第17話 四人目
隔日更新になると言ったな。あれはウソだ。(書けたら投稿するスタイル)
「まずいだろそれ……」
「まずい……ですね」
大会まで一ヶ月を切ったある日。俺と音遠は放課後の図書室でうなだれていた。
「お前なぁ! そういうことは事前に調べておくだろ普通よぉ!」
「ご、ごめんなさい」
俺がテーブルに手をついて、ガミガミと叱責を浴びせているのにはちゃんと理由がある。
一ヶ月後に迫った試合で、俺とミモちゃんはレベル上げを順調にこなし、大会までには余裕でカンストし間に合う。にも関わらず――。
「大会には四人一組じゃないとエントリーできないだぁ!? 今からもう一人集めるなんて無理だろ普通に考えて! 無理無理無理!」
「だから謝ってるじゃないですか……」
そう言いながらも音遠は俺から目を逸らしている。
「謝って済むか! ねぇ、どうしてくれんの!? 一〇億だぞ!?」
「今から……探します」
学校では超優等生で通っている音遠がこの体たらくである。こいつ社会に出たら意外と使えない奴だったりするのかもしれん。
「あぁ、もうとりあえずの頭数合わせでもいいんだよ!」
「それは無理ですよ! 万が一負ければ強制労働なんですよ!? おまけに賞金も全部あなたが持っていくとなれば簡単に協力してくれる人なんていませんよ!」
椅子に背を預けて、天井を見上げた俺が大きく溜め息を吐き出す。まるで魂まで抜けていきそうなほど深い溜め息だ。
「……一人、駄目元で頼んでみるか。あまり気が進まないけど」
「アテがあるんですか!?」
本当に気が進まない。その上、戦力になるかと聞かれればかなりビミョーなんだよなぁ。
「もう家に帰ってる頃だな。仕方ないから直接乗り込もう」
「の、乗り込むって、借金取りじゃないんですから……」
俺は音遠を連れ立って、とある一軒家へとやってきた。
三階建ての無駄にでかい家だ。車庫には高級車が二台も駐車してある。この豪邸に来るのはかなり久しぶりのことだった。あまり正確には覚えてはいないが、大体三年ぶりぐらいだったろうか。
本当に気が進まないのだが、仕方なく俺はインターホンを押す。すると、インターホンから若い女性の声が聞こえてきた。
『はい、どちら様でしょうか?』
「こんにちは、桜庭と申しますが、宗介くんはご在宅でしょうか?」
『宗介様のお友達の方ですね。少々お待ちください』
礼儀正しい声の主がそう言ってから数分後、家の門から無駄に離れた玄関の扉が勢いよく開かれ、物凄い勢いで俺たちの方へ男が走ってきた。
「やぁ! コガネ君!! まさか君が僕の家を訪ねてきてくれるなんて想定外だ!」
「よ、よぉ……」
相も変わらずウザったらしく、前髪をなびかせて出てきたのは樺山だ。名前は忘れたと言ったがあれは嘘で、こいつの本名は樺山宗介という。まさか俺もコイツを頼ることになるとは思わなかった。
「さぁ、久々にゲームを一緒にやろう! って、天驚院さん!?」
「ごきげんよう、樺山くん」
音遠は恭しく頭を下げる。その様子に樺山は状況の把握が出来ていないのか、目を丸くしていた。樺山はここらでは有名な樺山酒造の長男で、この豪邸を見ればわかる通り金持ちだ。しかし、それでも天驚院財閥とは次元が違うせいか多少うろたえていた。
「あー、今日はちょっと頼みがあって来たんだが……」
「珍しいな、君が僕に頼み事なんて。まぁとにかく此処じゃなんだし、僕の部屋に案内しよう」
「そうか、それじゃお邪魔させてもらうわ」
そして俺と音遠は樺山邸へと導かれた。その途中で樺山と音遠はペラペラと益体の無い話をしていた。その会話の中で、「僕の部屋は狭いけど笑わないでくれよ」などと音遠に聞かせていたが、導かれた樺山の自室は俺の安アパートの一室の三倍はあろうかという広々空間でイラっときた。いや、以前に来たことがあるから知ってたんだけどね。
「まぁ掛けてくれたまえよ」
樺山の部屋はとにかく全ての物がデカかった。デカいテレビモニター、デカい高級そうなソファにテーブル、デカいデスクトップパソコン。他にもボトルシップだの、フィギュアだのプラモデルなどが、ディスプレイケースに並んでいた。
「相変わらずスゲーコレクションだな」
「ははっ、僕はゲームもアニメも大好きだからね。それらにまつわるグッズを集めるのも趣味のひとつさ」
音遠はそれらが珍しいようで、棚を眺めながら何故か頬を赤らめていた。って何で?
