第22話 vs赤き制裁
〈バトルフィールドへ転送します〉
音声ガイダンスの直後、待機ルームにいた俺たち四人は一斉にバトルフィールドへと転送された。今回のフィールドは雪原。一キロ四方のマップには林や小高い丘、そして凍った湖が配置されており、廃墟などと違い身を隠せる場所はさほど多くないようだ。
「参ったな、俺の磁力念動が活かしづらそうな地形じゃんか」
ちなみ今さら説明することでもないかもしれないが、俺がこのヘッズベルを始めた際に習得した特殊能力であるヴンダー・〝磁力念動〟と〝軌道〟は、レベルカンストを控えた今もそのまま使っている。というより、課金をしなければ途中変更ができないクソ仕様だった。ならばなぜ変更していないのかと訊かれれば、その理由は大きく分けて二つある。
一つは課金による変更をしても、自分の欲する能力が得られる可能性が低いこと。それは数百種類はあろうかという能力の中からランダムで決まる仕様の為だ。
二つ目の理由は簡単。俺はこの二つの能力が、非常に応用力が高く使い易いと思ったから。ちなみに同じ理由からミモちゃんも未だに〝反響定位〟を使い続けている。
このヘッズベルというゲームにおいて、特殊能力は確かに重要なものではある。中には強力無比な能力もあるだろう。しかし強力であればあるほど、ネタが割れた時にはそれ相応の弱点も発生する。それよりはバレてもなんら不都合が生じない能力の方が良い。あとはプレイヤーのテクニック次第というわけだ。
「皆、始まるぞ」
俺はチーム全員のステータスウィンドウを開き最後の確認をする。
そして審判ロボであるベルがバトル開始のカウントダウンを始めた。
〈3、2、1――ヴェット・シュピール(戦闘開始)!〉
直後、上空から飛来するスフィアの落下予測地点を目指して、俺たち三人が雪原を駆けていく。
「ミモちゃん! 早速だけど頼む!」
「アイアイサー、なの」
俺の指示に従いミモちゃんが〝反響定位〟を使用。これで敵全員の位置がマップに表示される。このヴンダーを使用している間、ミモちゃん自身は移動不能になるが、どうせ敵はまだ遥か遠方、なんら問題ない。
「見えました!」
横を走るネオンがスフィアの落下地点を指差す。フィールドマップのちょうど中央だ。
俺とソウスケは是が非でも先にスフィアを確保するべく走る速度を上げた。
が、しかし――。
「はッ!?」
「何が起きたんだい!?」
赤い影が見えた。その影が一瞬にしてスフィアの落下地点を過ぎ去り、さらに勢い余って俺と宗介の間を駆け抜けていった。
「ハハッ! おっそいのう!」
スフィアをブレーキ代わりの様に地面へ擦り付け反転したそいつは、嘲笑と共に俺たちの前にその姿を晒した。
「ファン……」
「お前ら遅すぎて欠伸がでよるぞ」
いくら何でも速過ぎるだろ。こいつのヴンダーか?
