263 新人ローテーション研修 攻略サポート編37
「それでは、一応研修ということで今回もみなさんには、自分たちの装備を考えてもらいましょうか」
攻略サポート部の備品置き場に到着したのち、カワセミは先日と似たようなことを言った。
前回は、初心者らしい装備を考えるという課題だったが、今回はどういったものか。
そう問いかける新人達にカワセミは続ける。
「さっきも言った通り今回の初日は調査が目的です。自分が未知のダンジョンの調査班になったつもりで、なるべく対応の幅の広い装備を用意してみてください」
「了解です」
「はい」
「わ、わかりました」
相変わらずの三者三様の返事をしたのち、ドラ子達は特に相談することもなく各々で考え始めた。
前回採点があったことを考慮し、また三人で競い合うつもりかもしれない。
その様子を微笑ましく眺めたあと、カワセミはそそっと傍観を貫いているメガネに話しかけた。
「先輩。ちょこっとだけ相談が」
「なんだ?」
一応研修を受ける側のメガネであるが、当然のように新人達の列には加わっていない。
そして、それに文句を言ってくる者も、もはやここには居なかった。
そんなメガネは、新人達を気にしつつも、やる事がないのでカワセミへと目を向ける。
「このダンジョン、攻略サポートどこまで真面目にやります?」
「うーん。ぶっ込んだなぁ」
研修生達には聞かせられないような、裏側の話である。
もちろん、理念を言うならばどこまでも真面目に攻略サポートをする必要はある。
あるのだが、まぁ、今回は場合が場合だ。
真剣にサポートをする姿勢は大事だが、それでメガネの方で何か動きにくくなったりといったことがあったら、それはそれで困るだろう。
「基本的には、真面目にサポートをする姿勢を貫くで良いだろ。そもそも、ダンジョン側に見るからに穴がありそうだし、真面目にやったところで問題が発生して業務が停止する未来が見えるくらいだ。そんとき適当にこっちで動くよ」
一応、新人達には上手い事攻略サポートの悲しさを説明したつもりだが、はっきり言えば今回のダンジョンは、呆れるほど未完成の可能性が一番高い。
業務上の理由で攻略サポートを停止することもあるし、研修途中で色々と指摘をし、それが反映されるまでの待ち時間が発生することも考えられる。
メガネとしては、そういうダンジョンに入れないような時間ができてくれれば、自由に動き易くなるので万々歳といったところだ。
無かったら無かったで、勝手にどうにかするが、無理に『裏の目的』のために動くよりは、真面目にやって真面目に身体が空く方が都合が良い。
「じゃあ、本気でやる感じですね」
「ああ。ただ、あくまで新人の研修ってことも忘れずにな」
「それは、はい」
カワセミにとってメガネの目的に協力するのは当然だが、それで新人達をないがしろにするつもりもない。
そもそも、カワセミが積極的に何かをしなければ何も動けないほど、メガネの能力は低くない。
この先輩が大丈夫だと言うのなら、それを信じるのがカワセミであった。
「では、ここから真面目に考えるとして、どういう装備を整えてきますかね」
お仕事の話を終え、お仕事の話に戻る。
ビッグ天丼とマイマイの二人は、探索という作業を真剣に考え、頭の中で起こりうる冒険をイメージしながら、必要なアイテムをリストにまとめている様子。
一方のドラ子は、とりあえず備品を眺めて、これはこういう時には使えそう! みたいなアイデアを重視する方向のようだ。
どちらが優れている、とも言わないが、メガネはそれを見てふと思う。
「ドラ子あいつ……攻略技術者受けた筈なのに、なんでその辺りの知識をまるで習得できてないんだ?」
「あ、あはは」
メガネとて、ドラ子がどういう経緯で資格を取ったのかは理解しているが、それはそれ。
攻略技術者試験とは、まさしく今のような設定(ダンジョン内の情報無し)状況で、どんな装備が必要なのかを問われる試験なのに。
まぁ、あっちの場合は、自前の特殊能力とダンジョン改変能力も問われるので全く同じではないが、それにしたってだ。
ふんふんと頷いている『水蜘蛛』とか、一体なんに使うつもりだ。いや、使い道は一つしかないのであるが。
間違って取得したとはいえ、資格を取った以上はそれに見合った能力を見せて欲しい思うメガネであった。
「とういわけで、装備は揃いましたね?」
やや時間を置いて、ついに新人達は探索用の装備を整えた。
こう言ってはなんだが、その姿を見て前回の焼き直しのような感覚を覚えたのは、カワセミだけではないだろう。
ドラ子以外の二人。
マイマイとビッグ天丼は、お互いに相談した筈も無いのに、結果的には似たような装備を身につけていた。
そしてその姿は、どことなく攻略技術者試験の受験者たちを思わせる。
つまりは、ガチガチにアイテムを詰め込んだリュックを背負った、冬山登山者もかくやといった感じの装備であった。
じゃらじゃらとリュックには小物がぶら下げてあり、方位磁石やコップ、カラビナにアンカーなんかも用意してある。
更衣室はないので服装は変わっていないが、もし服装にまで拘るのなら、ガチガチの迷彩服まで用意してくれたかもしれない。
「うん、二人とも良く考えたね。探検スタイルとなったら、基本はそんな感じに落ち着くわよね。リュックの中身は、ロープや厚手のコートとかに、松明に非常食とか、そういう感じかな」
「どんな場所か分からないので、暑さや寒さ、乾燥や湿気にもある程度対応できるようにと考えました」
「道が繋がっている保証もないのなら、そういう移動も考慮しないといけないな、と」
真面目な回答であった。
模範的な回答でもある。
当然、ダンジョンで何が起こるか分からない以上、起こったときに備えてあれこれ準備をするのが正しい。
毒を使ってくる相手が居るなら、毒消しを予め用意しておくくらい正しい意見である。
まぁ、リュックの中身を改めてないのであれだが、80点くらいの備えはしていると見て良さそうである。
そう、そこまでを把握した上で、カワセミは改めてドラ子を見た。
彼女のスタイルは、新人二人とは全く趣を異にしていた。
「それで、ドラ子ちゃんのコンセプトは?」
「やられる前にやれです」
そう言ったドラ子の装備は。
そもそも、リュックを背負ってすらいない。
手に持っているのは、長さ数メートルに及ぶような長い棒が一本。
そして、厚手の長靴とゴム手袋を装着し、他はナイフを一本ポケットにしまってある。
まさに、裸一貫で無人島に放り込まれるならどうする? という質問に真剣に答えたみたいな装備であった。
「うん、ドラ子ちゃんにまた80点上げちゃおうかな」
「え!?」
「え!?」
「ええ!?」
言われたドラ子の方も驚いていた。
確かに優等生の回答としては、マイマイとビッグ天丼に軍配が上がるだろう。
特にそれが、秘境探索を目的としたものだったら。
だが、これがダンジョン探索となると、ドラ子の装備もあながち不正解と言えなくなるのが、難しいところなのだった。
ドラ子だから許された高得点