「どうした?」
よく見ると棚に並べられていたのはエロゲーのパッケージ群だった。隠せよ。
「それで頼み事というのは何なんだい? 天驚院さんも一緒というのが、僕は非常に興味深い状況だね」
前髪ファッサーしながらカッコつけてるけど、お前のエロゲコレクションを女子に見られてるからね? 性癖が姉萌えなのバレてるからね?
「お前ヘッズベルをプレイしてたよな?」
「お!? 遂にコガネ君もやる気になってくれたのか!」
「まぁ……間違っちゃいない」
そうして俺は事のあらましを樺山に話した――。負ければ社会的に抹殺されてしまうリスクがあること、賞金のすべてを俺が貰うことも全て包み隠さずに話した。ここに来るまでは正直な話、大事な部分を隠して騙そうかとも考えたりしたが、そんな事は正義の塊である音遠が見過ごすはずがないし、何より俺自身がそれだけはやってはならないことだと思った。
樺山は俺の話を、意外にも真面目な顔で黙って聞いていた。そして全てを聞き終えた後、おもむろにソファから腰を上げ、いつにも増してキレのある動作で前髪をファッサーと上げた。
「コガネ君」
「あ、あぁ……」
「僕は感動したよ――。まさか君にそんな過去があっただなんて。この漢・樺山宗介が君の為に一肌脱ごうじゃないかァ!!」
マジかこいつ……。いや嬉しいんだけど、何か逆に超不安になってきた。それは俺がミモちゃんや樺山の人生、果ては命に関わる大問題に巻き込んでいるという罪悪感を再認識したからだ。俺一人なら人生を懸けての勝負事として受け入れることができる。音遠は彼女自身から言い出したことでもあるし、それほど気に病むこともないが。
樺山はぶっちゃけ阿呆だ。事の深刻さが正確に捉えられていない可能性もある。
「本当に分かってるのか? 負けたら人生終わりなんだぞ?」
俺の問いかけに樺山は表情を引き締めて向き直った。
「コガネ君、僕は本気だよ。それが何故だか解かるかい?」
「いや全然わからん」
「ふっ、それは僕が君のことを好きだからだよ」
「心底気持ち悪いわ!!」
何? こいつ今まで俺のことそういう目で見てきたわけ!?
「美しい友情ですわね」
音遠はエロゲ棚を眺めながらそう呟いた。
「ちっとも美しくねえからッ! 面と向かって男に告られた俺の身にもなれよ!!」
「いやいや勘違いしないでくれよ。そういう意味で言ったんじゃないから。天驚院さんの見ている棚が僕はノーマルだと物語っているだろう?」
「姉萌えは果たしてノーマルと言えるのか……?」
しかし樺山の性癖を見る限り、俺の誤解のようで安心した。ということは、音遠の言う通り友情による協力と捉えていいのだろうか。どうにも腑に落ちないのだが。というのも、俺は確かに樺山と多少の親交があるものの、人生を懸けたゲームに参加してくれるほどの大親友と呼べるほどではないからだ。少なくとも俺はそう思っていた。
「覚えてないかもしれないが、コガネ君は僕にとって永遠のライバルなんだ」
「ライバル?」
「君は昔からゲームがすごく上手かっただろう? そう、あれは三年前、僕らがまだ中一の時だった――」
樺山は窓の外、沈みかけた夕日を眺めながら過去の思い出を語りだした。が、俺は音遠が棚からエロゲ箱を取り出して、中身を見だしたのが気になり過ぎて樺山の話を総スルーしていた。
「――というわけさ(ファッサー)」
「こら、やめなさい! 女の子が見るもんじゃありません!」
「あぁ! 桜庭君、意地悪しないで!」
「人の家に来てエロゲ漁るお嬢様がどこの世界にいるんだよ!」
俺はすがりつく音遠から、箱を取り上げて棚の中に戻した。誠に信じられないことだが、音遠はエロゲにただならぬ興味を惹かれているようだ。
ちなみに樺山の話を要約すると、「昔に流行ってたオンゲで俺に負けたのが死ぬほど悔しくて、終生のライバルであることを勝手に決めたので、自分が勝つまでに俺が別の誰かに負けることは許さない。だから今回の件で協力する代わりに、君への挑戦権を要求する」のだそうだ。
心底どうでもいい過去と理由だった。こいつやっぱり真正の阿呆だ。
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