262 新人ローテーション研修 攻略サポート編36
「前回は初心者ロールプレイということで、こちらで色々と職業で枷を課したわけですが、今回はそこまで遊んでいる余裕もないですね」
冒険の方針が決まったところで、今回の職業選択になる。
前回は、おどおどしたマイマイがタンク、理屈っぽいビッグ天丼がソードマン、そして前のめりのドラ子がヒーラーという構成だった。
だが、それは初心者ロールプレイの一環であり、適性があるとは言い難かった。
何度も潜っていれば慣れてくるとは言っても、限度はある。
そこで今回は、カワセミの目から見て恐らく適性があるだろう職業を割り振る。
「まず、マイマイちゃんには斥候をやってもらいます」
「せ、斥候ですか?」
マイマイに言い渡した職業は、斥候──所謂盗賊とかスカウトとかの属する職分だ。
やってもらいますと言われたマイマイではあるが、自分が斥候をやっている姿を上手くイメージできなかった。
「あの、私、どちらかと言うとヒーラーとかの方が。その、斥候は経験が無くて」
「経験がない、というのはやってみないと分からないってこと。それに私から見て、マイマイちゃんは斥候に向いていると思うの」
ほんの数日の付き合いではあるが、カワセミはその間に見知ったマイマイの特徴を口にした。
「まず、マイマイちゃんって周囲のことをとても良く観察してるよね。私やメガネ先輩の視線の動きとか、ドラ子ちゃんやビッグ天丼君の表情とか仕草とか。これは悪い意味じゃないの。今まで人の顔色を窺うとか、印象を薄くするとか、そういうことが多かったんだと思うけれど、それが注意深さや順応力に繋がってくると思うの。これって重要な斥候技能よ。冒険だけでなく、仕事をする上でもちゃんとした長所になると思う」
「わたし、そ、そんな風には」
「自分では長所と思えないかもしれないけれど、それがあったから、マイマイちゃんは大きな男女トラブルも無く暮らしてこれたはずよ。今までの複雑怪奇な人間関係を上手くこなしてこれたマイマイちゃんなら、モンスター相手の斥候なんてわけないわ。ずっと簡単よ。だから、私を信じてやってみてくれない?」
マイマイは、いつもの癖で周囲を窺うように見回してしまった。
最初に目に入ったドラ子は、うんと頷き親指をグッと立てる。
天丼もメガネも、心配そうな顔はしていない。
あと必要なのは、一歩踏み込む勇気だと思えた。
「──わ、分かりました。精一杯やってみます。その、メガネ先輩のようには行かないと思いますけど」
「あれは参考にしちゃだめよ。探知範囲が狭いだけで、やっていることは超一流と変わらないからね」
魔王城レベル20でできる動きという注文の上で、その満点を叩き出すのは普通ではない。レベル20くらいの奴はだいたい60点くらいが良い所である。
ちなみに、マイマイが自己申告していたヒーラーは、カワセミの見立てでは適性は半々というところ。
人の顔色を窺いすぎる人間は、実はヒーラーに向いてない。誰かに『回復しろ』と言われても『まだ早い』と突っぱねられる人間の方がヒーラー向きだ。
心優しい人間ではなく、自分がパーティの生殺与奪を握っていることを押し出せるエゴイストの方が合っている。
ヒーラーはパーティの柱なのである。周りの意見でグラグラしては困る。
もしマイマイが、自分の中に秘めていそうな攻撃性を押し出せるのならアリだが、まぁ、今回は一旦スカウトで様子見、というのがカワセミの正直なところである。
「次にビッグ天丼くん。君にはタンクをお願いします」
続いた指示に、ビッグ天丼もまた微妙な顔をした。
「僕こそ、ヒーラーとか魔術師の方が合っていると思うんですけど」
「残念だけど、多分そこ、そんなに適性ないかなぁって」
「え?」
ビッグ天丼の戸惑いに対して、カワセミはうーんと言葉を選ぶ。
「天丼君はね、普段はともかく、戦闘中とかは自分で思っているほど完璧な動きはできないと思うの。ヒーラーも魔術師も、ここぞというタイミングの『理不尽』にどう対応できるかが一番の鍵だから。君は普段の仕事でも、想定外のイレギュラー対応で頭が真っ白になる、みたいな経験あるんじゃない?」
「それは……」
「それは悪い事じゃなくて、人間誰しも当然のことよ。で、そこを努力で埋める事もできる。経験を積めば咄嗟の閃きが無くても対応できるようになる。でも今回は、そこをあえてタンクで経験して欲しい。冒険中にどんなイレギュラーが起きても『周囲』がなんとかしてくれる、そう信じて自分の仕事をする。そういうやり方、今の君には合ってると思うから。ソードマンだって、やってみたら悪くはなかったでしょう?」