スフィアを人差し指に乗せて不敵に笑うファン。マップを確認する限り、他の敵はまだこちらに向かって走ってきている途中のようだ。明らかにファンだけが異常な速度で接近してきた。しかしヴンダーを使っていないとするならば考えられる他の可能性は――。
「お前……まさか俊敏性にステータスを全振りしてるのか?」
「ご名答じゃ」
自らの特性をあっさりと認めたファン。
確かにチーム戦である以上、特化型のステータスにすることは別に不思議じゃない。だがそれは逆に投擲力と捕球力を捨てたことになる。
「だったら!」
俺はスフィアを奪い返すべくファンに向かって走った。投擲力が初期値であれば零距離でも捕球できる。
「残念だったのう」
そう言いながらファンは俺に背を向けてスフィアを空高く放り投げた。
「――ッ!」
「ヒャッハー! ナイスだぜぇ、お嬢!!」
そのスフィアを空中で掴み取ったのは野獣の様な風体をした男だった。全身の赤毛を逆立てた牙獣型のアバター男。キャラネームは〈カブラギ〉。
俺たちがファンに気を取られている間に接近をしてきた敵の一人だ。
「オラァ――!!」
カブラギはそのまま全力でスフィアを投擲した。しかしそれは俺でもなければ宗介でもない、少し離れた場所にいた音遠でもない。
「ミモちゃん避けろ!!」
いまミモちゃんは〝反響定位〟を使用しているせいで動けない。
「ヒャッハー! もう間に合わねえよ!!」
カブラギが投げたスフィアが、超スピードでミモちゃんのいる位置まで飛んでいく。その威力を見る限り、カブラギは投擲力にかなりのステータスを振っているプレイヤーだと分かる。ただしこの場所まで到達した足の速さから、ファンのように完全に特化させたわけではない。それでも動けない今のミモちゃんを仕留めるには十分な威力は有していた。
ミモちゃんが今から能力を解除してもおそらく回避は間に合わない。いきなりチームの眼を潰されるかと思ったその刹那――。
「安心したまえ、妹はやらせないさ」
その言葉の直後、ソウスケがその場でヴンダーを発動させた。
ソウスケの持つ能力は〝交換転移〟。自分のいる位置と他プレイヤーのいる位置を入れ替えるというものだ。
能力発動によって青白い光を放ち、その場からソウスケが消え、変わりにミモちゃんが姿を現した。そして直後に審判ロボのアナウンスがフィールドに響き渡る。
『プレイヤー・カブラギが敵一体を撃破しました』
「は?」
あの阿呆、かっこつけといて結局スフィア取れてないじゃねえか!
「順番は変わったが、まず一人アウトだのう」
ニヤリと口角を引き上げてファンがほくそ笑む。そしてすぐさま俺たちを置き去りにしてスフィアを取りに駆け出した。
「ちっ!」
「ヒャッハー! お嬢には誰も追いつけねえよ! このまま一人ずつ嬲り殺しだぜぇ!!」
カブラギもその後を追い走り出す。こいつらの連携はかなり厄介だ。足の速いファンがスフィアを確保して、ショットの威力が高いカブラギが攻撃をする。単純だが型に嵌まればずっと俺のターン状態を維持できる。
――でもな、もしもファンより速い奴がいた場合、その戦術は意味を成さないんだよ。
「ネオン! いい加減にもう溜まってんだろ!?」
「任せてくださいッ!」
ファンの移動速度を例えるなら音速。しかしネオンの真の速力はそれを凌駕する。
瞬間、全身から紫電を迸らせたネオンが、雪原を光の速さで駆け抜けていった。
「う、嘘じゃろ!?」
ネオンのヴンダー能力は〝帯電強化〟。
この能力は他のヴンダーと違いWPの消費がない特殊な能力だった。いわゆる他のゲームいうところの常時発動型スキルにあたるもので、ネオンが走った距離によってキャラクターへ電力が蓄積されていき、そのエネルギーを使用することで身体能力が向上する能力。かなり強力な部類の能力だが、一度電力を放出すると再チャージまでに必要な走行距離が伸びるという弱点もある。
三〇〇メートル近く離れた場所にいたファンを抜き去り、ネオンは転がっていたスフィアを掴み取る。あまりの速さに駆け抜けた地面から、雪が真っ白な粉塵となって舞っていた。
「残念でしたね」
ファンの前に立ちスフィアを構えたネオンが微笑む。先ほど調子こいた発言に対する、音遠なりの意趣返しといったところだろう。
「ひっ――ちょ、ちょっと待っだばッ!!」
ネオンは逃げだそうとしたファンの背中にスフィアを投げつけた。
『プレイヤー・ネオンが敵一体を撃破しました』
「試合展開はえーな、おい」




