げた。投擲力にステータスを多く振っているカブラギなら、この状況で俺のショットを捕球できないはず。
――もらった!
「よっと」
「なッ!?」
俺の投げたスフィアがカブラギの背中に当たる直前、木の陰から現れた人物がスフィアを掴み取っていた。しかもあろうことか、軽々と片手のバックハンドキャッチでだ。
「あっぶな、ギリギリセーフやん」
その人物は俺たちがまだ見ぬ四人目の敵プレイヤー。褐色の肌に綺麗に切り揃えられたセミロングの金髪、そして黒いジャージ姿の糸目女。キャラクターネームは〈カカオ〉。
カブラギは囮だった。捕球力の高いこのカカオにインターセプトさせるため、わざと少しだけ離れた位置に置いてたってわけか。
「ネオン! 離れるぞ!」
まだネオンの〝帯電強化〟のチャージは終わっていない。カブラギのショットに対応するのは無理だ。そう思いその場から逃がそうとしたが時すでに遅かった。
「ヒャハッハ――ッ!!」
カカオからスフィアを受け取ったカブラギが、ネオンに向かって全力投球を放っていた。風を切り裂くような豪速球がそのままネオンの腹部に直撃する。
「きゃっ――ッ!!」
「ネオン!」
「コガネ君……ごめんなさい」
謝罪の言葉の直後、ネオンの身体から光が迸り天へと昇っていた。
『プレイヤー・カブラギが敵一体を撃破しました』