「まぁ、はい」
だいたい、カワセミの見立てではそんなところ。
そこそこ優秀だが融通が利かないという、いかにもありがちな評価である。
そもそも、融通の利く新人というのが、一種のイレギュラーなのだ。基本的に新人は、分からないことが積み重なったら、すぐにキャパを越えるものだ。
そういう意味では、保守サポート部で本当に新人か? と疑われている白騎士もまだまだ甘い。
今回のような情報無しのダンジョンのヒーラーをやるには、経験不足。魔術師や弓をやるにも、咄嗟のタイミングでどこが要所となるかを見抜く勘はあるまい。
「だから今回は、人を信じる練習とでも思って、タンクで踏ん張ってみてくれない?」
「そこまで、言うなら、分かりました。お引き受けします」
交渉が揉める事無く済んで、カワセミは内心ほっとした。
さっきのヒーラーの話で言えば、エゴイストであっても、答えが頭の中で引けていない状態では何もできないのである。
この状況なら今は回復しなくても良い、あっちを優先、という咄嗟の判断は、どんどんと経験を積んで、いずれ手が届くようになってから考えれば良い。
これは、冒険だろうと仕事だろうと同じ事だ。
開発部に入っただけあって、自分の仕事をコツコツとできるのに適性があるなら、自分の仕事を淡々とこなすタンクという役割もまた向いているだろう。
「なんというか、カワセミ先輩は私らのこと良く見てくれてるんですね。どこかのメガネの人とは違って」
「俺も研修受ける側なんだが」
「あはは。まぁ、これでも研修担当だからね」
ドラ子の突っ込み待ちのような発言に、メガネは相変わらず仏頂面で答え、カワセミは苦笑いを返す。
新人教育を兼ねながら、研修を行い、更にメガネの仕事も邪魔しない。
今のカワセミはカワセミで、実は結構キャバがいっぱいだった。
とはいえ、あとの采配はもう悩むことはない。
「ドラ子ちゃんは。まぁ、適当に殴る役で」
「了解です!」
ドラ子。説明不要である。
あえて言うなら、別に魔術師でも良いってくらい。
ヒーラーやタンク、斥候などの補助系は致命的なまでに性格が向いていないが、攻撃職であれば何をやらせても合格点を叩き出す。
本人の性格に、戦闘時のセンス、イレギュラー発生時の勘の良さとどれを取っても申し分ない。まさに殴り合いの申し子。
ただし、周囲に気を配るとか、周りをフォローするとかに致命的に向いていない。
ゴブリンダンジョンのヒーラー役にて、まだ耐えられるだろと回復しないであっさり味方を落とすこと、数知れず。
だから、難しい事考えさせず、適当に殴らせる。以上。
新人の枠が決まれば、あとは消化試合となろう。
「メガネ先輩も今回は働いてもらいますけど、ヒーラーと魔術師、それか弓兵、どれがいいですか?」
「別にどれでもいいなぁ」
「じゃあヒーラーで。私は今回魔術師で楽させてもらいます」
「あいよ」
それで終わりであった。
そのやり取りを見ていたドラ子が、声を上げた。
「異議あり! メガネ先輩がヒーラーをちゃんとやれる保証がないと思います! カワセミ先輩の優しさヒールの方が良くないですか!」
「良い度胸だな。気に入った。ドラ子への回復は最後にしてやる」
「こういうこと言う人、ヒーラー向いてなくないですか!?」
「えっとね……」
ドラ子の主張に、やはりカワセミは苦笑いを返すことしかできない。
実際のところ、本当にヒーラーはこういう人の方が向いているのだ。
「てめえは黙って敵を殴ることだけ考えておけばいい。分かったな?」
「いててててて、ヒーラーが暴力振るうのは良いんですか!」
「俺は分かったかと聞いている」
「イエス! ボス!」
そして、見事ドラ子は握力でヒーラーの職業を分からされていた。
奇しくも、昨日の飲み会の時の横暴と、逆の構図なのであった。
なお、あくまで私見ではあるが、ヒーラーに必要なのは『みんなを癒します!』という慈愛の心ではなく『むかつく奴は適当に転がすから役割を果たせ』と言い切れる強さなのである。
徹底的な現実主義者が、データを見ながらヒールをぶん回すことの安心感といったら、半端ないのである。
「と、ちゃんとまとまった所で話を進めますね。とはいえ、本格的なロールプレイはあくまで調査が終わってからだからね。最初はみんな冒険者装備で行きましょうか」
ジョブについての割り振りを終えてから、今回のメインとなる探検用装備についてだ。
それを揃えるためにも、一行は再び備品室へと向かうのであった。
比較的一週間くらい投稿……
実際、ヒーラーは敵からも味方からもヘイトを買う大変な職業だと思うます




