264 新人ローテーション研修 攻略サポート編38
「まぁ、言いたい事は色々あると思うけど、まずは話を聞いてね」
カワセミの言葉は主に新人のうち、真面目に色々と装備を考えた二人に対して。
まぁ、実際のところはドラ子自身も高得点の理由がイマイチ分からず、困惑気味ではあったのだが。
「確かにドラ子ちゃんの装備は、ダンジョンに挑むにはラフ過ぎるわよね。でも一応聞いておくと、その長い棒って何に使う用?」
ドラ子の装備の中でも一際目立つ長い棒の用途を尋ねられ、ドラ子は悩む事無く答える。
「なんか、怪しい場所とかあったら『ソイヤッッ』って突いてみたり、ジャンプじゃ届かない所に『セイヤッッ』って上ったり、あとは敵を見つけたら『ドッセイィ』と遠距離からぶっ叩いたりする用です」
「うん、だいたい想像通りで良かったわ。突拍子もつかない用途なんじゃないかって、少しだけ不安だったから」
長い棒の用途などそれくらいしかないとは思うが、ドラ子はたまに想像を越えるのでカワセミはホッとした。
「まあ、言っているとおり、ドラ子ちゃんの考え方は、未知のダンジョンで罠やギミックをとりあえず手当たり次第発動してみる、みたいな装備よね」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ! そんなことしたらマトモな攻略にならないじゃないですか!」
カワセミの説明に、当たり前のツッコミを入れたのはビッグ天丼の方だ。
つまるところ、ドラ子は罠やギミックを解析する気が無いのだ。
落とし穴だろうが、毒針だろうが、迫る天井だろうがなんだろうが、とりあえず手当たり次第に罠を起動し、ギミックの種類も分からず、とりあえずボタンを押してみる。
まぁ、困惑はあるだろう。普通は罠を解除したり避けたりしながら、慎重に進むのがダンジョンである。
そんなことをやっていては、マトモにダンジョンを進めるかも怪しい。そんなことが分からないカワセミではないはずだと天丼は思うが。
「確かに攻略ならそうよね。でもこれは調査なの。そして私達と、普通のダンジョン攻略者には一つ大きな違いがある」
「それは?」
「私達は、アバター再生成式の限定ダンジョンに入るわけだから、命の価値が軽いのよ。罠に掛からないに越した事はないけれど、罠にかかって死んだり、進めなくなったとしても、それほど困ることはないの」
「それは、たしかに……?」
そこがある意味一番重要なポイントだった。
初日の目的は、ダンジョンの攻略ではなく調査である。
ある程度ダンジョンの『ツボ』を計るために今日は潜るのであって、慎重に、詰まないように進むことはあまり重要視されていない。
言わば今日は、ダンジョンの先遣隊として情報を残して死ぬ、みたいな役割だと言って良い。
もちろん、これが自分の命がかかっている異世界の冒険者ならば、マイマイやビッグ天丼のように可能な限り装備を整えるだろう。
だが、命が軽い状況なら、ひたすら身軽になって、とりあえず進めるだけ進んでみて途中で死ぬ、というのを何回も繰り返す方が効率的な可能性もあるのだ。
「一応長い棒を用意したのは、多少の罠なら発動しても射程外に逃げられるようにだと思うし、ドラ子ちゃんならゴテゴテした装備なしの素手でもそれなりに戦えると思う。調査という一点を考えたら、かなり効率的な装備でもあるのよね……」
もちろん、調査の過程でほぼ確実に死ぬことと、死んだ場所の情報を元に、その地点の対策装備を都度考えること、などがセットの考え方にはなる。
だが、その辺りを考慮すれば、一々ギミック一つ一つに対処する必要がなくなる、という利点は確かにあるのだ。
単純な話、生還を考慮しなければ、行きの装備だけで良いのである。
「でも100点ではないんですよね?」
「それはねぇ」
と、ある程度カワセミの語る利点を理解した上で、マイマイが素朴な疑問をぶつけていた。
ドラ子の装備に利点があれど、満点にはならない。
結局そのあたりは対応力と時間効率でトレードオフなのかな、とマイマイは考えた。
「ドラ子ちゃんの装備でも、だいたいのダンジョンは問題ないとは思うんだけど」
「思うけど?」
「ダンジョンが狭かったら、そもそも棒を持ち運べないのよね」
「あっ」
それは、無視するにしてはやや大きめの問題ではあった。
今回のダンジョンはその全容が知れていない。
当然、どのようなタイプのダンジョンなのかも分からないわけで、仮にそのダンジョンが狭い洞窟型だったとすれば。
狭く入り組んだ道で、数メートルの棒など持ち運べるわけがない。
どっかにガコンガコンとぶつかって、進めなくなる未来が待っているだけだ。
そうなったとき、ドラ子はただの、素手の一般ドラゴンである。
「まぁ、ドラ子ちゃんに限って言えば、その状態でも並の中堅冒険者くらいの働きはしてくれると信じているけれど、出来る事なら、選ぶ棒は──例えば伸縮自在の棒とかそういう選択ができれば良かったかもね」
「くぅ! 長ければ強いと思ったばっかりに!」
ドラ子は当たり前の減点を食らって悔しそうに呻いていた。
ちなみに、ドラ子が今持っている棒を選んだ理由は、なんか立てかけてあった中で一番長くて感触が良かったからである。
別に色々考えて選んだ訳では無い。
「というわけで色々言いましたが、みんなの考え方は悪くないですし、このままチャレンジしてみるのもアリかなとは思ってます、どうする?」
「うーん」
「どうと言われると」
「ちょっとだけ、不安になるかも」
カワセミの言葉に、お墨付きとは言わないまでも合格点を貰った三人は悩む。
可能な限り、問題無さそうな装備を選んだつもりではある。
それこそ、ドラ子とマイマイ達の装備を組み合わせれば、お互いの足りない部分を補ったりして、思っている以上に良い感じの調査ができるかもしれない。
そう思ったところで、ふとドラ子の頭に興味という花が咲いた。
「ところでメガネ先輩。さっきから訳知り顔で黙ってますけど、先輩だったらどうするんですか?」
「俺?」
それは、新人達が研修を受けているのをぼんやりと眺めていた先輩に対しての疑問。
ドラ子の知る限り、色々とダンジョンについて知っているこのメガネであれば、もしかしたらカワセミをも唸らせる満点以上の回答を出すのではないか。
ここまで来て、メガネの特異な部分をなんとなく理解しているマイマイとビッグ天丼も、ドラ子の問いかけにそっと耳を傾けていた。
そしてなにより、肝心のカワセミもまたメガネに興味の視線を向ける。
「確かに、先輩だったらどうするのかって部分は、私も結構興味はありますね」
「どうって言われても、なぁ……」
メガネに言わせると、難しいといえば難しい問題だった。
何せ、このメガネ、そもそも様々な道具を状況に考えて持ち込むという考えが、あまりない。
その辺にあるもので、どうとでも出来るから。
必要なものが足りなかったとしても、どうとでも出来るから。
そういう意味では『なんでも入るリュックに全てを詰めて行く』みたいな身も蓋もない回答が、一番正解に近くなってしまう。
そんな回答は流石に問題だろうとメガネも思ったが、そうなるとメガネとしては『もう一つの回答』しかなかった。
個人的にはそちらの方がよほどスマートだと思える回答は、こうだった。
「そんなふざけた条件で案件ぶん投げて来た担当者を捕まえて、どうしてダンジョンの資料が用意されていないのかと理詰めでボコボコにしたうえで、必要な資料を提出させる、とか?」
「多分研修とかで一番やっちゃいけない選択なんですよ」
それを言われたらおしまいであった。
だが真理でもあった。
そもそも、攻略サポートの基本は出来上がったダンジョンの試験のようなもので、調査から始めるのはまた話が違ってくる。
例えるなら、試験範囲を明らかにしないまま『それを調べるのも試験だ』とかいって、いきなりテストを出してくる教師のようなもの。
そこに正当な理由がなく『調査からやって欲しかったから』などと言おうものなら、サポートの意味を履き違えるなとキレるのも当然である。
というか、それをやって欲しいのなら、きちんと必要な時間と報酬を用意するのが当たり前である。
その前提を破るというのは、同じ金で倍のサービスを要求するようなものなのだから。
こちらも慈善事業でやっているわけではない。メガネは割と真剣にそれで相手をボコボコにできる自信があった。
まぁ、それを攻略サポート部ができるかと言われたら、また別の話になってしまうわけだが……。
「メガネ先輩、120点満点優勝です」
「カワセミ先輩!?」
そんな答えを聞いて、カワセミがちょっと危ない目で高得点を付けていたので、この部署本当に大丈夫かな、と新人達は更に思った。
営業がそういう適当な案件で仕事を取り、攻略サポート部員が適当な装備で攻略してしまうという悪循環




